ヘラブナ釣りは、初心者にとって難しい釣りという印象が強い。しかし、基本を押さえれば決して敷居は高くない。今回は、高水温期に最盛期を迎える「浅ダナ・両ダンゴ」の釣りに焦点を当てる。初心者でも手軽に挑戦できるよう、使用するエサを1種類に絞った基本的な釣り方を、数々の大会で実績を残す名手・杉本智也さんが一から解説する。まずは身近な管理釣り場で、繊細なアタリを掛けるヘラブナ釣り独特の快感をぜひ体験してほしい。
ヘラブナ釣りは、初心者にとって難しい釣りという印象が強い。しかし、基本を押さえれば決して敷居は高くない。今回は、高水温期に最盛期を迎える「浅ダナ・両ダンゴ」の釣りに焦点を当てる。初心者でも手軽に挑戦できるよう、使用するエサを1種類に絞った基本的な釣り方を、数々の大会で実績を残す名手・杉本智也さんが一から解説する。まずは身近な管理釣り場で、繊細なアタリを掛けるヘラブナ釣り独特の快感をぜひ体験してほしい。
写真と文◎編集部
シンプルに始めるヘラブナ釣り
ビギナーが釣りを始めるのに管理釣り場ほど適したフィールドは他にない。魚がいるのがわかっているし、足場がよく落水の危険が少ないうえ、駐車場とトイレが完備されているので釣行のハードルがとても低い。
管理釣り場のくくりで言えば、エリアトラウト(マスのルアー釣り場)とヘラブナが2大巨頭だ。どちらも「釣り堀」という言葉では表わせないほど奥が深く、他ジャンルの釣り経験者もどっぷりハマってしまう魅力がある。近年はルアーが人気だが、エサでねらうヘラブナにはルアーにない魅力があると話すのが、今回初心者編集部員の先生役をお願いした杉本智也さんだ。
「管理された池でエサを使って釣るので、他の魚より最初の釣果を得やすいのがこの釣りです。それでいて、ウキの反応を見極め合わせて掛けていくので『釣った感』が大きい。うまくアワセが決まらないと釣れないので、マグレの要素が少ない。熱くなれる釣りなんです」と杉本さん。
初心者は浅ダナ・両ダンゴの釣りがおすすめ
今回教えてもらうのは、ヘラの活性が高い時期に有効な「浅ダナ・両ダンゴ」の釣り。浅ダナとは水面から1m前後の浅い中層をねらうもので、両ダンゴとはふたつあるハリの両方に時間とともにバラけていく練りエサを付けるスタイル。
ちなみに、下のハリにウドンなどの食わせエサを付けるのは「セット」と呼ぶ。ねらう水深による分類では、サオ先直前にウキを持ってきてなるべく深い水深をねらう「チョーチン」やエサを底につけてねらう「底釣り」などがある。
ヘラブナ釣りの道具類
ヘラブナ釣りに必要な道具類は以下の通り。
1.サオ(必須)
2.サオ掛け(必須)
3.万力・サオ受け(必須)
4.お膳(小物置き)
5.ハサミ(必須)
6.クッションまたはチェアー(必須)
7.ボウル(必須):洗面器でも代用可。最低2つ
8.玉網(必須):レンタルできる釣り場もある
9.計量カップ(必須)
10.タックルバッグ
11.サオケース
12.シート
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ヘラザオの長さは概ね7~15尺(2・1~4・5m)のラインナップがあるなかで、管理釣り場で初心者が使いやすいのは短めの8~9尺のもの。その中でも今回は桟橋ではなく陸の釣り座だったため、プレッシャーで魚が沖に出ることを想定した9尺を選んでもらった。杉本先生の愛用は、がまへら天輝(がまかつ)
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ミチイトはナイロンの0.8~1号。使ったのは将鱗へらストロングアイ道糸(東レ)。ハリスもナイロンでミチイトの半分の太さが基本。各社から販売されているハリスが結んであるハリを買うのが簡単だ。サオの持ち手の位置に来るミチイトの最下部には、パイプに巻かれた板オモリの下のサルカンに、2本のハリスをまとめて結ぶ。ハリスは一方を30cm、もう一方を40cmというようにハリスの長さを段差状に変えるのが基本だ。

ヘラウキ。はボディー長が7cmで、トップ(メモリ部分)がパイプ素材のものがおすすめ。管理釣り場での標準的なサイズはボディー長6cm前後だが、初めのうちは大きめがよい。仕掛けを振り込みやすいようある程度の重さのオモリを背負える。杉本先生のブランド・TOMOのA-1・7(チック)ウキは下記画像のように接続。下部に環のあるウキゴムにウキを挿し、ミチイトに通しウキ止メゴムで上下を挟む。

ハリはスレバリ(バーブレスフック)が使われる。両ダンゴの釣りでは6号前後のハリが定番で、角マルチ(がまかつ)など両ダンゴ用に設計されたハリがおすすめ。また、一日中水面を凝視するので目の負担が大きく、偏光グラスも必需品だ。杉本先生はガラスレンズで視界が極めてクリアなサイトマスターシリーズ(ティムコ)を愛用
エサは1種類でOK
ヘラブナ釣りと言うと、いろいろな練りエサを準備して、状況に応じて使い分けて……というイメージがある。
「エサにはバラけやすさや沈みやすさが違うさまざまな種類がありますが、まずは難しく考えずに1種類から始めてみてください。その際はパッケージに『単品で使える』という旨の文言があるエサを選べばなんとかなります。受け付けでエサが買える釣り場も多いですから、スタッフにその池の釣れ筋を聞いて買うのが間違いないです」
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これはなんとなく敷居の高さを感じていた筆者にとって朗報だった。たとえばエリアトラウトを楽しむにはなるべく多くのルアーがほしい。その中から状況にあったルアーを探していくのが楽しいのだが、初心者の最低限のタックルでは手も足も出ないことも起こりがち。一方のヘラブナは、ビギナーがまず入門してアタリを出すところまでは1種類のエサでもなんとかなるという。というわけで、今回は1種類のエサで始めるヘラブナ釣り入門編だ。
ヘラブナ釣りの流れ
杉本智也さんと合流したのは埼玉県狭山市の智光山公園に併設されたヘラブナ釣り場・前山の池。圏央道・狭山日高ICから至近でアクセスがよい同公園にはこども動物園や自然生態観察園、キャンプ場などもあり、家族で来ても楽しめる。
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釣り場の利用料は1日1800円と休日のレクリエーションとしてはかなりリーズナブルだ。受け付けを済ませて釣り座を決め、クッションやサオ受けを準備。9尺(2.7m)のサオに仕掛けをセット。仕掛けの概要は、サオ先のリリアンにぶしょう付けしたミチイト0.8~1号に、ウキ止メで位置を調節可能にしたヘラウキを装着。サオの持ち手のあたりにオモリとサルカン。そこへ2本のハリスを結ぶ構成。今回はハリスが30cmと40cmの段差仕掛けだ。
釣りを始める前に必須のウキのバランス調整
仕掛けができたら、次にやるのはウキの調整だ。「初心者にまず覚えてほしいのがウキのバランス調整です。ウキの動きを見てエサの状態を判断する釣りなので、まずは基準として、エサを付けない状態の仕掛けでウキが沈み込む量を板オモリで調節します。今日使うウキのメモリは下から3番目に緑がありますから、ここを『エサ落ちメモリ』として、空バリの状態でここに水面が来るようにします。ダンゴを付けて振り込むと、さらに上のメモリまで沈み込み、ダンゴがバラけていくにしたがって徐々にメモリが上がってきます。緑の『エサ落ちメモリ』が水面まで上がったらエサがなくなったと判断して、再投入できるようにするのです。未経験の人がヘラブナ釣りを楽しめるかどうかは、これができているかが大きいです」
浮力は水温=水の比重によって変わるし、さらには仕掛けの各パーツの水の含み方でもウキのバランスは変わってくるので、毎釣行ごとにはもちろん、釣りの最中も微調整を行ないたい。
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エサの準備
今回使うエサはマルキユー「カクシン」。バラケ性は「中」、重さは「軽」という性格のダンゴエサで、「単品で幅広いタナに対応」とパッケージに記載されているとおり、溶け出して魚を寄せる役割と食わせる役割を両方こなせるタイプである。
作り方の記載のとおり、「カクシン」700㏄と水200㏄をボウルにとって混ぜ合わせる。混ぜ方の力加減も大事と聞くが、初めての筆者は加減がわからなものなのだろうと納得してハリに付けてみる。仕掛けを振り込んだときにウキのトップが少し水面から出るように、毎回同じサイズのダンゴを作れるようになるのが理想とのこと。シャリを握る寿司職人かな?
ハリに付けるにしても、初めのうちはダンゴをまとめるのに時間がかかってしまったり、振り込む際にハリから外れて手前に落ちてしまったりした。自分なりにコツがつかめてきたのは釣り始めてかなり時間が経ってからで、指3本でつまめる量のエサを第一関節のところで折りたたみながら3回潰し、指先で丸めてからハリを当てるとしっかり付けられた手ごたえがあった。
ただし、ダンゴの作り方とハリへの付け方によってエサの硬さ=バラけ方=アタリの出方が変わってくる。それがヘラブナ釣りの奥が深いところであると同時に、1種類のエサでも状況に応じた対応の幅ができる懐の深さである。だからやり方に正解はなく、前述のように自分なりの作法を作ったうえで、釣れ方を見ながら微調整していくのがいいと感じた。
エサ関連の道具の使い方
エサ関連の道具は、ボウル2つ、計量カップ、濡れタオル。ボウルはエサを混ぜる用と水用。水用は釣りの最中に手をすすぐのにも使う。計量カップはエサ用と水用でそれぞれ100ccと200ccがあるとよい。ダンゴを作るときは必ず濡れタオルで指先を拭いて水分量を一定にすることで、エサの質をコントロールできる。
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エサの針への付け方
1.ダンゴ状に丸める。手のひらの近くではなく、指先で丸めるのがコツ
2.ハリを引っかけるように当てて…
3.ハリスを引っ張って食い込ませる
4.ハリを包むようにダンゴをたたんで、涙型に付ける
エサの付け方ひとつで釣果は変わる。これは先生によるバリエーションの1つ。寄せたヘラに遊ばれにくいよう硬めにまとめつつも、仕掛けが馴染む過程では適度にバラけてほしいので、カドをつけた形状にしている。

釣りの動作とアタリの見極め
時系列が前後するが、エサ付けができたらいよいよ釣り開始だ。エサでヘラを寄せるため毎回同じ場所に仕掛けを入れること、サオ先からウキまでのミチイトがまっすぐになるようになるべく遠くにウキが立つように入れるのが重要だ。
利き手でサオを持ち、仕掛けを伸ばすとオモリが手もとに来るので、オモリをつまんで振り子の要領で投入する。水面ギリギリではなく、少し浮き気味の弾道になるようにすると振り込みやすい。仕掛けが着水するとオモリの重さでウキが立つ。少し遅れてハリ+ダンゴが真下へ沈んでエサ落ちメモリにダンゴの重さが乗った分のメモリまでウキが沈み込む。
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「ここからエサがバラけるにつれてウキが上がってきます。アタリがないままエサ落ちメモリまで浮いたらすぐに引き上げて撃ち返してください。再投入までの時間が空けば空くほどせっかく寄ってきたヘラがシラケてしまいます」
繰り返し同じところへダンゴを撃ち続けていると、だんだんウキが動くようになってきた。「仕掛けが馴染んでからエサがバラケて落ちるまでに出るアタリを掛けていくのが両ダンゴの釣りの醍醐味です。魚が寄ってくるとその水流などでウキはいろいろな動き方をします。その中でヘラがエサを吸い込んだときのアタリを見極めます。ウキの動き方の中で、最も素早く、鋭く水中へ数メモリ分引き込まれるのが合わせるべきアタリです。アタリかなと思ったら積極的に合わせていくのが上達のコツです」
アワセは手首を使って軽く
筆者のウキにも鋭い動きのアタリが出た!すかさずアワセを入れてみたものの、ルアー釣り歴が長い筆者は腕全体を使った「フッキング」になってしまった。案の定空振りとなり、仕掛けが勢いよく水面から飛び出てサオに絡まってしまった。杉本先生は苦笑いだ。「ウキが5cm手前に動けばハリ掛かりしますから、アワセに力は必要ありません。手首で軽く合わせてみてください」
考えてみれば、リリースが前提のヘラブナ用のハリはカエシのないスレバリ。少しオモリを跳ね上げてハリ先を口に当ててあげれば、あとはサオの弾力で刺さり込んでくれそうだ。杉本先生のアドバイスどおり、次のアタリには手首で軽く合わせてみた。一瞬の間があってから、サオ先が引き込まれる感触が手もとに伝わってきた。ルアー釣りのようなフックアップと同時に魚を浮かせるためのフッキングとは明確に違う、これがヘラブナ釣りのアワセなのだとわかった。
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サオを立てて、その弾力を生かしてヘラを浮かせてネットイン。記念すべき初ヘラだ。この後もダンゴの作り方などを試行錯誤しながら両手で数えられるくらいのヘラをキャッチ。隣の釣り座でお手本を見せてくれる杉本先生の連発に驚嘆しながらも初のヘラブナ釣りの楽しさを存分に味わうことができた。
今回教えてもらった「浅ダナ・両ダンゴ」の釣りは記事が掲載されるタイミングにもピッタリなのでぜひヘラブナデビューをしてみてほしい。
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※このページは『つり人 2025年7月号』を再編集したものです。