人間の都合で持ってきた生きものを、同じく人間の都合で、今度は駆除する……。 外来種というのは、本当に駆除すべきワルモノなのか?
短期集中連載 池の水ぜんぶ全部“は”抜くな! :第3回
つり人編集部=レポート
人間の都合で持ってきた生きものを、同じく人間の都合で、今度は駆除する……。
外来種というのは、本当に駆除すべきワルモノなのか?
今回は、生きものたちにとって、人の手を加えないのがベストなのかどうかを考えたい。
◆関連記事 短期集中連載 池の水ぜんぶ全部“は”抜くな!
・第1回「池田清彦先生に聞く外来種問題の現在」前編、後編
・第2回「我々は「手つかずの自然」を取り戻せるのか?」前編、後編
・第3回「自然に人の手を加えることの是非 「手助け」でもダメなのか?」前編、後編
人の手が加わった環境
学生のころ、記者はナゼか水生昆虫のタガメに興味を持った。その生態を研究しようと思い、生物学の先生に相談したことがある。生きものを研究するのだから、当然理学部の生物学科に行くのが筋だろうと思っていたら、すすめられたのは農学部だった。
「農地に多くいる昆虫ですから、あまり理学部では研究されていないようです。農学部のほうがいいですよ」
いろいろ調べてくれた先生は、そう教えてくれた。実際、当時タガメを研究していたのはとある農学部の研究室だった。結果的にそこにお世話になったのだが、そのことはずっと後まで不思議な印象として脳裏に刻まれた。
水田に多く生息するタガメ。といっても今は数を減らしていて、なかなか目にする機会はない
なぜ理学部の生物学科では、農地にいる生きものをあまり扱わないのか? たしかに作物や畜産物そのものは、もちろん農学部で研究されている。さらに害虫などについても、やはり農学部で扱われることが多い。しかしタガメは、単に水田に多くいるだけで、特に害虫でもない(養魚場では害虫扱いされていたが……)。もちろん池や川にも生息している。理学部で研究されるのか、それとも農学部で研究されるのかの区別が、いまいちよく理解できなかったのだ。
今考えてみると、やはりその背景には、人の手が入っているかどうかが関わっているようだ。
水田というのは、人の手で作られた環境だ。そこに多くいる昆虫は、「自然の状態で」生きているとは言いにくい。いわゆる自然のなかで生きる生物と、そうでない生物の間には、どうも見えない壁があるようだ。
心が和む棚田の風景。人が作ったものであるのは間違いないが、タガメやゲンゴロウ、トンボなどの水生昆虫や、魚類、さらに周囲に棲む鳥類やほ乳類も含め、里山の環境に支えられて生きる生きものは多い
外来種の定義では、人の手で運ばれたかどうかが問題になる。人が運んだのか、あるいは自然に運ばれたものかは、外来種かどうかの線引きの基準になる。この考え方は、前述のようにタガメを理学部で研究するか、農学部で研究するかの違いと似ている。
生きものを手助けする
前回書いたように、どうも多くの人の心の中には「手つかずの自然」こそがすばらしい、という思いがある。正直に書けば、それは記者自身も同様だ。だが、それが実際にあるかどうかは別問題。少なくとも私たちが目にする範囲では、純粋な意味で「手つかずの自然」はまずない。
道のない川を何時間も歩いた先でも、このようなナタ目を見ることが多い。日本には、純粋な意味での「手つかずの自然」はほとんどないだろう
「手つかずの自然」を取り戻そうとするのは、すなわち人の手で運ばれた生きもの〝外来種〟を排除しようという考え方につながる。しかし一方で、手つかずの自然はもうないし、仮にどこかの池で外来種を排除できても、それで手つかずの自然に戻るわけではない。であるならば、ある程度は人の手が加わることを認めてはどうなのか?むしろ人の力で、生態系が豊かになるよう手助けできないものなのか? 今回はそのあたりを中心に話を進めてみたい。
堰堤の上に魚を移動させるのは?
釣り人ならご存知のように、現在多くの川では、アユや渓流魚などを増やすための活動が行なわれている。放流はもちろんそのひとつ。だが近年は、その方法も少しずつ改善され、たとえばアユなら産卵床の造成や、魚道の研究・整備、汲み上げ放流なども行なわれている。
人の手が生物を移動させるのが問題だとしたら、堰堤でソ上できないアユを汲み上げるのはどうなるのだろう? たしかに人の手で移動させたのは間違いないが、そもそもアユのソ上を阻害する堰堤を作ったのは私たちだ。
産卵床の造成もしかり。人間の活動によってアユが産卵できる場所が減った今、それを人の手で作り出すことは、はたして問題なのか?
人口がここまで増え、その活動範囲が国内の隅々まで及んでいる今、その他の生きものも、人間の活動と切り離すことはできない。そのような現状では、人の手が加わることは、ある程度認めるべきではないだろうか。人が運んだ=悪ではなく、さまざまな観点から評価する必要があるはずだ。
後編に続く……
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2019/5/7