銀白色に輝く、本流の大ヤマメ。 でもこの魚はサクラマスなのか、それともヤマメなのか、それとも戻りヤマメと呼ぶべきなのか? 長年ヤマメやアマゴ、イワナを研究してきた加藤憲司さんに、意外と知らないことも多い渓流魚の習性、生態を聞いてみた。
ヤマメ、アマゴ、イワナの生態を知れば、渓流釣りがより楽しめる
解説◎加藤憲司
こちらの記事は月刊『つり人』2019年4月号に掲載したものをオンライン版として公開しています。
銀白色に輝く、本流の大ヤマメ。でもこの魚はサクラマスなのか、それともヤマメなのか、それとも戻りヤマメと呼ぶべきなのか?長年ヤマメやアマゴ、イワナを研究してきた加藤憲司さんに、意外と知らないことも多い渓流魚の習性、生態を聞いてみた。
目次
Q.01:ヤマメの銀毛(ぎんけ)
Q.ヤマメの銀毛(ぎんけ)ってどういう現象?
A.降海型個体の体色などが変化することを言います。
ヤマメのなかには、満1歳の秋から1歳半の春に海へ下るものがいる。こうした個体では、その少し前から体色が銀色に変化し、パーマークが見えづらくなる。また、背ビレと尾ビレの先端が黒くなる。体表の粘膜(ヌル)が薄くなるのでウロコは剥げやすくなり、釣りあげた時に手のひらに張り付くことがある。このようなヤマメは「銀毛(スモルト)」と呼ばれる。銀毛ヤマメの体長は十数センチから20cm 程度である。
銀毛ヤマメも河川内にいるうちは、ウロコを剥がすとパーマークを確認できるが、海へ下ってしばらくすると消えてしまう。また、海へ下らなくても、本流域で30〜40cm に育った個体ではパーマークが消失することがある。
しかし小沢では、尺ヤマメでもパーマークが残っている。ちなみにパーマーク(parr mark)の「パー」というのは、英語でマス類の稚魚の呼称である。したがって、パーマークは「稚魚斑紋」という意味になる。一般的には1歳半で降海する河川が多いが、東京の多摩川などでは1歳で降海する。そして降海型の個体は、サクラマスと呼ばれるようになる。一方、一生を河川内で暮らすヤマメは、銀毛の呼称「スモルト」に対して「パー」と呼ばれる。こちらは、降海型に対して河川残留型、陸封型などと呼ばれる。サクラマスが多く出現する河川は、太平洋側では利根川以北、日本海側では山口県以北である。
銀毛したスモルト(上)とパー(下)
井上聡さんが釣った、鬼怒川の大ヤマメ。明らかに渓流域のヤマメとは異なる姿、サイズだが、ヤマメもサクラマスも実際には同じ種類だ
Q.02:これってヤマメorサクラマス
Q.これってヤマメ、それともサクラマス?釣った魚を区別する方法はありますか?
A.見た目で正確に判別することはできません。
ヤマメとサクラマスの違いを釣り人に尋ねると「パーマークのあるのがヤマメ、体が銀白色になってパーマークの消えたのがサクラマス」という答えが返ってくる。そこで「じゃあ降海途中の体長20cm くらいの銀毛個体(スモルト)は、ヤマメ、それともサクラマス? 体は銀白色だけど、ウロコを剥がすとパーマークが見えるよね」と聞き返すと「うーん」とうなってしまう。
そこで、原点に帰って魚類図鑑を開いてみよう。ヤマメのページにはこう書いてある。
【標準和名】
ヤマメ(河川型、陸封型)、サクラマス(降海型、湖沼型)
【学名】
Oncorhynchus masou masou(オンコリンクス・マソウ・マソウ)
つまり「河川型あるいは陸封型をヤマメと呼び、降海型、湖沼型をサクラマスと呼ぶ」というのである。Oncorhynchus masou masou というのは世界共通の学名である。学名は、1種の生物に1個しかつけられない。したがってヤマメとサクラマスは同種の魚だということになる。
たとえば、降海型の体長50cm を超える大型魚が川へ戻り、雌雄ペアになって産卵する。この時、パーマークを持つ体長20cm ほどの河川型の雄魚が、これに割り込もうとするシーンがよく見られる。
また、同じ雌魚から生まれた稚魚が、生後一定期間を過ぎると河川型と降海型に分かれていく(相分化)こともよく知られている。
これとは別に、体が銀毛し、海に向かって下りはじめたものの、海までは行かず、下流域で体長40cm ほどに大型化して再び産卵のために上流へ戻ってくるものがいる。これなどは、海には下っていないが、体色は銀白色で降海型のサクラマスと変わらない。また、体長は30cm を優に超えているのにパーマークのくっきりと残る個体を、私は湖で捕らえたことがある。これらの例は、ヤマメ=河川型・陸封型、サクラマス=降海型・湖沼型という図鑑の記載には当てはまらない。
つまりヤマメ・サクラマスの生活様式は実にさまざまである。降海率ひとつをとっても、北海道や東北地方では50%以上と高いのに対して、関東以西では数%程度である。彼らには、まだ私たちの知らない生態パターンが数多くあるのではないかと思っている。
だから私は、魚類図鑑の記載を次のように解釈している。「大まかにいうと、河川に棲むものをヤマメ、湖や海でとれるものをサクラマスと呼ぶ」と。そうであれば、川に生息する小さなヤマメを「サクラマスの幼魚」と呼んでも一向にかまわないし、海で取れた大型のサクラマスを「でかいヤマメ」と呼んだとしても、生物学的には何ら問題はないのである。
奥多摩湖産サクラマス(体長63cm)。環境しだいで、海に行かなくてもヤマメは大きく育つ
Q.03:イワナの寿命
Q.イワナの寿命はどのくらい?
A.海外では十数年生きた例もあります。
イワナというのは、ヤマメと異なり1回の産卵では死なない。それなら、いったい何歳くらいまで生きるのだろうか。
川幅3m くらいの源流で釣った体長40cm のイワナを調べたところ、年齢は6歳と推定された。しかし3歳以上のイワナでは、産卵によってウロコが変形するなどして年輪が読みづらくなる。このため、頭蓋骨の中にある耳石を調べたりするが、高齢魚の正確な年齢を知ることはなかなか難しい。外国のイワナでは十数年生きた例もある。
イワナは寿命を重ねるとともに成長するので、基本的には高齢魚ほど体長が大きい。しかし、沢と湖とでは成長に関わる環境が大きく異なる。湖のような広い水域で、ワカサギのような大型のエサを大量に食べたものでは、沢のイワナに比べて格段に成長が速くなる。また、沢の大型イワナでは体長ばかりが伸びて、ヘビのような体型になる。これに対して、湖の魚は肥満して丸太棒のような体型となる。これはもちろん降海型のイワナでも同様である。
Q.04:ヤマメ、イワナの視力
Q.ヤマメとイワナの視力はどのくらい?
A.ヤマメのデータはありませんが、イワナは0.5程度です。
人間の場合、目は顔の前面にあるため両眼視野は130度程度と考えられている。ヤマメは頭の側面に目があるので、真後ろを除く300度以上の視野をもつと推測される。泳いでいるヤマメの後方に落とした毛バリを反転して追う姿はよく見かける。視野は水面上にもおよび、空中を飛んでいる毛バリを認識して着水前に飛びつくことがある。したがって、彼らには釣り人の姿もよく見えている。それゆえ、ポイントへのアプローチの巧拙が釣果を左右する。
ヤマメのデータはないが、イワナの視力はせいぜい0.5程度と推測されている。しかし、近視である筆者も潜水眼鏡をつけて水中に潜ると空気中よりもよく見えるので、この程度の視力でもエサの捕食に支障はないと考えている。
また、ヤマメの目は色を感じることができるので、毛バリの色彩には気を遣ってもよさそうである。
後半はコチラから!
渓流釣り/ヤマメ、アマゴ、イワナの生態Q&A その2(最終回)
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