猛暑続きの夏が終わって空が高くなった。春に生まれたアオリイカが釣り物になるまで成長し、数釣りが楽しめるベストシーズンが到来。今秋からエギングを始めたい人に向け、タックルの選び方から釣り方の基本まで、エキスパートの木原涼さんに分かりやすく解説してもらった。
東北地方は三陸の岩手県から宮城県に続くリアス式海岸の漁港で近年、ツツイカのライトエギングがヒートアップしている。 北の海に温海域を好むケンサキイカが舞い込んできたことが発端だ。 ツツイカ専用エギ『ヤリケンサックα』と連れ立って、脇田政男さんが今シーズンも岩手県釜石市へ乗り込んだ。
写真と文◎編集部
三陸はツツイカ狙いのライトエギングが一年中楽しめる
三陸の土地っ子たちは以前からスルメイカとヤリイカという2種のツツイカを相手にイカヅノのオカッパリを楽しんできた。そこへ数年前から騒がれる黒潮の大蛇行に伴う海水温の上昇によって、温海域系のケンサキイカが北の海へ進撃を始め、この新ターゲットが一昨年の2023年あたりから爆発的な人気を博している。
こんなビッグニュースを耳にするやいなや、いち早く遠路はるばる通い始めたのは、西日本を中心にツツイカエギングの面白さを発信してきた脇田政男さん。
脇田さんは総合釣り具メーカー傘下に、小磯や漁港のライトゲーム用品ブランド《ジャングルジム》を立ち上げ、一環としてツツイカ専用エギ『ヤリケンサックα』を商品化して全国を飛び回っている。ちなみに、社名のジャングルジムとは公園で見かける立体型の鉄棒器具。自由気ままに遊ぼうよという願いが込められている。
遊び心たっぷりにライトゲームフィッシングに接する脇田さんは、「断崖絶壁の地形で足もとから水深があるリアス式海岸は、ツツイカがエサを追って浮上しながら接岸してくるには理想的な立地条件なのでしょう。三陸での釣期はケンサキイカとスルメイカが4、5月から10月までで、春夏秋のスリーシーズン。一方のヤリイカは11月から年明け2月のウインターシーズンで、冬の間もスルメイカが居残る公算が高くヤリイカに混じって乗ってくれます。これらツツイカ3兄弟を追いかけていれば、一年中エギングが楽しめます」と話す。
岩手県釜石のライトエギング
今回、岩手県釜石周辺のツツイカエギングに同行したのは7月上旬。約2週間前の6月中にも同地を訪れたという。
「気象庁によると最近、黒潮の大蛇行が終息してきたらしいです。その影響でしょうか、ケンサキイカの回遊が好調だった2023年と2024年の2年間に比べ、今期は外れ年のようで残念です。今回の主な目的は新しい釣り場の開拓でして、主役は胴長12~18cmの通称ムギイカ、小型スルメイカで間違いありません。これにケンサキイカの顔が見られればラッキーといった感じでしょうか」
ツツイカエギングは日没後の夜釣りがチャンスタイム。日中はリアス式海岸の曲がりくねる山道をたどって新釣り場開拓に費やした結果、釜石市を基点に南北2ヵ所の未開拓漁港に目星を付けた。 1ヵ所目は大船渡市方面に南下し、唐丹(とうに)湾に面して仏ヶ崎に隣接する花露辺(けろべ)漁港。花露辺の名はアイヌ語の“ケロッペ”が訛ったもので、おだやかな里という意味。自動イカ釣り機搭載の大型漁船とイカメタル乗合船が1隻ずつ、以外は小型漁船のみの、名の通りの小漁港である。港内を見て回っていると海面近くを泳ぎ回る12cm前後の小サバの群れを見つけた。
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「ツツイカは日が落ちるのを待ちかねたようにエサの小魚を追って、沖合の深場から沿岸に向かって回遊してくるので、漁港内外を調べて小魚の動向を確認しておくことが釣り場探しの第一歩です。ベイトの群れはイワシ類や小アジのほか、今日みたいに小サバが入り込んでいることも吉兆です。本日は花露辺漁港を本命として、もし当て外れな時は下閉伊郡山田町まで北上し、山田湾の大浦漁港へ大移動する予定です。大浦漁港は6月中にムギイカの束釣りを記録した情報を聞いています」 と今夜のスケジュールが決まった。
夏至に近い当日の日没は午後7時5分と遅いが、気が急いて夕暮れ前にスタートフィッシング。すると、ツツイカの匂いを嗅ぎつけて地元ファンが2人やってきた。近況をたずねると週1ペースで通っていて、最近の花露辺漁港は必ず数ハイが釣れるほど実績が高いとか。
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ライトエギングのタックル
脇田さんの愛用タックルは、7フィート前後のアジングロッドと2000番台の小型スピニングリールの組み合わせ。エステルラインをメインで使うことにこだわりがある。
「イトの伸びが少なく、張りもあって癖のない質感はエステルラインの特性です。『ヤリケンサックα』のように小型軽量のエギでもストレスなくキャストできますし、エギの動きが手もとまで伝わってくるのが最大の武器になります」
小型サイズのツツイカ専用エギ『ヤリケンサックα』はサイズ1.8号(自重4.5g)とサイズ2.2号(自重7g)の2種類。カラーバリエーションはそれぞれ8色があり、全モデルに夜釣りに効果的なグロー(夜光)ボディーが採用されている。
「潮況やイカの活性に左右されることが少ない万能カラーは、#178のオレンジグローと#183のピンクヘッドグローの2色です。釣り開始時はアピール性を重視して大きい2.2号を選び、シルエットが小さい1.8号エギのほうはイカの活性が低い時など目先を変えてみる意味で使い分けをしています」

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ライトエギングの基本の釣り方
周囲は遠く山々の濃淡が美しい夕マヅメ時、ほぼ無風下で2.2号サイズを振り切ると20m強の飛距離が出ている。「小さい1.8号エギは飛距離が4〜5m落ちますが、15mもキャストできれば問題ありません」と言って休むことなくキャスティングを繰り返す。
いつの間にかどっぷりと日が暮れ、夜釣り本番の時間帯。だがしかし期待に反して乗らない。ツツイカ独特の長い触腕で触ってくるアタリもなく、2人の地元ファンも同じようだ。こうして、とうとう2時間半が経過した午後8時30分、「思い切って山田湾の大浦漁港に向かいましょう」と、イチかバチの大移動を決断した。
北へ走ること小1時間、そびえ立つ長大な防潮壁の一角から大浦漁港に出ると、時刻は午後9時30分。数本の常夜灯しかない港内はほぼ真っ暗闇だが、釣り人の集魚器に照らされた海面だけは昼間以上の明るさだ。先着の釣り人のビクをのぞかせてもらうと、釣りたてのムギイカが20パイほどうごめいている。「港内を小さな群れで回游していて、午後8時を過ぎて釣れ始めました。並んでやってみたら……」とやさしく誘ってくれた。
「ツツイカは明るい集魚器に引きつられつつも、明暗の境目外側の暗い海面部分を遊泳しているケースが多いんです」と言った3投目、「乗りました、ムギイカです」と、してやったりの笑顔が返ってきた。
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上から下へレンジを刻む
「ツツイカエギングの基本的な探り方は、エギを沈めてカウントダウンで遊泳層を探り当てることに尽きます。キャストしてイトフケを巻き取り、サオ先でエギのテンションを感じたら、だいたい5秒刻みでカウントダウンをしながら海に近い上層から徐々に底層へ向かって水深を下げていき、その日その時、刻一刻と変わるツツイカの遊泳層を探っていきます」
元祖エギングのアオリイカ流テクニックは着底から、シャクリ操作でエギをはね上げる派手な動きを演出することが常道手段。これに対してツツイカのライトエギングの基本は反対に、上層から底層に向かって繊細な誘いアクションでアジングのように遊泳層を探ることが大きな相違点だ。
「エギ本体はシンカーが付いたヘッド部から斜めの姿勢で潜行していくように設計されています。特にヤリケンサックαの沈下速度は2.2号が1m約6秒、1.8号は1m約8秒とすごく遅く、このスローフォールを生かした誘いでツツイカを引きつけることがコツです。ロッド操作はラインスラックを巻き取った後、ロッドティップでエギの自重やテンションを意識しつつ、ゆっくりとリーリングしつつ、ショートピッチの誘いを組み立てることに集中してください」 と、各自で個性的な誘いを試してみることを薦めてくれた。
この大移動が功を奏して立て続けに2ハイ、3バイと乗せ始めた脇田さんの気分はスルメ以上に乗ってきた。
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手もとで感じるアタリの違い
ツツイカ3兄弟の当たり方には性格の差が出るらしい。
「筋肉隆々のスルメイカは突然ゴンッとサオ先を止めた直後、絞り込んで向こうアワセでフッキングすることが大半です。反対に短足のケンサキイカとヤリイカは長く細い2本の触腕で確かめるようなソフトタッチの乗りアタリです。薄明るい夕マヅメ時ならロッドティップの変化で目測できますが、夜釣りの時間帯になるとグリップに伝わる手感度を頼るしかありません。わずかに重みを感じるモタレの乗りや小さくツンッと弾く程度のアタリ……、どんな違和感でも見逃さず、ロッドティップの反発でフッキングさせます」
こうしてポツリポツリと快調に乗ってくる時合が午後11時ごろまで続き、正味1時間半で9ハイのムギイカを釣りあげた脇田さんは満足げにタックルを畳んだ。
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秋シーズンは期待が持てそう
そして、7月上旬の取材から約1ヵ月半が経った8月下旬に連絡を入れると、上州屋一関店を通じて最新の釣況を得ている脇田さんは、「ツツイカエギングは早くも秋の最盛期です。黒潮の大蛇行の終息が大打撃となったのでしょう、今年はケンサキイカの接岸がありませんでした。これに対してスルメイカは7月の取材時以上に釣況がよく、立派に成長して豪快な潮吹きの引き味を楽しませてくれているそうです。ただ、潮温が上り過ぎると沖の深場からスルメが出てこなくなることが心配です。11月になると例年ヤリイカに切り替わる時期なので、ウインターシーズンはヤリイカにスルメイカまじりで楽しめることを期待しています」 と締めくくってくれた。
※このページは『つり人 11月号』掲載の記事を再編集したものです