人間の都合で持ってきた生きものを、同じく人間の都合で、今度は駆除する……。 外来種というのは、本当に駆除すべきワルモノなのか?
短期集中連載 池の水ぜんぶ全部“は”抜くな! :第3回
つり人編集部=レポート
人間の都合で持ってきた生きものを、同じく人間の都合で、今度は駆除する……。
外来種というのは、本当に駆除すべきワルモノなのか?
今回は前編に引き続き、生きものたちにとって、人の手を加えないのがベストなのかどうかを考えたい。
◆関連記事 短期集中連載 池の水ぜんぶ全部“は”抜くな!
・第1回「池田清彦先生に聞く外来種問題の現在」前編、後編
・第2回「我々は「手つかずの自然」を取り戻せるのか?」前編、後編
・第3回「自然に人の手を加えることの是非 「手助け」でもダメなのか?」前編、後編
絶滅しそうでも「手は出さない」のが正しいのか
仮に地球の気候が変動し、今後気温が高くなるとしよう。冷水性のイワナは、すでに標高の高い源流域に陸封されている。さらに気温が高くなれば、これ以上上流へは行けず、高緯度の魚しか生きられなくなる。その場合、たとえばゴギやヤマトイワナ、ニッコウイワナなどはそのまま絶滅させるべきなのか? あるいは高緯度の地域に運び、生き延びさせるのがよいのか? 意見はさまざまだろうが、仮に人の手が加わることを悪とするなら、彼らは死に絶えるしかないだろう。
もし気候が変動して今より気温が上がったら、たとえばゴギなどは絶滅してしまうかもしれない。その場合、放っておくのがベストなのだろうか? それともどこかに移動させてやるのが正しいのだろうか?
これは決して、荒唐無稽な話ではない。実際に北米では、トレイヤ・タクシフォリアという希少な常緑樹が、似たような状況にさらされて議論になったという。
3万年ほど前には、このトレイヤ・タクシフォリアは北米に広く自生していた。そのころに気候変動が起こり、氷河の南進とともに、この植物は南へ押しやられた。再び気候が温暖になってもこの植物は北上できず、現在の生息場所はフロリダとジョージアの州境を流れるアパラチコーラ川東岸の一部に限られる。
この植物が1950年代に数を減らしたことで、かつて生えていた北部の地域に移植するかどうかの議論が起こったのだ。
大昔にこの植物が生息していたとはいっても、人間が移動させてよいものか? 新天地で、そこにいる動植物に悪影響をもたらさないのか? 議論の末に、最終的には31本の若木が北カロライナ州に移植されたという。このことは外来種問題を考えるうえでも、画期的なことだったといえる。
人と自然の関わり方
釣り人は、私たち人間が魚を減らしているという自覚がある。なにしろ自分で釣っているのだから当たり前だ。そして釣りだけでなく、ダムや森林伐採などが魚に影響を与えることも分かっている。だからこそ、魚を増やすことに熱心になるのだ。
アユなどソ上する魚にとって、ダムや堰堤は致命的な影響を与える。たとえばカミツキガメなどアユを食べる外来種はいるが、それより大きな問題であることは間違いない
つまり釣り人は、生きものを手助けし、その数を(適正な範囲内で)増やすことに抵抗はない。むしろ私たちが本当に「手をつけない」状態にしたら、多くの魚種が急激に数を減らすだろう。地域によっては絶滅してしまうかもしれない。
今やるべきことは、一部の生きものに「人が運んだから……」といって外来種とレッテルを貼り、それを駆除することではない。生きものにとって、そして私たち人間にとって何がベストなのかをよく考え、必要なら手助けすることではないだろうか。
外来種=悪で、それが在来種を減らしている図式は、とても分かりやすい。「砂防ダムで下流に土砂が供給されず、河床の低下が起こり、魚の産卵場所が減り……」と説明するより、「ある池でカミツキガメが在来種を食べています!」というほうが、話はシンプルだ。その流れが加速している今、もう少し冷静になって、私たちが何をすべきかを考えたい。
カミツキガメは悪役にされることが多い。たしかに人間にとっても危険な生きものだ。だが在来種を絶滅させるほどの影響があるのかは、データを集めて調べてみる必要があるだろう
国外からの移入種だけでなく、国内の移入種も問題にされることがある。たとえばこのオイカワも、西日本を中心に生息していた魚だが、最近は東北でも見られる
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2019/5/8