哀愁のしょう油ラーメン
哀愁のしょう油ラーメン
つり人編集部=写真と文編集部の近くに
昔ながらのカウンターだけのラーメン店がある。
しょう油ラーメン380円を長年通してきたが
燃料代高騰などの理由で50円増しになった。
店主は60歳前後。
中肉中背、白髪で目つきが鋭い。
4,5年前から倅らしき若者を
厨房に入れているが
まだ任せ切ってはいない。
夜、久しぶりに半チャンラーメンを食べに行った。
「へい、らっしゃい」
しゃがれた声でオヤジ。
倅はいつも無口だ。
ストレートの細麺にメンマが4本
チャーシュー、ノリが1枚ずつ。
スープは薄味だ。
しかし、いつもと何かが違う。
何が違うんだ…?
レンゲである。
レンゲが付いている。
しょう油ラーメンには
レンゲは絶対に付けないのが
オヤジのこだわりだったのだ。
これまでも
「レンゲください」
と女性客が何度か言うのを目撃したが
その都度
「レンゲはタンメンにしか付けてないんで」
とオヤジは断っていた。
ニコリともせず
鋭い目つきで言うものだから
瞬間、店内が静まるのである。
しかし、今夜はレンゲが付いていた。
偶然かもしれないが
客は僕ひとりだった。
不景気で客におもねるようになったというのか。
ラーメン屋のオヤジに
ふと哀愁を感じた
校了日の夜だった。
(山根)
2008/10/15