ニジマスをルアーでねらう管理釣り場(=エリアトラウト)は初心者向けのイメージが強いが、実はエキスパートもハマる奥深さがあった。これから始める人や今までなんとなく釣ってきた人へ、名手松本幸雄さんが奥が深いエリアトラウトの基本を紹介。
写真と文◎編集部
解説◎松本幸雄
松本幸雄(まつもと・さちお)プロフィール:1982年生まれ。群馬県邑楽郡出身。中学生の頃からバスやトラウトのルアーフィッシングに親しみ、栃木県にあった管理釣り場で30代までスタッフ兼インストラクターとして働く。高いテクニックと独自の釣り論は早くから注目され、10代の頃から釣り雑誌にもたびたび出演。エリアトラウトの名手が集うトラウトキング選手権大会で個人総合3位内に贈られるマイスターを2度獲得し、第1回大会からトップカテゴリーのエキスパート戦に毎年出場し続けている。
エリアトラウト名手が教える、入門用「ルアー・タックル・ライン」
管理釣り場の特徴はなんといっても絶対に魚がいること。魚がいるポイント探しから始めたり、魚がいるかいないかわからない場所でサオをだしたりする自然環境よりも、一歩釣果に近いところからスタートできる。
それゆえに初心者でも釣れやすく、釣り経験者が何の気なしにルアーを投げてもポツポツと釣れてしまうのでそこで満足してしまう人も多いだろう。しかし、絶対に魚がいる環境だからこそ自身の腕に釣果が左右されるということがエキスパートたちをのめり込ませているのだ。そんなエキスパートの一人である松本幸雄さんにエリアトラウトの奥深さを教わった。
▼ 動画でも!松本幸雄さんが教えるエリアトラウトの基礎
最初はスプーンとクランクから用意
左上:1.2gスプーン。狭い場所や放流から時間が経ってきた時に使う
左中:1.8gスプーン。広い場所で使いやすい。スプーンは放流時など活性が高い時に使う
左下:特殊なクランクベイト。早く沈むので深いところを探るときに使いやすい
右上:トップウォータープラグ。状況は限られるが他を圧倒する釣れっぷりになることも
右中上:フローティングタイプのクランクベイト。表層でよくあたる時に使うとよい
右中下:シンキングのクランクベイト。まずはコレから始めると魚の反応が得られやすいだろう。
右下:メタルバイブ。他のルアーで反応がない時に使いたいお守り的ルアー
まず驚いたのはルアーの量。タックルボックスを開けると100個以上のスプーンやプラグが準備されていた。そのなかからこれから始める人がそろえるならと取り出したのは1.8gと1.2gのスプーン、フローティングとシンキングのクランクベイト、お守りとしてトップウォータープラグとメタルバイブだ。
ルアーの重さや色は悩みどころのひとつだが、釣り場によって釣れる色は違うので行く釣り場や釣具店に聞くのが確実とのこと。
ライン選びは意外と重要
ラインはナイロンとエステルを使い分ける。どちらもカラーは目立たないナチュラルを選ぼう。エステルなら0.3号でフロロカーボンの0.6号をリーダーとして30cmつけ、ナイロンなら0.3号の直結でOK。スナップは軽いものを使うとルアーの動きに影響が出ない。
使い分けの方法としては、どのタナ(水深)にルアーを通すかでナイロンがいいのか、エステルがいいのかが異なる。タナとは魚が釣れる層のことで、反応がある層がどこか探りあてることがエリアトラウトでは重要だ。
たとえば、水に比重が近いナイロンを使えばラインは表面付近にとどまりやすいため、スプーンは浮き上がりやすい。一方、エステルを使うと比重はナイロンより重いためラインは沈んで直線的になりやすく、スプーンはナイロンよりも浮き上がりにくい。これによってアプローチも変わってくるのでラインの使い分けが必要になってくる。
また、ラインの使い分けは水温も判断材料のひとつ。水温が高い時(適温に近い)、魚の活性が上がり食い方が大きくなると、伸びるナイロンだとハリ掛かりするが、伸びないエステルだとアタリがあるのに掛からないということになる。
水温が低い時(適温から大きく外れている)は魚の活性が下がりアタリが小さい。ナイロンではアタリが伝わらないが、エステルであればアタリを取れて掛けていくことができるのだ。いろいろ試してもアタリが全くない時や掛からない時はラインを変えてみるのも効果的な手段のひとつなので用意しておこう。
ロッドとリール
ロッドはエリアトラウト専用ロッドのUL~Lパワーがベストだが初めはバス用などでも構わない。
松本さんはラインに合わせてロッドの調子も変えている。基本的にはナイロンにはレギュラーテーパー(胴調子)でL〜MLクラスなどやや硬めのロッド。エステルにはファーストテーパー(先調子)でULなどの柔らかめのロッドを合わせるとのこと。2タックル用意しておくと攻め方の幅が広がるが、初心者であれば、扱いやすいナイロン用のタックルから揃えておくとよいだろう。
リールは2000番がオススメでドラグ性能がある程度しっかりしているものを選びたい。価格帯でいえば1万円くらいが目安だ。
釣果を分ける3大要素「場所・アプローチ・タナ」
エリアトラウトにおいて大切なのは「釣りをする場所・アプローチ・タナ」だという。
場所は一概には言えないが、池の角に魚が溜まりやすいことが多いそう。他の場所には魚が全くいないわけではないので角で釣りができなくても心配はない。
アプローチとは巻き速度やアピール力の強弱などだ。初めての場合はルアーが泳ぐ一番遅い速度を足もとで確認してまずはその速度で巻き始めればOK。
タナは前述したように魚が釣れる層のことで、釣ってみて探っていく必要がある。場所も同様だが、日差しや風などさまざまな要因によって刻一刻と変わっていくのでアタリが遠のいたらこまめに探っていこう。この日はたった15分の間でも変わっていくほどシビアだった。
使うルアーによっても狙えるタナやアピール力の強弱が変わってくるので、最初におすすめしてもらったスプーン・クランク・トップウォータープラグ・メタルバイブの釣り方を解説してもらった。
【動画で確認】名手の動きをチェック!
エリアトラウトでは「巻き速度」や「ロッド角度」も非常に重要!文章だけでは伝わりにくいニュアンスを、まずは映像で確認してみましょう。
※クリックすると釣り方の解説シーン(04:33)から再生されます
スプーンの基本は「カウントダウン」!タナを攻略する巻き方のコツ
管理釣り場では定番ルアーのスプーン。誰にでも使いやすい入門者向けかと言われれば実はそうではなく、一番奥が深いルアーだそう。その理由は重さやカラーの使い分けに、リトリーブ方法のバリエーションが組み合わさることで膨大なパターンが生まれるからだ。
カウントダウンで「タナ」を見つける方法
そんな奥が深いスプーンだが基本は巻くだけの「ただ巻き」で充分釣れる。キャストしたらまずはフリーフォールのカウントダウンで水深を秒数で確認する。そうしたら次のキャストではそれよりも短いカウントでただ巻きを始める。アタリがあればその秒数がその時のタナなのでそこをキープして探っていこう。
アタリがあったけど掛からなかった場合はその場でフリーフォールさせて着底までの秒数を確認。キャスト時の秒数と比較するとより正確なタナをイメージできるだろう。アタリがなければ別の秒数でただ巻きをしていこう。
ロッド角度は160度?アタリを弾かないコツ
注意する点はロッドティップとラインの角度とロッドの持ち方だ。ティップとラインの角度は160度前後になるようイメージすると食い込みを弾きにくく掛かりやすい。ティップとラインが直線(180度)でも直角(90度)にもならないように心がけよう。
アタリは手もとに伝わったりロッドティップに表われたりする。はじめのうちはとにかく変化を感じたら合わせてみよう。ロッドの握り方はとにかく力を抜くこと。握り込まず、親指もロッドから離して下側から支えるだけで充分だ。このくらい自由に動く状態にしていないとアタリがあるのに掛からないことが格段に増える。
スプーンの重さとカラーの使い分け
エリアトラウトは魚の活性に応じて、ルアーに対する反応が頻繁に変わりやすい釣りだ。スプーンはどちらかといえばアピール力の強いルアーに位置付けられる。 特に放流直後など、活性の高い個体を手返しよく釣るのに適しており、その場合はアピール力の高い、金・オレンジ・赤金などの「派手な色」かつ「重め(1.8g前後)」を選び、速巻きで誘うのがおすすめだ。放流から時間が経つなど、魚の活性が落ち着いている状況では、スプーンのサイズを小さくし、カラーも地味で落ち着いたものへとローテーション。巻きスピードも徐々に落としていくのが基本の使い方となる。また、釣り場が広いところでは重め、狭いところでは軽めといった使い分けも行うといいだろう。
クランクベイトは「ただ巻き」で釣れる!初心者が最初に使うべき理由
クランクベイトは入門者にうってつけ。重要なタナのキープは、巻くのを止めたらすぐに沈んでしまうスプーンだと入門者には案外難しい。しかし、フローティング、もしくはシンキングでもゆっくり沈むクランクベイトなら難しいことは考えずにゆっくり一定に巻けば誰でも同じ層を探りやすく、結果として魚も釣りやすくなる。また、浮力があることでスプーンよりもゆっくりとアプローチできるので、活性の低いトラウトにより効果的なルアーと言えるだろう。
一定巻きの「ナリ」と、早巻きの「グリ」とは?
クランクベイトには表層を探りやすいフローティングタイプと中~下層を探りやすいシンキングタイプがあるが、まずは全層探れるシンキングから使うとよい。探りやすいクランクベイトの基本的な巻き方には松本さんがナリ(一定速度巻き)とグリ(早巻き)と呼ぶ2種類があるのでそれらをまずは覚えよう。
釣り開始でタナがわからない時はナリからスタートしていく。ナリは最初から食わせるためのゆっくりした一定速度で巻き続ける釣り方だ。ブリブリとサオ先が動いたり手もとに伝わる振動を感じたりする最も遅い速度で巻き続けるのが基本。
クランクベイトの場合、巻いた分だけ潜るのでタナはハンドルの回転数を数えることで管理することになる。たくさん巻いたところでアタリが出た、つまりタナが深い場合はそこに到達するまでのタイムロスがあるので次のキャストからはグリを使っていくとテンポよく釣っていくことができる。
グリとはナリでアタリが出た回転の数だけ最初に早く巻くことで目標のタナまで急速に潜らせてしまい、あとはナリと同様にゆっくり一定に巻いていく釣り方である。ナリが有効なのはタナを探す時や広範囲に魚が散っていて特定のタナがない時で、グリが有効なのはタナが決まっている時や深い層に魚が多い時だ。まずはナリで探ってみてどちらが効率的か状況に応じて使い分けると釣果アップにつながる。
釣れない時の切り札!「ボトム」と「トップ」攻略法
中層のスプーンやクランクで反応が悪くて釣れない時もあるだろう。そんな時に助けてくれるのがボトムを探れるメタルバイブや水面で使うトップウォータープラグだ。
メタルバイブでボトムを「育てる」
メタルバイブの使い方はボトムを跳ねさせるだけ。投げて着底したらブルブルとした振動を感じながらロッドを小さくゆっくり持ち上げて、一気に落とす。上げる時にリールを少し巻いて余分なラインのフケを取るとよい。
アタリは手もとに来たりたるんでいたラインが一瞬張ったりするので即座に合わせよう。ロッドを持ち上げた頂点でアタリが出ることもあるから気を抜けない。手首を返して持ち上げるのではなく腕全体を持ち上げるようにすると、そういった場合でも手首で合わせることができる。
はじめの数投は反応がなくても同じところに投げ続けていると徐々に反応が出てきてポイントが育っていくのでおもしろい。1尾がメタルバイブをつついて周辺に砂煙が広がると他の魚も集まってきてアタリが増えだすのだ。メタルバイブの色は基本的に底の色に似せた茶色や緑色系がどこでも有効。
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ライズがある時はトップウォーターの出番
トップウォータープラグは水面を使って食わせるルアーで暖かい時や魚がよく跳ねているときに使うと他のルアーよりもはるかに釣れてしまうこともあるルアーだ。
使い方としてはロッド操作で音や水しぶきを出して誘っていくことになる。泡やゴミが溜まって帯状になっている場所や魚がよく跳ねている場所をねらうとより釣れやすい。カラーは下から見てシルエットがはっきりしないで透けるクリアカラーが基本だ。
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大型トラウトを狙って釣る!レギュラーサイズと差別化する「ズラし」の極意
スプーンもクランクベイトも共通しているのはまずはアタリを取ること。アタリさえあればそこからいかに調節してヒットに繋げていくかがこの釣りの奥深さだ。巻き速度を変えるのか、ルアーを変えるのか、ラインを変えるのか、などなど膨大な選択肢があるのがおもしろい。
大型魚にねらいを絞ることも可能で、一言でいえばその時のパターンから何かをずらせばいいと松本さん。松本さんは、アワセがなくても一投一尾でキャッチできるのが100点の釣りだとしているが、その時に釣れる魚のサイズはその場所で一番数の多いレギュラーサイズ。
大型魚は数も少なく、レギュラーサイズとは何かが違うことが多いため、そのレギュラーサイズが釣れる基準のパターンから巻き速度やタナなどをずらすと釣れやすいそうだ。ただし、ずらすということはレギュラーサイズも釣れにくくなることでもある。
釣れない状況を打破する3つのコツ
最後に釣れないときに意識したい、松本さんから教わった考え方やテクニックを紹介する。
魚体の色も情報のひとつ
この釣りはありとあらゆる情報を駆使して組み立てていく釣りだ。魚の色も情報のひとつになる。同じニジマスでも背中が黒い(濃い)個体と白い(薄い)個体がいる。
これらの違いで放流されてから時間が経っているかどうかがわかるのだ。黒い個体は放流したばかりのフレッシュな個体で、時間が経っている白い個体は経験値を積んで賢くなっている個体。このことを知っておくと釣りを展開していくにあたって選択肢に幅が出ることだろう。
グリップの握り方で釣果が変わる?
アタリがあるのに掛からない時など、少し違うのかなとタナやルアーを変える前に確認しておきたいことがある。それはグリップの握り方やハリ先だ。
特にグリップの握りはアタリが出て気持ちが前のめりになると握り込んでしまいがち。そこを堪えて力を抜くだけであっさりと掛かるようになることが多々ある。それでも掛からないようであればハリ先が鈍くなっている可能性があるのでチェック。せっかくのチャンスを逃さないように替えバリは用意しておこう。爪にハリ先を立てて滑らないか確認するのが一般的だ。
エリアトラウトは正解を見つける釣り
釣り場の状況は刻一刻と変わっていく。取材当日のようすでいえば朝は底周辺に固まっていたが、日が昇っていくにつれて魚も徐々に浮いてきた。気温が高くなる2時頃には水面で跳ねる魚もよく見られるほど浮いていたが、周囲の木の影が差し込んでくると同じ池の中でも日影になっている部分では反応が悪く、日差しが当たっている部分に移動すると釣れるなど、水中だけでなく周りの環境なども釣果に繋がる要因となる。
さらに放流などもあり、パターンを見つけてもすぐに変わり、釣れ続かない。対応するためには魚や道具の知識、使うルアーの種類……などさまざまなものが必要になる。自分なりに理由を付けて手を変えることで自分のイメージと状況があっているか答え合わせを繰り返す。そうして少しずつ魚に近づいていくのは他の釣りと同様で楽しいものだ。観察力と想像力を駆使して目まぐるしく変わる状況に対応できた楽しさを味わいにぜひ近くの管理釣り場へ行ってみてほしい。
本当に釣れるの? 松本さんが「10投で何匹釣れるか」に挑戦!
※クリックするとチャレンジ開始のシーン(16:27)から再生されます
※このページは『つり人 2021年4月号』の記事を再編集・情報更新したものです。



