熊本県・宇土半島の先に連なる大矢野島、上島、下島、そして数々の付属諸島からなる天草エリア。シーバスや青物、アオリイカなど多種多様なターゲットがねらえるこの「釣りの楽園」で、11月上旬、板井優斗さんがストイックに追い求めたのは「尺アジ」だ。舞台は樋島。一筋縄ではいかないテクニカルな状況を打破するため、板井さんはヤマガブランクスの「ブルーカレント」2機種を用意。その個性を使い分け、良型を攻略していくプロセスを追った。
写真と文◎藤原武史
解説◎板井優斗
板井優斗(いたい・ゆうと)プロフィール:まだ20代ながら、地元熊本を中心にライトゲームや青物、ロックフィッシュを楽しむ。毎日仕事終わりに2時間かけて釣りに行く変態的アングラー。
尺アジが接岸する地形
地元熊本を中心にライトゲームや青物、ロックフィッシュを楽しんでいる板井優斗さんが走らせる車は上天草の南の海岸線を進む。向かうところは、樋島だ。天草の上島といくつかの橋を通って車で行ける陸続きの島である。天草の人気釣り場である牛深でも天草五橋でもその周辺でもない。上島の南にある小さな島だ。
アジングファンなら、ポイントによってアジのサイズはある程度決まっているということを肌感覚で理解しているのでないだろうか。不思議なことに尺アジが釣れる場所はだいたい決まっている。仮に条件が揃っている場所でも必ず釣れる訳ではない。結局、アジはサイズが大きくなればなるほど回遊性が高くなる傾向があるようだ。沖合との条件が揃っていないと岸にまで寄ってこないため、尺アジが釣れる場所とタイミングを見極めるのはかなり難しい。
尺アジが接岸する場所は各地に1ヵ所か2ヵ所あるかどうかだと思う。しかし、ここ天草には期待できる場所がいくつもある。9寸までならどのポイントでもチャンスがある夢の釣り場だ。
「今日行く所はシーズン初期に好調なポイントです。牛深はまだ始まっていないようなので、こちらをセレクトしました」
板井さんによれば、シーズンによってアジが入ってくる場所は微妙に変わってくるらしい。有名なポイントでもタイミングが違えば数百m離れた場所にとって変わられることもあるという。通いこまないとこういった細かい変化にはなかなか気付けない。
天草のアジング事情
近年、九州では良型アジの接岸が少なくなっている。昨季は遅れているのかと思っていたら終わってしまったなんて声も聞かれるほど。これは釣りに限らず漁業でも同様のようで、アジの干物が高額で取引されるという噂もあった。九州は全体的にいいサイズが釣れないという印象がぬぐえない状況がここ数年続いていた。
今年はどうかといえば、実のところ明るい情報があちこちから上がってきている。今回、取材をお願いした板井さんによると「今年はいいのでないかという話が聞こえてきていますね。実際、私も体感的にそのような印象を持っています」という。
天草のアジングといえば下島の牛深が有名であるが、宇土半島の先端にある三角から天草五橋を経て天草地方全体でアジはよく釣れる。特に八代海側は特にいいポイントが目白押しだ。八代海では冬場にシラス漁が行なわれることからもエサとなるベイトフィッシュが豊富なことがわかるだろう。エサをたくさん食べてサイズも大きくなりやすいため、尺以上のアジが釣れる好ポイントが多数見られる。
加えて地図からも分かるように、天草には非常に多くの島が点在して複雑な地形を作り出している。それに潮位差が大きい八代海に面しているため想像以上の複雑で強い流れが発生する。こういった流れは、アジの回遊や捕食に関係しており、ポイントを探す上で大切な要素だ。 複雑な地形は多数の湾を作り出し、港や外灯も多いので、どこに行こうか悩むほどポイントが豊富。サイズを問わなければ、いたるところでアジングが楽しめる。
「ブルーカレント」2機種で楽しむアジング
今回、板井さんは2本のロッドを持ち込んだ。ブルーカレント・ウィジー610、そしてブルーカレントIII 510である。
「ウィジーは、スプリットリグで使用し、510はジグ単で使用します。今日の釣り場では、ボトムをネチネチと探ることになるのですが、根掛かりしやすいので、高感度でボトム探知が得意な510の出番が多いかもしれません」
ウィジーは4ピースのロッドでコンパクトな携帯性が特徴だ。マルチピース特有の持ち重り感は感じない。張りはやや強めながら、キャストや魚が掛かった時にはしっかりと曲がってくれる。1.5gくらいのジグヘッドであれば操作性も充分。
一方、ブルーカレントIIIの510はチューブラーティップかつショートロッドならではの張りがあり、1g以下の軽量ジグ単を使用しても操作性や探知感度が非常にいい。ブルーカレントシリーズはターゲットで選ぶのではなく投げるリグによって各モデルの使い分けを考えるとよいだろう。
ブルーカレントIII 510の感度を活かしボトムを探る
まずは510でジグ単を投げる。1週間前にはここで尺アジを2本釣りあげたという。
「敷石沿いにアジが溜まるので、その一帯にワームを落としてネチネチとボトムで動かしていく感じです。敷石にリグがスタックするので敷石に当たったら速やかに回収。これの繰り返しです。敷石の端を感知できないと根掛かりしてしまうので510が重宝するんです」
夕マヅメから板井さんはひたすらリグを投げ倒すが、反応はない。暗くなり、心が折れそうになると港内の豆アジを釣っては癒されて、また敷石ねらいに戻るのであった。
そうこうしていると待望のアタリがあり、ロッドが弧を描いた。重みのある引きに良型の期待が高まったが、痛恨のバラシ。その後もボトムを探ったが、大アジのアタリはなかった。
良型ゲストにも負けないブルーカレントウィジー610
そこで場所を水道に移動した。ここではウィジー610に5gのスプリットショットをセットして飛距離を稼ぎ、流れに漂わせながらリグを引いてくる。
すぐにいいサイズの魚が掛かった。しかし、巻き取っている途中にエラ洗い。アジではなさそうだ。想定外のターゲットでもロッドがしっかり曲がり込んで余裕のあるファイトができるのはブルーカレントならでは。やり取りの末に寄ってきたのは、40cmほどのヒラと呼ばれる魚だ。天草のアングラーは有明ターポンと呼び、この辺りではアジングでよく釣れるという。この日も数尾のヒラが釣れた。
「表層からボトムまで全層にヒラがいますね。この辺では嫌われている魚ですが引きは申し分ない魚です。特に流れの中で掛けると楽しいですよ」 と板井さんは諦め顔で言う。
少しでもサイズアップしたアジを釣りたいところだったが、ヒラに邪魔をされてしまったということだろう。残念ながら、ここでタイムアップ。この日はデカアジとのスリリングなファイトは見られなかったが、ブルーカレントの強みが存分に活かされた釣行であった。
※このページは『つり人 2026年1月号』の記事を再編集したものです。



