銀白色に輝く、本流の大ヤマメ。 でもこの魚はサクラマスなのか、それともヤマメなのか、それとも戻りヤマメと呼ぶべきなのか? 長年ヤマメやアマゴ、イワナを研究してきた加藤憲司さんに、意外と知らないことも多い渓流魚の習性、生態を聞いてみた。
ヤマメ、アマゴ、イワナの生態を知れば、渓流釣りがより楽しめる
解説◎加藤憲司
こちらの記事は月刊『つり人』2019年4月号に掲載したものをオンライン版として公開しています。
銀白色に輝く、本流の大ヤマメ。でもこの魚はサクラマスなのか、それともヤマメなのか、それとも戻りヤマメと呼ぶべきなのか?長年ヤマメやアマゴ、イワナを研究してきた加藤憲司さんに、意外と知らないことも多い渓流魚の習性、生態を聞いてみた。
目次
Q.05:ヤマメとアマゴの生息域について
Q.ヤマメとアマゴの生息域の違いは?
A.アマゴは、かつて存在した古瀬戸内湖でヤマメの祖先から分化したと推測されています。
ヤマメとアマゴを交雑すると子どもができ、またその子どもも繁殖能力をもつ。このため、朱点の有無は種内の変異にすぎないとする学者が同種説を主張した。しかし、大島正満博士が1957年に出版した『桜鱒と琵琶鱒』という本で、ヤマメとアマゴの分布域が分水嶺を境にしてはっきりと分かれていることが明らかになった。その後の遺伝学的な研究の進展などによって、現在この両者は別亜種として扱われることが多い。ただし、1970年代にヤマメとアマゴの人工ふ化養殖技術が確立されて以降は放流が盛んになり、本来の自然分布はかなり攪乱されてしまった。アマゴは、かつて存在した古瀬戸内湖でヤマメの祖先から分化したと推測されているが、朱点をもつようになった理由は明らかでない。また、アマゴの降海型であるサツキマスは、多摩川のサクラマス同様、1歳の秋に降海して翌春に回帰する。
ヤマメ・サクラマスは、カムチャツカから朝鮮半島にいたる大陸沿岸、サハリン、日本列島および台湾に分布し、台湾の生息群は別亜種のサラマオマスとされている。一方、アマゴ・サツキマスの分布域は日本国内に限られ、静岡県以西の本州太平洋側と四国、九州の瀬戸内海側にのみ生息している。また、琵琶湖には朱点をもつビワマスが生息するが、これについては学名が確定していない。
1961年には、アマゴの生息する大分県の大野川水系で、パーマークなどの斑紋をもたないマス類が学会に報告され、「イワメ」という名前で新種登録された。しかしその後、イワメは愛媛、三重、茨城の各県などでも発見された。さらに1965年には、愛知県のふ化場で、無斑のニジマス(ホウライマス)が突然変異によって出現したのである。また、こうした無斑魚は、普通魚と問題なく交配できることも分かってきた。したがって、マス類ではこうした無斑型魚が時おり出現するということが判明したのである。現在では、アマゴ域のイワメはアマゴの、ヤマメ域に出現するものはヤマメの無斑型魚であって別種ではないと結論づけられている。
ヤマメとアマゴについては、同種か別種かという議論の絶えない時代があった。外見的には、アマゴの体側に朱色の小斑点が散在するのに対して、ヤマメにはこれがない。ただそれだけの違いである
Q.06:イワナは釣られやすい。は本当?
Q.ヤマメに比べ、イワナが釣られやすいのは本当?
A.本当です。
今から三十年以上前、初めて荒川源流へ釣りに入った時のことである。当時、この川には釣り人が少なく、良型のイワナが面白いように釣れた。やがて大きな淵に出合い、その岩陰にエサを送り込むと鈍重なアタリがあった。反射的にサオを大きくあおると、その瞬間にハリスがアワセ切れをしてしまった。「しまった」と悔やんだが、即座に「魚は暴れさせていないので、もう一度食ってくるはずだ」と考えた。ハリスには0. 6号を使っていたが、0. 8号に替え、エサのオニチョロを付けて再び同じところへ投入した。
すぐに同様のアタリがあり、慎重に合わせると、上がってきたのは体長29cm の良型イワナだった。そして口からは、先ほど切られた0. 6号のハリスが垂れていた。もしヤマメだったら、こんなことはまずないだろう。
かつて日原川で職漁師をしていた山崎憲一郎さんは「イワナはヤマメよりも明らかに釣りやすい」と話していた。最近の科学的な調査でも、イワナがヤマメよりも釣られやすいとの結論が得られている。
このような魚を無制限に釣ってしまえば、やがて天然イワナは姿を消してしまうだろう。今からでもよいから、源流域のなるべく広い範囲を禁漁にして、イワナを守っていかねばならない。釣り人はじっと我慢をして、天然イワナ釣りの楽しみを、禁漁区から流下してくる魚だけに止めるべきなのである。
Q.07:日本のイワナは何種類?
Q.日本のイワナは何種いる?
A.2種6亜種です。
川によって異なる体色・斑紋
日本各地に生息するイワナの仲間が何種類に分類されるのかということについては、昔から学者の間でも論議が絶えなかった。しかし近年は、交通網が発達して山奥のイワナも容易に採集できるようになった。その結果、各河川における分布状況がよく分かってきた。さらには水中における生態観察や遺伝子レベルでの研究なども進み、さまざまなイワナの生物学的特性が明らかになってきたのである。
東海大学出版会が2013年に発刊した『日本産魚類検索 全種の同定 第3版』という本によれば、日本在来のイワナ類は以下のように分類されている。「在来」というのは、外国から移入された「外来」種ではなく、大昔から日本にすんでいた種という意味である。
この本では、イワナ類はまずオショロコマとイワナの2種に大別される。そしてオショロコマは、さらにオショロコマとミヤベイワナの2亜種に細分される。一方イワナのほうは、エゾイワナ(降海型はアメマス)、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴギの4亜種に細分される。
【オショロコマ】(Salvelinus malma krascheninnikovi)
南部を除く北海道に分布する。背中から体側にかけて散在する乳白色斑点は小さい。体側から腹部にかけて、朱紅色の小斑点が散在する。降海するものもある。ヤマメやエゾイワナと混生する河川では、主として最上流域に生息する。地方名:カラフトイワナ。
【ミヤベイワナ】(Salvelinus malma miyabei)
北海道然別湖にのみ分布する。体色や斑紋はオショロコマに似るが、胸ビレが長い。エラの鰓耙(さいは)が長く、その本数がオショロコマよりも多い。これは湖の中で微少なプランクトンを食べるために適応したためと考えられている。
【エゾイワナ(アメマス)】(Salvelinus leucomaenis leucomaenis)
S.Ura Photo
新潟県および東北地方南部以北の本州と北海道全域に分布する。背中から体側にかけて散在する乳白色斑点は比較的大きい。黄〜赤色の有色斑点をもたない。北海道などにいる降海型はアメマスと呼ばれる。
【ニッコウイワナ】(Salvelinus leucomaenis pluvius )
主として山梨県〜東北地方南部にかけての太平洋側流入河川、および鳥取県〜東北地方南部にかけての日本海流入河川に不連続に分布する。背中から体側にかけて散在する乳白色斑点は比較的小さい。体長15cmくらいよりも小型の個体では乳白色斑点のみを持つが、これよりも大型の個体では、体側から腹部にかけて黄色〜橙色の斑点が現われるようになる。
【ヤマトイワナ】 (Salvelinus leucomaenis japonicus )
S.Ura Photo
本州中部地方の太平洋側流入河川、琵琶湖流入河川および紀伊半島に分布する。背中から体側にかけて散在する乳白色斑点は全くないか、あっても数が少ない。体側から腹部にかけて、黄色〜橙赤色の斑点が散在する。紀伊半島に生息するものは「キリクチ」の地方名で呼ばれており、世界のイワナ類の中で最も南に生息する群である。
【ゴギ】(Salvelinus leucomaenis imbrius)
岡山県、島根県以西の中国地方にのみ分布する。背中から体側にかけて散在する乳白色斑点は非常に大きく、頭部背面の前端にまで認められる。体側から腹部にかけて、橙赤色の斑点が散在する。
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