キノコ狩りというと奥深い山の険しい斜面を、籠を背負って探すというイメージが少なからずある。しかし、キノコの種類によっては道端、街路樹の周り、公園や神社の森、畑や草地、竹林やスギ林など身近な風景の中に生えてくる。
キノコの種類とキノコ狩りの心得
解説◎牛島秀爾
渓流釣りへ向かう林道の脇や、里川に続くあぜ道、堤防やサーフに隣接する松林など、釣りを楽しむ水辺から少し寄り道をして足元に目を向けてみると、そこには小さな愛すべき存在がひっそり息づいています。道端から奥山までキノコを楽しむ単行本『きのこ図鑑』が好評発売中です。ここでは本書の導入部から、キノコを楽しむうえで必要な知識を抜粋して解説します。
牛島秀爾(うしじま・しゅうじ)
1980年生まれ、山口県出身。幼少の頃よりきのこに親しむ。日本菌類専門学校、鳥取大学農学部を経て、(一財)日本きのこセンター菌蕈研究所。博士(農学)。専門はハラタケ類とコウヤクタケ類の分類。夏から秋は一般向けのきのこ観察会などの講師を担当。鹿野河内川河川保護協会で渓魚と川の保護・保全活動に参加。日本特用林産振興会のきのこアドバイザー。
キノコの生える場所
人里のキノコ
林道の両側斜面もチェックしておきたい
キノコ狩りというと奥深い山の険しい斜面を、籠を背負って探すというイメージが少なからずある。しかし、キノコの種類によっては道端、街路樹の周り、公園や神社の森、畑や草地、竹林やスギ林など身近な風景の中に生えてくる。
まずは近場の数ヵ所を決めて定点観察をし、数多くのキノコを見て知ることが大切である。公園のドングリの木の周りや神社の林などには色々なキノコが生える。猛毒のテングタケの仲間も生えるが美味しいタマゴタケやヤマドリタケモドキなどブナ科樹種と共生する食用キノコもこのようなところで見ることができる。
公園に生えたコツブタケ。
公園のブナ科樹種にはいろいろなキノコを見ることができるだろう。
針葉樹の樹皮やウッドチップが敷かれた場所、植木鉢、畑などは腐生性キノコが生えやすい。
林道の路肩や林の斜面なども案外穴場である。道路の周りにアカマツやコナラが生えていれば、タマゴタケやアミタケ、時にコウタケのような高級キノコも生える。ハタケシメジは道路脇の草地や民家の裏庭、軒下のようなところに生える身近な存在である。
植木鉢に生えたキノコ。
樹皮やウッドチップから生えるカニノツメ。
路肩に生えたハタケシメジ。
シイ・カシ林のキノコ
シイ・カシ林。
ブナ科の常緑広葉樹林。数多くの共生性キノコが生え、主に夏から秋口にかけて多い。シイ・カシの倒木からはシイタケが、シイの樹幹の地際部にはカンゾウタケなどの腐生性の種類もよく生える。
雑木林のキノコ
雑木林。
コナラやクヌギ、アカマツなどが混じる林。いわゆる代表的な里山林である。薪や炭のために適宜伐採と更新がなされ維持されてきた。コナラやクヌギはシイタケの原木にも使われる。ホンシメジ、タマゴタケ、アカヤマドリ、コウタケ、ショウゲンジ、ベニタケやチチタケの仲間など数多くの共生性キノコが生える。枯れたナラ類にはカエンタケも生える。
ブナ・ミズナラ林のキノコ
ブナ・ミズナラ林。
冷温帯の落葉広葉樹林。特に秋は美しい紅葉とともに、マイタケ、ナメコ、チャナメツムタケ、ムキタケなど秋の代表的な食用キノコが生える。
針葉樹林のキノコ
道路脇のコナラ・アカマツ林に生えたタマゴタケ。
アカマツ林を代表するマツタケ、海岸クロマツ林ではショウロやシモコシのほか、両マツ林に共通した種類としてはアミタケやハツタケあるいはムラサキナギナタタケなどがあり、これらはポピュラーな存在。マツが植えられた公園や庭にも生える。 カラマツ林ではハナイグチやシロヌメリイグチなど。本書では取り扱っていないが亜高山帯の針葉樹林ではオオモミタケやヤマドリタケ、ドクヤマドリなどが生える。北海道から中部山岳地帯に分布するハイマツ林ではイグチ類やフウセンタケの仲間などが生えるが、北アルプスのような国立公園などでは採集は禁止されているので眺めるだけにしておこう。スギの植林地では上記のような共生性キノコは生えない。食用キノコは非常に限定的だが、ニカワハリタケや小型のスギエダタケ(沢山採らないといけない)などがスギの倒木や枝から生える。
アカマツ林。
ハイマツ林。
カラマツ林。
水辺のスギ林。
この記事は 好評発売中の「きのこ図鑑」から抜粋したものです。本書では身近な場所から奥山でよく見られるキノコをたくさん掲載しました。