たとえば、なぜB2はファットでキラーBはシャッドシェイプなのか? なぜキラーBにはスクエアリップとラウンドリップがあるのか……? すべての謎を突き詰めていくと、私にはトーナメントアングラーたちが直面した勝つための葛藤の歴史と、デザイナーの創意工夫の歴史が見えてきました。すべてが不正解であり、すべてが正解なんですよね。
勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2022年4月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
前回は、瀬川さんが大森さんにクランクを渡すもまったく泳ぎを認めてもらえず、試行錯誤のすえにFAT CB B.D.S.4を作ったところ「この泳ぎ正解です」と言われるまでのストーリーを紹介した。もちろん話はここでは終わらない。以下、瀬川さん談。
◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
2004年バスマスター・クラシックの歓喜と絶望
大森さんにB.D.S.4の泳ぎを「正解」と言ってもらえましたけど、だからといって、使ってもらえたわけではないんですよね。泳ぎはピンポンでも、ウッドのクランクに勝てたわけじゃない。だから、大森さんが勝った2004年のバスマスタークラシックの最終日、「奇跡の5分」(フリップからクランクに切り替えキッカーを連続キャッチ)で大森さんが投げていたのはうちのルアーじゃなくてバグリーのB2でした。
当時徹底的に研究したバグリーなどのクランクは20年たった今も私の机の中にあります
私は全身鳥肌、感動で大森さんを祝福しつつ、同時にラスト5分で我々のルアーを投げてもらえなかった絶望に打ちのめされました。だからまだまだ止まるわけにはいかなかった。使ってもらえるルアーを作らなきゃいけない。
クラシックの前に、もうひとつ大きな出来事がありました。それはZOOMの創始者であるエド・チャンバースが作っていたハンドメイドクランクとの出会い。ZOOMといえばバリバリのワームメーカーで、トーナメントアングラーを勝たせるためのワームを作っているイメージしかなかったのに、その社長がハンドメイドクランク!?
しかも、当時は巷には売っていなくて、社長の知り合いだけが買っていると聞きました。
なんでワーム屋さんがハンドメイドクランク!?
本当に気になったので、社長に近い人に質問を投げかけると、「うちのトーナメンターを勝たせたいからさ」という回答。当時のバグリーのクランクは作りにちょっと難があって、プロたちは希少な昔のモデルを探していました。その現状を受けて、エド・チャンバースがひと肌脱いだってことですよ。商売じゃないんです。バスプロのストラグル(苦闘)をZOOMの社長が商売を抜きにして助けていたという話を聞いて、本当に熱くなりましたね。「勝てるクランクを作りたい」という私の思いにさらに火がつきました。
勝てるクランクベイトの3原則とは
その流れで、当時の私が徹底的に研究したのがバグリーのB1、B2、B3、ハニーB、キラーB、ダイビングキラーB、あとはポーのRC1とRC3。とくにポーのRCが作られた理由は、僕が生まれた年にリック・クランがハニーBで勝ったことなどで、勝手に運命を感じて研究しました。
たとえば、なぜB2はファットでキラーBはシャッドシェイプなのか? なぜキラーBにはスクエアリップとラウンドリップがあるのか……? すべての謎を突き詰めていくと、私にはトーナメントアングラーたちが直面した勝つための葛藤の歴史と、デザイナーの創意工夫の歴史が見えてきました。すべてが不正解であり、すべてが正解なんですよね。この研究は私のルアー作りに大きく影響することになります。具体的な話はその都度紹介しますね。
そして当時、ひとつ大事な記憶を思い出しました。若いころ、下野正希さんのボックスをカリフォルニアから日本に送る仕事を頼まれたんですが、そのときに中を見たんですよ。すると、下野さんがアメリカで使っていたピーナッツⅡDRが出てきた。ただし、アイだけが太いものに変えられていたんです。理由を聞くと、「アメリカの魚はデカいんや」と言っていました。
バグリー、ポー、そしてこのピーナッツⅡとの出会いから、私は勝てるルアーには3つの原則があることに気付きました。「釣れる泳ぎ」は大前提なので省いています。
勝てるルアーの三則とは……。
「勝てる(ルアー)サイズであること」
「勝てる強度であること」
「勝てるリズムであること」
この3つです。サイズとリズムについては補足が必要かもしれませんね。
当時、アメリカのクランカーたちはこぞって7ftのグラスロッドを使っていました。そして、契約スポンサーを問わず、極めて多くのプロがある特定のモデルを選んでいたんです。それはリック・クランが監修したダイワのライト&タフシリーズの7ft、MHパワーのグラスロッド。このサオが神ってた! 「パワーメッシュ」を採用していて、グラスなのにサオ先がシャープでキャストがパシッと決まる絶妙な設計だったんですよ。
つまり、勝つためのクランクにするには、7ft、MHパワーのグラスロッドで気持ちよくロールキャストしてシャローカバーにズバズバ入る「サイズ」であり、「リズム」よく巻ける引き抵抗であることが絶対条件なんです。それがまさに1/2ozのバルサB2だった。
大森さんのロッドといえば緑のTD-S。とくに7ft、MHパワーのグラスモデルは完全に右腕でした。このサオで投げやすいサイズでリズムよく巻ける引き抵抗であることが勝てるクランクの絶対条件だと私は考えました
そして、そこに当てて作ったのが1/2ozのFAT CB B.D.S.2です。これは勝つためのサイズ、リズム、強度を兼ね備えたルアーです。そしてもうひとつ作ったのが同じく1/2ozのB.D.S.3。こちらはサイズとリズム、強度は踏襲しつつ、アングラーに寄り添うモデルとして作りました。
わざわざ同じサイズで2モデル作った背景には、先に言ったバグリー研究があります。勝てるクランクの典型はB2です。ではシャロークランクなのにシャッドシェイプのキラーBって何なのか? 私が思うに、ファットボディーのクランクが釣れないタフコン時のためにシャッドシェイプでアクションを弱めたんでしょう。「B2じゃ今日は食わないかもしれない」というトーナメントアングラーの不安に寄り添って使われてきたのがキラーBだと思います。そこに私はトーナメントアングラーの人間くさい葛藤を読み取って共感しました。だから私もシャッドシェイプでアクションを抑えたB.D.S.3を作ったんです。
では、このB.D.S.2と3は大森貴洋のボックスに入れてもらえたのか? まだまだ話は続きます(続く)。
Fat CB B.D.S.2
62mm、1/2oz
Fat CB B.D.S.3
75mm、1/2oz
◆関連記事
ラッキークラフト LC RTOシリーズ “Respect Takahiro Omori”に込められた歴史と思い
■ラッキークラフトUSAのクランクベイトラインナップはこちらでチェック!
https://luckycraft.com/luckycrafthome/default.htm