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編集部2023年12月26日

我々は「手つかずの自然」を取り戻せるのか? :前編

環境レポート

人間の都合で持ってきた生きものを、同じく人間の都合で、今度は駆除する……。 外来種というのは、本当に駆除すべきワルモノなのか? 連載第2回では、外来種排除の流れが、いったい何を目指しているのかを考える。

数を増やしているタイワンリスは、農作物などへの被害が報告されている

短期集中連載 池の水ぜんぶ全部“は”抜くな! :第2回

つり人編集部=レポート


人間の都合で持ってきた生きものを、同じく人間の都合で、今度は駆除する……。
外来種というのは、本当に駆除すべきワルモノなのか?
連載第2回では、外来種排除の流れが、いったい何を目指しているのかを考える。


◆関連記事 短期集中連載 池の水ぜんぶ全部“は”抜くな!
・第1回「池田清彦先生に聞く外来種問題の現在」前編後編
・第2回「我々は「手つかずの自然」を取り戻せるのか?」前編後編
・第3回「自然に人の手を加えることの是非 「手助け」でもダメなのか?」前編後編

タイワンリスの悪行


 先日ニュースを見ていると、タイワンリスの被害が大きく取り上げられていた。外来種であるタイワンリスが増え、農作物を食べてしまうという。おまけに家の柱や電線をかじったり、鎌倉では市の天然記念物であるワビスケの樹皮を傷つけるなど、一見すると愛らしいこの生きものは、どうやら悪さばかりしているらしい。

 たしかに報道されているように、被害が出ているのは間違いない。しかしタイワンリスがことさらワルモノにされるのは、やはり外来種だからだろう。連載第1回でも紹介したように、農作物などの被害についていえば、ニホンジカをはじめとする在来種の影響も深刻だ。農家にしてみれば、自分が汗水たらして作ってきた作物を傷つけるという点では、外来種も在来種も関係なく、どちらも腹立たしい生きものに違いない。

ike_02 ニホンジカは近年各地で数が増加していて、農作物、森林などに大きな被害を与えている。タイワンリスと比較して、どちらの被害が深刻なのだろうか?

 外来種排斥の流れというのは、単に人間にとっての被害を軽減するためだけのものではなさそうだ。もしそうなら、同じく人間に被害を与える在来種についても、数をコントロールする議論がもっと盛り上がっていいはずだ。その背景には「手つかずの自然を取り戻す」という目的があるのかもしれない。
 そもそも外来種の定義というのがあいまいだが、多くの場合、人間の活動によって移入してきた生物ということになる。同じく移入してきたとしても、人間が運んだわけではなく、自力あるいは自然の力で移入したのなら、外来種とは呼ばれないようだ。

 つまり外来種を排除したいというのは、人間が自然に与えた影響をできるだけ減らしたい、という考えが根底にあるわけだ。

 渓流の砂防ダムや、三面護岸のホソを見て「ああ、人間がこんなことをしなければ……」と思うことはたしかにある。だから「手つかずの自然」を取り戻したいという考えも理解できるのだが、現状の外来種問題を見ると、それがどうも極端な方向に走っているように思える。

 今回は、まずこの「手つかずの自然」について考えてみたい。

「手つかずの自然」


 興味深いのが『自然という幻想』という本。著者はエマ・マリス。『外来種は本当に悪者か?』という本で解説を書いていた岸由二先生が、翻訳者に名を連ねている。連絡したところ、まず読んでほしいとすすめられたのがこの一冊だ。

 いわゆる自然保護活動の多くは、もともとある自然を取り戻そうというのが大きな目的だ。この本では人間の影響を排除して「過去の自然」を取り戻すことや「手つかずの自然」を守ることばかりに固執してきた従来の自然保護を批判し、もっと多様で現実的な目標を設定する自然保護のあり方を提案している。

 釣りをしていればよく分かることだが、私たちが普段目にする山や川の風景は、ほとんどが「手つかず」ではない。源流に入ってみれば、たしかにそこには人工物はほとんどない。しかし山奥でも、炭焼きの小屋、猟師の残したナタ目、山菜採りの杣道、職漁師が源頭に放流したイワナなどを見ることがある。ましてや里山の場合、そこにある自然はほとんどが、人の手が加わったものだ。

ike_04 マブナは、日本でここまで水田が広がらなければ、今ほどには数を増やしていなかったかもしれない

 そもそも、稲作は少なくとも弥生時代から行なわれているわけで(縄文時代後期にはすでに行なわれていたという説もある)、それがなければ、全国各地に水田が広がることはなかった。「日本の懐かしい風景」として水田が頭に浮かぶこともなく、トンボやホタル、マブナやタナゴなど、水田とその周囲にある水路や溜め池に棲む生きものが、今ほど増えることもなかっただろう。カエルの大合唱だって、水田が身近にあるからこそ、春の風物詩になっているのだ。

 また周囲の里山も、定期的に薪を採ったり、狩猟採集を行なっていたため、クヌギやコナラなどの雑木林になっていった。植林されたスギ林を見て「自然」だと感じる人は少ないだろうが、生きものが豊富に棲む里山だって、同じく人の手が入って作られた風景といえる。

 人間の影響を徹底的に排除するというのなら、この里山の生態系も、やはり「手つかずの自然」に戻すべきなのだろうか? そんなことは不可能だし、そもそもそのような声も聞こえてこない。

後編に続く……

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