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編集部2023年12月15日

我々は「手つかずの自然」を取り戻せるのか? :後編

環境レポート

人間の都合で持ってきた生きものを、同じく人間の都合で、今度は駆除する……。 外来種というのは、本当に駆除すべきワルモノなのか?

短期集中連載 池の水ぜんぶ全部“は”抜くな! :第2回

つり人編集部=レポート


人間の都合で持ってきた生きものを、同じく人間の都合で、今度は駆除する……。
外来種というのは、本当に駆除すべきワルモノなのか?
連載第2回では、外来種排除の流れが、いったい何を目指しているのかを考える。


◆関連記事 短期集中連載 池の水ぜんぶ全部“は”抜くな!
・第1回「池田清彦先生に聞く外来種問題の現在」前編後編
・第2回「我々は「手つかずの自然」を取り戻せるのか?」前編後編
・第3回「自然に人の手を加えることの是非 「手助け」でもダメなのか?」前編後編

場所に応じて対策を


 前編でも述べたが、生き物の駆除は「手つかずの自然」を取り戻すことが目的なのだろうか? であるならば、外来種にだけ目くじらを立てるのは、なぜなのだろう? おそらくその理由は、記者も含めてだが、「不勉強」ということに尽きると思う。記者自身も、やはりこの問題について取材することがなければ、深く考えることなく「手つかずの自然」っていいものだな……と思っていたはずだ。ダムや堰堤、護岸、森林の伐採など、人間の活動によって環境が改変されるのを見ると、不満のひとつも漏らしたくなる。ましてやその影響で、魚たちが減ってしまったとなれば、大好きな釣りも楽しめなくなる。利己的と言われればそれまでかもしれない。しかし、だからこそ釣り人は生態系について考え、魚をハリに掛けて傷つける行為をしているのだが、できるだけ魚を守ろうとしてきた。

ike_title 一口に池といってもさまざまで、そこに棲む生きものの種類も異なる

 そして、もちろん排除すべき外来種もいるだろう。連載第1回で触れたヒアリなどがそうだ。また地域によって数をコントロールしたり、できるだけ減らす努力をすべき外来種もいる。たとえばニッポンバラタナゴのいる池にブラックバスを放すというのは、巌に慎むべきだ。

 だが外来種が悪影響ばかり与えているかというと、実はそうでもない。『外来種は本当に悪者か?』の冒頭には、イギリスにあるアセンション島の例が紹介される。この島はかつて「大海に浮かぶ荒涼たる孤島」と言われ、「丸裸の醜悪な姿」をさらしていた。そこに人間がさまざまな植物を運び込み、現在は鬱蒼とした森林が広がっているという。そして世界各地から動植物が集められてきたにもかかわらず、そこでは豊かな生態系が機能しているという。

 生態系は長い時間をかけて構築され、だからこそ「手つかずの自然」を守るべき……。ほとんどの人はそう考えるだろうが、実はそうでもないという例が、アセンション島を含め世界中で報告されている。外来種が移入する影響は、個々の例をよくよく調べないことには分からない。つまり一律で「排除せよ!」ではなく、それぞれの地域、あるいは池によって「ここでは○○の数をコントロールすべき」、「こちらでは特に何もする必要はない」など、対策を考えるべきなのだ。

ike_03 イエネコが野生化するとノネコと呼ばれ、侵略的外来種として問題になっている。一方ではペットとして可愛がられ、飼えなくなって放されると外来種になる……。生きものにとっては、いい迷惑である

子どもたちには正確な知識を


 もうひとつ考えたいのは、そもそも外来種の排除が可能なのかということ。たとえば池の水を抜いて外来種を駆除することについて、池田清彦先生は一言「竹やりで戦うようなもの」と話していた。

 生きものをコントロールするのは、とても難しい。減ってほしくない種が絶滅したり、減らしたい種がはびこったりというのは、どうしようもない部分がある。仮に完全に排除するのが望ましいとしても、それができるかどうかは別問題だ。

 種によっては、人間が一時的に数を減らしたことで、その後爆発的に増殖するケースがあるという。定期的に駆除を行なえばある程度減らすことはできるだろうが、それでは負担も大きい。であるならば、もっとほかの方法、たとえば共存の道を模索するのも手ではないだろうか。

 北米ではオオカミを移入することで、増えすぎたシカの数をコントロールしているという。実は日本でも、絶滅してしまった(と考えられている)ニホンオオカミの代わりに、海外からオオカミを移入するという案が出されたことがある。これは極端な話だが、外来種の力を借りて生態系をコントロールする例も、過去にいくつかある。

 もともと日本の「手つかずの自然」では、ニホンオオカミが生息していて、シカなどの動物の数がコントロールされていた。人間の活動によってニホンオオカミがいなくなった穴を埋めるべく、海外からオオカミを連れてきて埋める……。乱暴に思えるが、そのような話を聞くと、いったい何が守るべき自然なのか、ますます分からなくなってくる。

外来種だけが悪者か?


 外来種の問題は、この場で簡単に結論が出ることではない。だがひとついえることは、すべての外来種を絶滅に追い込むことは、不可能だろうということ。であるならば、現状の生態系を認めたうえで、それをどのような姿にしていくか、より建設的に考える必要がある。

 いくら「手つかずの自然」を求めても、すでにそんなものはない。外来種に目くじらを立てるよりも、たとえば無駄なダムを撤去するとか、水路の三面護岸をやめるとか、そちらにエネルギーを使ったほうがよいのではないか? そのほうが結果的に、在来種を守ることにつながると思うのだが……。

ike_05 外来種を排除する前に、砂防ダムや護岸をどうにかしたほうが、在来種にとってもよほどいいと思うのだが……


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