アユルアー(アユイング)がジャンルとして定着しつつある今、ルアーフィッシング界の伝説的スイムベイトが新たな選択肢に名乗りを上げた。アユ用に専用設計されたその名は「ジョインテッドクローシフト113邪神」。ミノーでもバイブでもない"邪神"誕生の舞台裏を効果的なふたつの使い方とともに深掘りする。
アユルアー(アユイング)がジャンルとして定着しつつある今、ルアーフィッシング界の伝説的スイムベイトが新たな選択肢に名乗りを上げた。アユ用に専用設計されたその名は「ジョインテッドクローシフト113邪神」。ミノーでもバイブでもない"邪神"誕生の舞台裏を効果的なふたつの使い方とともに深掘りする。
写真と文◎可児宗元
アユルアー専用「ジョインテッドクローシフト113邪神」誕生
和歌山・三重・奈良をまたぎ、熊野灘へと注ぐ清流・熊野川。太古の自然を残すこの流れに立ち、ひとつのルアーがキャストされた。着水したルアーは流れをとらえてゆっくりと泳ぎ出す──そのボディーは、まるで本物のアユのようにしなやかに揺れ、石の際でヒラリと身をくねらせた。
「これが『邪神』の動きなんですよ」と笑顔で話すのは、ジョインテッドクローシリーズの開発者であり、ガンクラフト代表の平岩孝典さん。新たに開発された「ジョインテッドクローシフト113邪神」のテストを兼ね、友釣りのトーナメンターであり中学時代の釣りの師匠である喜多幅武さんとともに訪れた熊野川で、その性能を自ら披露してくれた。

ジョインテッドクローが変えたルアーの常識
「バス用として長年信頼されてきたジョイクロを、今度はアユの世界で本気で使えるようにした。それがこの邪神なんです」
アユルアー界に新風を吹き込もうとしている「ジョインテッドクローシフト113邪神」。そのルーツを語る上で、外せない存在がオリジナルの「ジョインテッドクロー」だ。
このルアーがバスフィッシング界に登場したのは2004年。当時、ミノーやクランクベイトといった直線的なアクションのルアーしか存在しなかったなかで、滑らかに蛇行するS字軌道で泳ぐビッグベイトという全く新しいルアーとして衝撃を与えた。ただ巻くだけで、まるで本物の魚のように水を切りながらスイーッと泳ぎ、時に流れを受けてふらつき、揺らめくボディー。
このS字系スイムベイトがなぜ魚に効くのか?ただ一直線に泳ぐのではなく、常に進行方向が変化する蛇行軌道は、ルアーの先にアングラーの気配を察知されづらい。まるで意志をもつ魚のような動きが警戒心の強いフィッシュイーターに効いた。
それでいてアングラーの意志を機敏に表現する芸達者ぶりも併せ持つ。たとえば、流れに乗せて漂わせたところからリールを一気に巻いて急加速させれば、天敵に気づいて逃げるベイトフィッシュに。ラインスラックを利用して軽くトゥイッチを入れれば、左右にグリンッと急旋回。弱ってヒラを打つ魚を演出することもできる。ジョイクロが多くのアングラーのタックルボックスに常駐するようになっても、使い手次第で千差万別の顔を見せるこのルアーの釣果が衰えることは無かった。
加えて、リアルで美しいシェイプとカラーリングも、アングラーの感性に強く訴えかけた。ビッグベイトというサイズ感を感じさせないナチュラルな外観は、バスのみならずトラウトやシーバス、果ては海外の大型淡水魚までをもターゲットにできるスーパールアーへと進化していった。
ジョイクロ113をベースにアユ用にカスタム
ジョイクロとアユの縁は現在のアユルアーシーンより以前から既にあった。
「ジョイクロでバス釣りをしていて、バックウォーター(ダム湖上流の流れ込み)でアユが反応することって結構あるんですよ。見た目がそもそもアユに似せて作ってるわけだし、動きも本物のアユそのもの。だからユーザーからも『アユ釣れますよね?』って声は以前から多かったんです」
そう語る平岩さんが、ならば本気でアユ専用に作ろうと着手したのがジョインテッドクロー邪神。ジョイクロシフト113をベースに、腹部にシンカー用のアイ、リアにハリス止めを追加し、フックセッティングと姿勢調整の自由度を高めた専用設計だ。
1/2ozクラスのウエイトは、アユルアー用ML〜Mクラスのスピニングタックルで扱える絶妙なバランス。通常のミノーよりやや重みがあるぶん、流れの強い瀬でも姿勢を崩しにくく、底付近を通しやすいというメリットもある。ラインはフロロ6〜8Lb、もしくはPE0.6〜0.8号+リーダー8〜12Lbが推奨だ。


アユよりもアユらしく
邪神最大の特徴は「アユらしく、しかしアユ以上に」水中でリアルな挙動を見せることにある。ポイントは、リップレスであることと2ヵ所のジョイント構造。
「普通のアユ用ルアーは、常に頭が上流を向くように設計されていて、流れの中でも姿勢が安定してる。それに対してジョイクロ邪神は、流れに乗せるとちゃんと頭を下流に向けてナチュラルに下っていくし、横泳ぎ、ターン、イレギュラーなヒラ打ちも自在。まるで自分の意思で泳いでる魚みたいに見えるんです」
後方のテールジョイントには、ダンパー機構が搭載されており、受ける流れの強さでアクションが変化(シフト)する設計だ。弱い流れでは腹部ジョイントだけが動いて「悠然とした泳ぎ」を、強い流れでは尾ビレも連動して「必死に泳ぐ挙動」を自然と演出できる。つまり、状況に応じて勝手にアクションが変わる生き物仕様になっているわけだ。

ジョイクロ邪神の基本の使い方
1.スイミングで魅せて、スイッチを入れる
ジョイクロ邪神のメインアプローチとなるのが、この「スイミングによるアプローチ」。流れの中に送り込んだルアーを、ナチュラルドリフト気味に流しながら、ときには軽くテンションをかけて泳がせる。要は、ジョイクロ特有のイレギュラーで柔らかい蛇行アクションを流れに乗せて再現するイメージだ。まるで本物のアユがフラつきながら泳いでいるような挙動が、ナワバリアユやリアクション気味に反応する魚のスイッチを一気に入れる。
この使い方は、とくに瀬尻やヨレの中で魚の姿が見えているのに追わない場面に強く、アタックのタイミングをこちらから作れるのが魅力だ。

2.石まわりでヒラを打たせる「食み」演出
邪神が持つもうひとつの強力な武器が、リアルなヒラ打ちモーション。「流れの中で石の下流に差しかかったとき、ラインを軽くチョンチョンと弾くと、ジョイクロがクイッと体を横に倒してヒラを打つんです。アユが石についたコケを食んでるように見える動きで、ナワバリ意識の強いアユには強烈な刺激になる」
この「食み」演出は、石周りにいる居着きのアユに対して非常に有効。アユが実際にテリトリーを持っているような状況では、ヒラ打ちで見せた瞬間に迷いなくアタックしてくるケースも多い。

ジョインテッドクローシフト113邪神は、これまでのアユルアーの常識からは外れた存在かもしれない。アユルアーの釣りがさらなる発展を見せつつある今、この革命児を手にする価値は、きっとある。
※このページは『つり人 2025年9月号』を再編集したものです。