全長20cmを超えるインコサイズのフライを、25m以上投げるために試行錯誤された怪物フライロッド。まだこのロッドで魚を釣っていないばかりか、キャストもおぼつかないのだが…最初の1尾への試行錯誤がこの上なく楽しい!
フライでビッグベイトシーバス
文◎滝 大輔
全長20cmを超えるインコサイズのフライを、25m以上投げるために試行錯誤された怪物フライロッド。まだこのロッドで魚を釣っていないばかりか、キャストもおぼつかないのだが…最初の1尾への試行錯誤がこの上なく楽しい!
筆者プロフィール
滝 大輔/『FlyFisher Magazine』『FlyFisher ONLINE』現編集長。つり人社入社時よりほぼフライフィッシングのみを担当し、『FlyFisher』編集長、映像編集室室長、デジタルコンテンツグループリーダーを経て、一周回って現職。仕事も趣味もフライフィッシング。フライ歴は30年近い。
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和氣恒久さんの手による怪物フライロッド
今年50歳になった。やっとフライフィッシャーらしい年齢になった、という気もする。
以前は出会うフライフィッシャーはみな年上だったし、集まれば「あそこが痛い、ここが調子悪い」と身体の不具合ばかり話す先輩方に囲まれていたが、今は自分より年下の友人もかなり増えてきた。
今は老眼鏡がなくてはイトを結べない。今までのようにガツガツとフライフィッシングを楽しめるのはおそらくあと20年もなく、釣り歴の折り返し点は完全に過ぎたと感じている。関係ないけれど、宮崎駿監督が「紅の豚」を作ったのが51歳の時だったそうだから、それはすごいことだ。
で、「今年買ってよかったもの」だが、フライフィッシングを始めて30年あまり。道具に限っていえば、新しいものを買わなくても充分楽しめる状態にとっくになっている。
「タキさんの使っている道具って、ふた昔前のものばかりですよね」とバカにされることもあるし、「タキさんの使っている道具って、渋くてかっこいいですよね」と言われることもある。
もちろん毎年登場する新製品は機会があれば積極的に試してはいるが、フライフィッシングは変化も小さく、現在でも竹ザオを愛好する人たちが一定数いるくらいで、逆に大きく変化したらフライフィッシングではなくなってしまうのではないだろうか。
実際、今年を振り返れば、欲望のままに買ってはみたものの、ほとんど使っていない、もしくは一度も使っていない、というものが20万円ぶん以上ある。今、これを書いている10年もののマックブックを買い換えるかどうか、もうひと月以上も悩んでるのに、それ以上の金額を、使わない釣り道具に罪悪感なく溶かしているという倒錯ぶりに自分でも愕然とする。
そもそも、この企画の裏側には「常に人間は成長しなければならぬ」というような考えが透けてみえて、あまり乗り気ではない。ドキュメンタリー映画の監督、マイケル・ムーアは「有限の惑星で無限の成長を望むのは自殺行為であることを認めなくてはならない」というようなことを言っていたけれど、はたして、毎年「よかったもの」を買う必要があるのだろうか……。
これがAWAKE 111750+。チタンフレームのトルザイトガイドまで装備した本気のロッドだ
屁理屈はさておき、ここでご紹介したいのは「AWAKE 111750+」。これは、『FlyFisher』の筆者で現在では大阪でボートフィッシングのガイドでもある、和氣恒久さんの手によるオリジナルロッドだ。全長20cmを超えるインコサイズのフライを、25m以上投げるために試行錯誤されたルアーロッドをベースにした怪物フライロッド。
ブランクには「Big Fly Big SeaBass」
フライというのは軽いので、ラインの重みでロッドをしならせて投げる、とはよく解説されることだが、逆に重くて大きな物体は投げることができない。しかし、「AWAKE 111750+」はこの原則に逆らい、どでかいフライでどでかいシーバスをバコ〜ン! と釣る夢をみるための、いわばイカロスの翼だ。
和氣さんにはチャートカラーで作りましょうか?とも提案されたが、オリジナルの蛍光ピンクでお願いした
が、ここで「買ってよかった〜❤️」と大声で言えないのは、まだこのロッドで魚を1尾も釣っていないからだ。それ以前に、まだちゃんと投げられてもいない。
AWAKEのデビューはこの冬。ビッグベイトでシーバスがまだねらえるかも、というギリギリのタイミングだった。
冬、東京湾ガイドボートの「シークロ」より出船。今年はいろいろ忙しくて、1回しか行けなかった
しかしいざ実際に使ってみるとラインが軽すぎて、まるで扱えない。よい場所で、非常によいタイミングで必殺のフライを投げるチャンスがあったのだが、まったくかすりもしなかった。
ボートキャプテンには「この状況でアタリがないというのは、タキさんのやり方がまったくダメだということです」とはっきり告げられ、あえなくゲームオーバー。そして、季節的にリベンジは来年に持ち越しとなってしまった。
普通サイズのフライを普通に投げて、普通に釣れた。これはこれで嬉しいのだけど……
これを投げればいけるのでは? というフライのアイデアはあるし、作ってもいる。玉砕したあの日以来、時間を見つけては自分なりに改造したラインと、妄想フライを仕込んで近所の多摩川でテストを繰り返しているのだが、今のところAWAKEで納得のいくキャストができない。
できるだけ重いラインを、ということで、リオ・スカジット・マックス・ローンチ750gr。これと組み合わせると、すばらしく飛ぶ。普通のフライなら
常識的なサイズのフライならば、驚くほどの飛距離が出せるところまでは簡単だった。でもそこからいざマグナムフライを付けるととたんに破綻してしまう。ラインのバランスが悪いのか、自分の投げ方が悪いのか、フライの空気抵抗なのか、重量なのか、よくわからなくなってしまった。
断捨離しなくてよかった〜。引退したラインを引っ張り出し、切り貼りして改造中だ
今、最新号の締め切り間近。それなのに、目覚めている時間の7割くらいはこのことを考えてしまっている。1日に2度テストに向かう時もある。「そんなものを投げるのなら、ルアーでよくね?」、「そんなでかいフライ、本当に必要なの?」といった雑音も入ってくる。
でもそうじゃねえんだよ。この試行錯誤のプロセスがフライフィッシングの楽しみの半分は占めているはずだ。自分は魚を釣りたいんじゃない、フライフィッシングをしたいんだ。
かくもひねくれた情熱を燃やす年末、あ〜楽し。
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