リールメンテナンスというと、工具を用意して分解、パーツを洗浄してグリスアップ……というのは過去の話。現在のリールの中には取説に「分解禁止」と書いているものまである。じゃあユーザーはどうすればいいのか?メンテナンスの手順をまとめてみた。
目次
1.水洗い:外部のパーツに付着した塩分を洗い流す
冷水のシャワーをリールの上からさっとかける。基本的に、普通に使っていて海水が付く以上の部分まで水を回すのは不要だ。 後ろから強いシャワーをかけるとローターの中まで水が回ってしまうが、通常の使用中にローター内へ海水が入ることはまずない。
「水洗い可能」が謳われ始めたころ、ボディに水抜き穴が設けられていたことがあり、内部を洗浄するものと思っている人がいるかもしれない。しかし、普通に使っていてギアやベアリングの隙間に海水は入らないし、万が一入ってしまったらシャワー程度では取り除けない。 水洗いは、あくまで外部に付着した塩分を洗い流すためと心得よう。
水の浸入を防ぐため、ドラグノブは締めておく
多くのリールの取扱説明書には、水洗いの前にドラグを締めるよう記載されている。 一見すると、ドラグノブのパッキンは垂直なスプール内壁に対し直角に当たっているため、ドラグの締め具合は防水性に関係ないように思える。しかし実際は、締め付けが弱いと水圧でパッキンが傾き、そこから水が浸入してしまうことがある。
また、パッキンは軟らかいゴム製なので、変形して水が入らないよう、強烈なシャワーを前面(ドラグノブ側)から直接かけるのは避けたほうが良いだろう。 パッキンが付いていないリールの場合は、極力水が入らないよう慎重にシャワーをかけ、洗浄後はすぐにノブを外してティッシュなどで内部の水滴を取り除くことをおすすめする。
2.風通しの良い日陰で乾燥させる
シャワーをかけ終わったら、強く振って水を切る。乾いたタオルなどで水分を取り除いたら、風通しの良い日陰で数日置いて乾燥させる。
水がオイルやグリスに混じり込むため、濡れた状態でハンドルは回さないほうがよい。例えばボールベアリング入りのハンドルノブを洗浄直後に指ではじいて回してみると、いつもより高い音がするはずだ。これは水でオイルが薄まっているためで、数日乾燥させると元に戻るから心配はないが、乾燥前にあまり回転させるのは好ましくないだろう。
3.注油:メーカー純正のグリスをパーツに注す
乾燥が終わったら外部の可動パーツに注油する。現在ダイワ・シマノともスプレー式の純正オイル&グリスを出しているのでこれを使う。グリスがダメなのは内部のワンウェイクラッチだけなので、外部の可動パーツはグリスだけでもOK。オイルのほうが回転は軽いが、販売されているグリスは低粘度なのでそれほど変わらない。
大雨などでハンドルノブ支持部やパッキンなしのリールのメインシャフト・ピニオン摺動部に水が入ると、回転に引っかかりが出ることがあるため、より耐水性の高いグリスのほうが安心だ。
回転部分はパーツ次第で注油
ハンドルノブ支持部は水の入りやすい元側のすき間にスプレー。ハンドルノブは分解して注油してもいい。メインシャフト(スプール軸)がピニオンの口から出たり入ったりする部分のうち、パッキン付きの高級品はよほど乾いていない限り不要。パッキンなしのものは黒くなったグリスをぬぐってグリスを注油してもよい。
ハンドルを外してドライブギアを支持するボールベアリングにグリスをスプレーしてもよいが、ピニオンの5~6分の1しか回らないので必要性は低い。むしろ防水のためパッキンに薄くグリスを塗っておこう。
ベール支持部にグリスを注油
意外に動きが悪くなっているのがベールだ。サイドのすき間からグリススプレーを吹き込むと、作動が軽やかになる。
となると、分解して支持部をクリーニングしてグリスアップするとさらに気持ちがよさそうだ。しかし、この部分を外すのはやめた方がいい。現在ほとんどのリールのローターは樹脂製で、ベールはタップネジで組み付けられている。スペース上この部分のネジは首下が短く、取り付け取り外しを繰り返すと、早い段階で緩みやすくなり、最後には接着せざるを得なくなる。外からのグリス注入にとどめよう。
ラインローラーはモデルに応じて
最新のダイワ「マグシールド」、シマノ「Xプロテクト」はオーバーホール間の1シーズンはメンテフリーでいいはず。いずれも内部の特殊な油脂類を流すので外部からの注油は不可。
ダイワのマグシールドなしは外からスプレーグリスを吹いて浸み込ませる。ボールベアリングまで届かなくても、パッキンがグリスで濡れれば防水になる。
シマノの旧タイプ「コアプロテクト」もメーカーの言う1シーズンのオーバーホール間はもつはずだが、同社「Xプロテクト」の別売りグリスを入れてもよい。筆者は純正グリスを注しているが問題はない。
異種金属の接触部やカシメ部のサビをオイルで防ぐ
80年代初め、各社が軽量化のためアルミパーツの使用を増やしたころ、部品が割れるトラブルが多発した。アルミは錆びると白く粉を吹きながら膨張する。特にカシメ部分はカシメで出来た微細な亀裂に海水が浸みこんで錆び、サビが亀裂を押し広げるのを繰り返す。さらにステンレスとの電解腐食も加わって、膨張したアルミの軸でラインローラーが割れたりハンドルノブがもげたりするケースもあった。
現在のリールはそこまではいかないが、アルミのカシメ部や異種金属との接触部は、オイルを少量塗っておくとより安心だ。
ドラグのグリスは専用品が必要
ドラグに水洗いなどでうっかり水が入ると、グリスの潤滑性が落ちてシャクリが出始める。ドラグに限らずグリスには水を排出する性質があるようで、数日空気にさらせば白濁が消えて元に戻る。したがって、水が入ってシャクリの出たドラグも、ワッシャーを空気にさらせば元に戻るはずだ。
それでもダメな場合、グリスアップとなるが、注意したいのはドラググリスは店頭で販売されているスプレー式のものとは違うこと。サービスパーツ扱いになるので、取り寄せるかリールごとサービスに出すことになる。
4.定期的な公式オーバーホールがおすすめ
定期的なオーバーホールは、リールの健康診断のようなものだ。ダイワなら「SLP(スポーツライフプラネッツ)」、シマノならカスタマーセンターなど、公式のサポート体制が整っている。
セルフメンテの限界は「分解」にある。精密化が進む現代のリールにおいて、素人の分解はリスクが高い。プロの手による分解洗浄・グリスアップを受けることで、リールの寿命は飛躍的に延びる。基本工賃は4000円前後からと、愛機を新品同様の巻き心地で維持できるなら安い投資といえるだろう。
※このページは『SEABASS Life』の記事を再編集し、最新の情報に更新したものです。
