渓流釣りへ向かう林道の脇や、里川に続くあぜ道、堤防やサーフに隣接する松林など、釣りを楽しむ水辺から少し寄り道をして足元に目を向けてみると、そこには小さな愛すべき存在がひっそり息づいています。
キノコの種類とキノコ狩りの心得
解説◎牛島秀爾
渓流釣りへ向かう林道の脇や、里川に続くあぜ道、堤防やサーフに隣接する松林など、釣りを楽しむ水辺から少し寄り道をして足元に目を向けてみると、そこには小さな愛すべき存在がひっそり息づいています。道端から奥山までキノコを楽しむ単行本『きのこ図鑑』が好評発売中です。ここでは本書の導入部から、キノコを楽しむうえで必要な知識を抜粋して解説します。
牛島秀爾(うしじま・しゅうじ)
1980年生まれ、山口県出身。幼少の頃よりきのこに親しむ。日本菌類専門学校、鳥取大学農学部を経て、(一財)日本きのこセンター菌蕈研究所。博士(農学)。専門はハラタケ類とコウヤクタケ類の分類。夏から秋は一般向けのきのこ観察会などの講師を担当。鹿野河内川河川保護協会で渓魚と川の保護・保全活動に参加。日本特用林産振興会のきのこアドバイザー。
キノコとは
キノコは菌類
キノコはかつて隠花植物としてあつかわれ下等な植物のグループの1つとされていた。現在ではキノコは植物、動物と並ぶ第3の生物群の“菌類”に属するものと考えられ、近年の研究によれば菌類・キノコは植物より動物に近いことが明らかになっている。キノコの本体は菌糸
例えば身近な食材であるシイタケ、その本体は木材の中に細い糸状の「菌糸」という姿で広がり、材の組織を酵素で分解して栄養を吸収している。この菌糸こそがシイタケ本来の姿だ。キノコは植物の種子に相当する「胞子」を作って繁殖するが、私たちが食べている「シイタケ」はシイタケが子孫を残すために作った「胞子製造器官」である。このようなものを普段我々はキノコ(専門用語では子実体)と呼んでいる。植物に例えるならキノコは花に相当する。キノコは種類によって大小色々な形があり、胞子の作り方や胞子を拡散する方法も異なる。菌糸の集合体であるキノコは時にアスファルトを押しのけて生えてきたり、木造住宅を腐らせて倒壊させたりと、ものすごい力を発揮する。
本書ではイラスト付きで解説!
キノコの生活の違い
キノコは栄養の取り方の違いから「腐生」、「共生」、「寄生」の3つに分けることができる。
●腐生性のキノコ
腐生性キノコには、落葉などを栄養源とする落葉分解菌、シイタケやマイタケどのように木材を栄養源とする木材腐朽菌、ハラタケやヒトヨタケなど地中の腐植などを栄養源にする腐植分解菌があり、これらは森のごみの分解・還元者である。
落ち葉から生えるアシグロホウライタケ。
落ち葉の上で成長する菌糸。たくさん集まれば肉眼で容易に見ることができる。
枯枝から発生するアミスギタケ。
地中に広がるケロウジというキノコの菌系。
●共生性のキノコ
樹木の根に「菌根」を作り、キノコは樹木から光合成産物などを、逆に樹木は無機養分や水の吸収をキノコに助けてもらっている。このようなキノコを「菌根菌」と呼び、マツタケ、ヤマドリタケ、ショウロなどがそれらである。
若いクロマツと共生しているコツブタケ。このような砂地でもコツブタケのおかげで生育できている。
シロアリと共生するキノコもいる。沖縄県に分布するシロアリシメジはとても美味しいキノコの一つ。
●寄生性のキノコ
生きている生物に寄生して一方的に栄養を奪い最終的には殺してしまうキノコ。冬虫夏草の仲間(昆虫寄生菌)やタケリタケ(菌寄生菌)などがこれに該当する。
ヤグラタケ。クロハツの仲間に寄生し、宿主の傘に子実体を作る。
タケリタケ。Hypomycesという子嚢菌類がキノコに寄生している
キノコの数
日本のキノコは名前のついているものが約3千種だが、その総数は2~3倍以上はあると思われる。日々調査研究が進められ、毎年新種が報告されている。
キノコ食と利用
キノコは人間にとって有用な成分を含み、キノコを食事の中で取り入れることでより良いバランスの取れた食生活を送ることができる。マンネンタケや冬虫夏草の一部は漢方薬として使われてきた。シイタケやカワラタケあるいはスエヒロタケからは抗がん剤が開発された。また木材腐朽菌を利用したダイオキシンなどの有害物質の無害化やバイオエタノール生産の研究、廃タイヤの再利用の研究なども進められている。
キノコの特徴
キノコは、胞子を作ることで子孫を増やす。キノコを作るグループは担子菌類と子嚢菌類に分けられるが、両者の違いは胞子を作る器官とその作られ方にある。
担子菌類のキノコは通常、担子器の4本の突起(担子柄)の先端に担子胞子が作られ、シイタケ、キクラゲ、ホコリタケなどがこれに該当する。一方、子嚢菌類では子嚢という袋の中に通常8個の子嚢胞子が作られる。チャワンタケ、アミガサタケ、トリュフなどがこれに該当する。
この記事は 好評発売中の「きのこ図鑑」から抜粋したものです。本書では身近な場所から奥山でよく見られるキノコをたくさん掲載しました。