ここ数年の琵琶湖における最大のムーブメントのひとつが、カバースキャットをはじめとしたノーシンカーのボトムジャークだろう。いつか琵琶湖を訪れた際、ほぼすべてのボートが沖の浚渫跡で船団となり、みな一心不乱にロッドを下さばきで操作していた光景は衝撃的だった。そして、今や琵琶湖を飛び出し全国に波及したこのテクニックを、開祖である冨本タケルさんはどのようにアップデートしているのだろうか。取材を快諾した冨本さんが「ぜひやってみたい」とリクエストしてきたのは、まさかのオカッパリだった。
ここ数年の琵琶湖における最大のムーブメントのひとつが、カバースキャットをはじめとしたノーシンカーのボトムジャークだろう。いつか琵琶湖を訪れた際、ほぼすべてのボートが沖の浚渫跡で船団となり、みな一心不乱にロッドを下さばきで操作していた光景は衝撃的だった。そして、今や琵琶湖を飛び出し全国に波及したこのテクニックを、開祖である冨本タケルさんはどのようにアップデートしているのだろうか。取材を快諾した冨本さんが「ぜひやってみたい」とリクエストしてきたのは、まさかのオカッパリだった。
写真と文◎編集部
カバースキャットで琵琶湖のバス釣りを変えた「冨本タケル」
現在、琵琶湖でも指折りの人気ガイドとなった冨本タケルさん。しかし、バスプロとしてのキャリアは遅咲きと言える。プロのジェットスキーレーサーの道をあきらめ、琵琶湖ガイドを目指したのが30歳のころ。まずは数年間琵琶湖を徹底的に釣り込み、シーズナルや様々なパターンを自身に叩き込んだ。
30代半ばでプロガイドを開業したが、初年度の4月に来たゲストは2組(どちらも友人)だけだった。まだSNSも発達しておらず、ミクシィのコミュニティ機能で細々とゲストを募集。そこから約10年以上もの期間は、ひと月の半分がガイド予約で埋まるのが精いっぱいだった。
冨本「同じ時期にガイドを始めたキムケンとか、地元の後輩であるまっつん(松下雅幸さん)はパパっと売れっ子になってね(苦笑)。僕は琵琶湖のことが知りたくてガイドが入っていない日も必ず湖上に出ていたから、ガソリン代とかがバカにならない。本当にカツカツでした」
辛抱しながらも地道に、そして着実に実力を蓄えていった冨本さん。それが報われたのが2016年のこと。琵琶湖のトーナメント「BAIT(現MBFT)」にて、ロングワームを用いたパンチショットリグで当時のレコードウエイトである29835g(10匹)をマークし優勝したのだ。
冨本「やっと名前が売れ、お客さんがたくさん来てくれるようになりました。『Basser』の表紙にもしていただけましたね(笑)」
この時すでに47歳。長いトンネルを抜けて大器晩成、めでたしめでたし……と締めたいところだが、本当のブレイクスルーはそのあとだった。
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カバースキャット・ボトムジャーク誕生秘話
2018年ごろ、ウイードが消滅してブルーギルが極端に減った琵琶湖は大転換期を迎えていた。既存のパターンは軒並みパワーダウンし、代わりに台頭したのがサカマタシャッドの表層ノーシンカージャーク。これを秘かにボトムで行なっていたのが冨本さんだった。最大サイズの8inをディープボトムでジャークさせると、モンスタークラスが面白いほど食ってきたという。2017年に発表されたウルトレックス(GPSを内蔵し、任意の座標でステイできるエレキ)の登場も、スローな釣りの精度向上に大きく貢献した。
冨本「2018年の冬だったかな。あるスポットでサカマタ8inだとバイトが出なくなって、サイズダウンしようかな……と思ってたところに、発売以来一回も使っていなかった未開封のカバースキャットのパックが目に入りました。初めて見たときは、その見た目も含めて『奥村(和正)さん、変わったモノつくったな』と思ってあまり使う気にならなかった(笑)。もともとは名前の通りカバー撃ちを想定して作られたワームだけど、比重も高そうだし、サカマタと同じようにディープで使ってみるかなと。そしたらもうボッコボコ。サカマタでバイトが止まったスポットから、50cmアップが10連発しました。もともとセンコー系やほかの高比重ノーシンカーをボトムでズル引いたり、放置してスローに使う釣りって、昔からありましたよね。でも僕はそっちの流れではなく、サカマタジャークの派生系として入っていった。しかもそれを誰もやっていない、やる気にもならないディープでやったから差を付けられたんだと思います」
その後しばらくは状況を問わずバイトが出続けたカバースキャット。エビやゴリ系などボトムのベイトが食われているときはもちろんテキメンだし、そうでなくても釣れた。試合や雑誌の対決企画などでも驚愕の釣果を連発した冨本さんは一躍琵琶湖の顔役となった。
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カバースキャット・ボトムジャークの基本動作おさらい
琵琶湖から全国に波及したカバースキャットのボトムジャーク。各社から多くのフォロワーが発表され、2021年にはJBTOP50遠賀川戦で武田栄喜さんがこのメソッドで優勝。もはや選手たちに絨毯爆撃を受けていたといっていい最上流エリアの船団のなか、極限のプレッシャーを釣り勝ったのが20Lbフロロを組んだカバースキャットだったことは大きな衝撃だった。
では、カバースキャット・ノーシンカーボトムジャークの使い方を簡単におさらいしよう。
1.ボートであれば基本はフルキャスト。ねらったスポットに対してなるべくロングディスタンスでアプローチする。これはバスのプレッシャー対策でもあり、水中でなるべくラインを寝かせるためでもある。
冨本「飛距離は大事です。とくに琵琶湖ではバスがライブスコープのビームやボートの存在に対してかなりナーバスになっています。近距離のバスにサイコロ系ワームを入れても食わないのに、ライブスコープのビームが届かない距離(およそ30m以上)からカバースキャットを入れたら食うということはよくあります」
2.ルアーが着底するまでフリーフォール。ノーシンカーは着底を感じにくいので、カバースキャットのシンクレートである「3秒で1mフォール(3.5in×20Lbフロロセッティングの場合)」を基準に、水深に合わせてカウントダウンするのがよい。つまり、南湖のベースとなる水深4mなら12秒。北湖の10ディープなら30秒を要する。
3.ルアーがボトムまで着底したら「2ジャーク&6秒ポーズ」を基本に操作。最初の数回は食わせるためというよりも、水中で上にアーチを描いている、沈みきる前のラインを素早く一直線にし、ボトムに近づけるための操作と思ってよい。冨本さんの感覚では、ディープレンジではラインがボトムべったりになるのに5〜6回の操作が必要で、バイトが出るのはほとんどそのあとのことだという。ラインをボトムに這わせることが、ナチュラルに食わせるための最重要事項だということだ。
冨本「慣れてくると、水中のラインの状態が抵抗感でわかるようになります。水中でフワフワしている状態より、ボトムべったりになった状態のほうがややアクション時に重たさを感じるはず。また、ティップから水面までのラインが斜めでなく真下のほうに向いてくるのも、ラインがしっかり沈んでる証拠です」
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「ジャーク&ポーズ」アクションのコツ
操作がジャーク&ポーズなのにも理由がある。ゴリ系のベイトがエサを捕食する際の「ピュッ・フワ〜」という底から離れゆっくり着底する動きを模すことができ、バスにスイッチを入れやすい。
また、ズル引きのようにラインを張る時間が長い操作だと、せっかくボトムを這わせたラインが持ち上げられて浮いてしまい、バスの視界に入ってしまう。つまりバスを警戒させてしまうのだ。入力が瞬間的なジャークなら、ラインが浮くことはない。
ジャークは、ワームがその場でドッグウォークするくらい優しく、トゥイッチに近い感覚で「トントン」と鋭く短く行なう。また、操作中はロッドティップを水面に向ける(=ティップから水面までのラインの距離を短くする)ことで風などの影響を受けづらくなり、ラインが浮き上がりづらくなる。
冨本「6秒のポーズはラインをしっかり沈める意図もありますし、同時にバスにしらけさせずルアーに興味を持たせる絶妙な間だとも思っています。ルアーにバスが寄ってきて、ジーっと観察して、見切られる寸前でルアーがピュっと逃げて、スイッチが入る。バスと『だるまさんが転んだ』をやってるようなイメージです」以上の操作を正しく実践すると、フルキャストなら1投してルアーを手前に引ききるまで10分ほどかかる。それが正解だ。
カバースキャット・ボトムジャークの使い所
冨本「カバースキャットのボトムジャークはラインの存在感を消しつつノーシンカーで誘える究極の食わせだと思っています。しかし、1時間に6投しかできないということは、かなりリスキーな釣りでもある。『ここにはいるはず』という確信のスポットや、バスの回遊が期待できる場所で投入してください」
オカッパリでも有効なカバースキャット・ボトムジャーク
冨本さんがこのメソッドに開眼してから8年目を迎えた令和7年において、当の本人はどのようなアップデートを行なっているのか。
冨本「これまでと違った使い方をしているわけではありませんが、やるべきことをちゃんとやらないと食わないことが増えてきました。最初のうちはアバウトでも食ってきてくれたんですが、とくに琵琶湖に関してはみんながやりすぎてさすがにスレてきた。よりラインをしっかり沈めて、より短くキレがあってルアーが浮きすぎないダートをさせて、よりラインを緩めてバイトを待つ……。そして、これらすべてをより時間をかけて丁寧にやる。地道ですが、これが一番の近道です」
神経衰弱のような釣りだな、と思うかもしれない。だが、これらの精度を誰でも簡単に、飛躍的に高められる特効薬的な方法がある。
「オカッパリ」である。
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オカッパリで釣れる理由
そもそも、この釣りは足元が安定していないと成立しづらい。荒れた湖面で上下するボートでは理想のラインテンションをキープしづらいし、ボートが流されるのは論外。風の影響を受けにくいリザーバーなどならまだしも、琵琶湖ではウルトレックスとの併用が前提となる釣りだ。しかし、オカッパリであるだけで、まずここがクリアできる。
いかにラインをしっかりと沈められるか、という点もオカッパリならイージーだ。フィールドによるが、ほとんどの場合で水深が浅いことに加え、「沖から岸」のアップヒルなアプローチになるため、ボートでのディープ攻略に比べて、素早くラインがボトムを這う状態になってくれる。
最後はプレッシャー対策。エントリーする場所が限られる、あるいはほかのアングラーが多く入りたいスポットに入れないオカッパリでは「限定された立ち位置から、いかにバイトを絞りだすか」ということが往々にして求められる。
お気づきのように、カバースキャットのボトムジャームが持つ性質はこれに見事に合致する。実際のところ、すでに多くのアングラーがこの釣りとオカッパリの相性の良さを見抜いて結果を出しているだろう。
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激戦区フィールドで試す
冨本「取材の話をもらったとき、『オカッパリ、アリやな』と思ったんですよ。これまでボートで頑張って、辛抱しながらやってきたカバスキャの釣りが、たしかにオカッパリなら手軽だし、みんなやって釣っているという話も聞く。それに、琵琶湖以外のバスにこの釣りがどれくらい効くかも試してみたかったんです」
5月某日の土曜日、冨本さんが向かったのは岐阜県・五三川。近年低調な霞ヶ浦水系にとって代わり、今や全国的に見てもオカッパリの最激戦区と言っていいフィールドだ。実際、上流のプールエリアには目に見える範囲に12人ものオカッパリアングラーがひしめいていた。
冨本「ゴールデンウイークに下見に来たときは、もっとヤバかった(笑)。エントリーする場所がぜんぜんなかったです」
上流部の護岸際、カバースキャットをピッチングでショートキャストし、ボトムジャーク……ではなくズル引きすると、答えはすぐに帰ってきた。
冨本「ズル引きで食ってくれるなんて素直!人はめちゃくちゃ多いですが、水に濁りも入ってるから疑わずに食わせやすい」
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記者も試しに3inで釣りをさせてもらったが、足元が安定しているうえに水深は沖でもせいぜい1.5mの五三川。高比重なカバスキャならまったく苦も無くボトムを取れるし、明確なボトムコンタクトを感じながら操作できた。冨本さんが普段やっている「ボート×ディープ」での操作のほうが、よほど我慢が必要で難しいだろう(だからこそ差をつけられるのだが)。
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冨本「そうそう、明確に変わってきたことがひとつあります。それがカバースキャットの基準サイズ。琵琶湖では3.5inがメインでしたが、ダウンサイジングしたほうが結果が出やすくなっており、現在は3inから入ることが多いです。イトヨレがしづらいスイベル内蔵型の専用フックやこの釣りに最適化したロッドも監修したので、ベストなタックルバランスやルアーセッティングも必須ですね」
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[カバースキャット2.5~3in用]
ロッド:ゲインエレメント・ライト 、ジャーキングエレメント (プロトタイプ/デプス)
リール:アルデバランDC XG(シマノ)
ライン:オーバーテックス 14Lb (サンライン)
ロッドは小型ワームのノーシンカージャーク用に開発中のプロト。レングスは6ft7in、パワーはM+クラス。3.5inでは20Lb指定だったラインも、ダウンサイズに合わせて操作性を考慮し14Lbに。ラインをたるませた状態でバイトをとる釣りなので、オーバーテックスのようなハリのある硬めのフロロが推奨
※このページは『Basser 2025年7月号』を再編集したものです。