解禁初期の日高川でG杯を制した下田成人さんに密着。我慢の釣りを強いられがちな状況を打開するチャンピオンの技術を探った。
解禁初期の日高川でG杯を制した下田成人さんに密着。我慢の釣りを強いられがちな状況を打開するチャンピオンの技術を探った。
写真と文◎編集部
ソリッド+メタルライン+背バリの引き釣りスタイル
昨年8月、岐阜県・馬瀬川で開催された第47回G杯争奪全日本アユ釣り選手権を制したのが和歌山県・有田川をホームとする下田成人さんだ。決勝では得意とする引き釣りがハマり入れ掛かり。勝負を忘れて釣りを楽しむと優勝の結果は後からついてきた。友釣りは20代前半から本格的に始めた。最初のころは泳がせで上飛ばしばかりを練習した。
有田川やその隣の日高川は、玉砂利ののっぺりした流れも多いが、盛夏のアカぐされ時にはそういった場所が好ポイントになる。泳がせの有効性が大きい河川なのだ。
そんな下田さんのスタイルが引き釣り主体に転換したきっかけはやはりトーナメントだった。あるとき、神通川での試合で小澤剛さんと当たった。瀬釣りで圧倒的な強さを見せて勝つのを見て引き釣りを覚えることを決心。練習に精を出した。
現在、下田さんはソリッドトップの穂先に、水中イトはメタルライン、背バリを打つスタイルで約8割の釣りをこなしている。
ソリッドトップ穂先は強めのテンションをかけてもオトリが弱りにくく、底を切って動かしたいときにもオトリが底で粘り、動くまいと尾ビレを振ってくれるのが自身の釣りに合っているという。がまかつからS2ソリッドトップ穂先を搭載したサオが登場した10年ほど前に初めて使って釣果が明確に変わったのを実感し、それ以来なくてはならない存在になっている。
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メタルラインに求めているのは感度が第一。例えば、引き釣りの名手たちは追い気のある野アユの存在をオトリの挙動で察知する。ゴソゴソといった前アタリや、オトリがねらった筋から外れたり、ねらった石のまわりを嫌がったりする動きを感じることで精度高くスピーディーな探りが可能となる。チューブラーほどの鋭敏さはないソリッド穂先からの情報量を補う意味でも下田さんにとってメタルラインは欠かせない。

それらと同じくこだわりがあるのが背バリ。下田さんはどんなときも背バリを使う。オトリの潜行能力を高め弱りにくくする効能もさることながら、姿勢を安定させる効果を重視している。オトリが傾いて泳いでしまうと野アユの反応が悪くなるのを実感しているからだ。これは目視できる野アユをねらってみたり、友人に自分のオトリの泳ぎを見てもらったりした経験からも明らかだという。だからここぞという場所で自信をもって待てる。
背バリを打てばオトリは前傾姿勢となりそれが潜らせやすいメリットを生むが、前傾姿勢になりすぎても反応が悪くなるため、なるべく水平に近い姿勢で引きたい。そのためテンションを掛けたときに、ハナカンと背バリが直角になる位置に打つのが下田流だ。正中線上に打つのが基本だが、それでも傾いてしまうオトリもいる。その場合は、姿勢が立つ位置を探って打ち直す。ルアーフィッシングのトゥルーチューンにも通じるコツだ。


苦しい状況を打開するG杯王者のアユ釣りテクニック
そんな下田さんは解禁初期にはどんな釣りを見せてくれるのか。5月31日、一般解禁から10日が経過した和歌山県・日高川の龍神地区を訪れた。ホームである有田川の南隣の河川で、龍神街道に沿って流れたのち紀伊水道に注ぐ。アユ釣りで人気の龍神地区は日本三美人の湯として名高い龍神温泉の一帯で、大岩は少なく小石と岩盤が特徴的だ。下流に椿山ダムがあるため人工産と汲み上げ放流のアユが対象となる。
取材日は一日中曇りの予報で水温上昇があまり期待できない状況。さらに先日と前々日は天気がぐずついて雨の影響も心配だ。まだ追い気の弱い初期、さらに水温が上がりづらい状況で、G杯チャンプはどうアユを掛けていくのか?
「有田川でもそうですが、初期はきっちりオトリを止める釣りのほうが掛かります。ですが私の得意のスタイルが引き釣りですから、初期は苦手意識があり、いつも悩みながら釣りをしています。それでも解禁直後に来たときは、午前と午後にそれぞれ2時間やって約40尾、時速10尾ペースで釣れましたからアユの魚影は豊富です。先日の雨でアカが飛んでしまったので、岸際の大きめの石や岩盤など残りアカをピンポイントでテンポよく探っていきます」と下田さん。
朝9時、龍神温泉より1kmほど上流の道の駅周辺からスタート。すると1投目で幸先よく掛かった。その後も3尾追加したものの、下田さんは怪訝な表情。
「一番いいところで掛からないんです。今も流れ込みの水当たりのいいところにオトリを入れていますが反応がない。まだ水が冷たくて流れが速いところでは追ってくれないのか。それか、ここは人気ポイントなので大きいサイズは抜かれてしまっているのか……。解禁初期は、ここぞというポイントでは10〜15秒はオトリを止めて、時おり穂先を上げてテンションを加え、尾ビレを振らせる誘いを入れます。掛からなくても反応が出たところや石色がいいところでは入れる筋を変えてみます。水温の変化でアユが動くこともあるので、時間を空けて入りなおしてもいいでしょう」
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岩盤を「縦に釣る」
下田さんが次に目をつけたのは、淵状に流れが緩くなっている、水深のある岩盤だ。岩盤の際は60度くらいの斜面になっていて、川底は水深2mほど。まずは川底でオトリをなじませ、ベタザオで底を釣る。反応がなければサオを立ててオトリを浮かせる。岩盤の段差や起伏の上にオトリが乗って落ち着く場所を下から上へと段階的に探るのだ。そのどこかに野アユがついていることを想定した操作だ。
「岩盤が多い龍神では基本のテクニックで、みんな『縦に釣る』と言ってやっていますよ」と下田さん。
この方法で岩盤の上流側から探っていくとねらいどおりアユが掛かった。
入れ掛かりこそしないものの、ひとつの岩盤から3尾ほど手にできるペースに。岩盤から岩盤への移動の合間には瀬もねらってみる。川の中央付近の石はまだ白いが、流心から離れたところにはアカも見える。そういった場所へオトリを入れて、長めに止めることを意識すると、ペースは遅いもののポツポツと掛かってくる。ただ、瀬尻側の流れが緩い場所で口掛かりが多かった。曇天で水温が上がらず追いしぶっている印象だ。
「あと1〜2週間もすれば白い石も赤茶けてきて釣れ始まると思います。さらに季節が進んで盛夏のアカぐされになると、今度は玉砂利底か小石のチャラ瀬で掛かるようになるのが龍神地区の特徴です」
午前中は27尾を手にした。なかなか理想の掛かり方をしてくれず、首をかしげながらの釣りとなったが、それでも時速10尾に迫る釣果だ。

泳がせ釣りに変えて追釣
午後は温泉周辺を探ったのち、さらに上流側へ2kmほど走ったポイントの岩盤に入った。しかしここからアユ釣りの難しさを噛みしめる展開に。午前と比べても極端に追いが悪くなっているのだ。長く止めていると反応を得られる場所もあるものの、当たりが弱く掛かっても逆バリが切れない状況に。そのまま抜き上げるとバレの原因となるためサオの弾力を生かして切れるまで待つのだが、悩ましい状況だ。オトリが小さなアユの群れについて泳ぎまわってしまう場面も。変化と言えば流下してくる落ち葉がちらほら目に入るようになったくらいだが、そういったちょっとした変化でピタリと反応が途切れてしまうのが難しさだ。
苦肉の策で泳がせ釣りを試すと追加に成功。「僕の釣りじゃないんだけどなぁ……」とやや不満げな下田さんだが、引き出しに多彩な技を持っているからこその対応力を見せてもらった。
昨年、自身初のG杯チャンプの座に輝いた下田さんは「運も味方してくれて、自分の順番が回って来てくれたのかな」と謙遜するが、勝負どころで幸運を呼び込むためにはその舞台に立つまでの対応力が必要で、幸運を結果につなげるためには他人よりも秀でた技術が必要だ。そんな下田さんの実力を垣間見た取材となった。
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※このページは『つり人 2025年8月号』を再編集したものです。