長年アメリカのトーナメントを追っていて気づきましたが、勝てるアングラーは「シーズナルパターン」ではなく「スタイル」を軸に、「変化」でもバスを釣っています。たとえば大森貴洋さん。季節ごとに釣りを変えるのではなく、あくまで軸はクランクとフリップ。そして、クランクがどうしても効かないときの「変化」として投げるのがジャークベイトです。ジャークベイトを理解すれば、より深くクランクについて知ることができます。
勝てるアングラーは、「スタイル」を軸に、「変化」でもバスを釣っている
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2022年11月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
ポインターの知られざるマイナーチェンジ
今回からはしばらくジャークベイトの話に付き合ってください。クランクを語るうえで、ジャークベイトに触れないわけにはいかないからです。
長年アメリカのトーナメントを追っていて気づきましたが、勝てるアングラーは「シーズナルパターン」ではなく「スタイル」を軸に、「変化」でもバスを釣っています。たとえば大森貴洋さん。季節ごとに釣りを変えるのではなく、あくまで軸はクランクとフリップ。そして、クランクがどうしても効かないときの「変化」として投げるのがジャークベイトです。ジャークベイトを理解すれば、より深くクランクについて知ることができます。
今回の主役は「ポインター」。加藤誠司さんがデザインし、日本国内で発売した「ビーフリーズ」の米国版です。
2000年前後のアメリカではポインターが一世を風靡していました。1998年にはデニス・ホイがB.A.S.S.のウエスタンディビジョンをポインターで勝ち、翌年にはケビン・バンダムがセントローレンスリバーでのツアー戦でウイニングルアーにしています。ポインターの流行は喜ばしいことでしたが、ポインターも加藤誠司さんの仕事でした。ラッキークラフトUSAのルアー開発を引き継いだ私でしたが、正直、なぜポインターが支持されているか100%はわかっていませんでした。当時の私はポインターの強みを知り次作の開発に生かすべく、ジャークベイトの研究をすることになります。
加藤さんがそれまでに手がけた名品中の名品にはT.D.ミノーがありました。ジャークを入れると煌めきながら左右に大きく跳ぶのが特徴。水をカットするサイド・バイ・サイドのなんと美しいことか……。対してビーフリーズは同じ要素を持ちつつもボリュームがあるボディーで、アクションはノーズダウン寄りのトルクのあるジャークベイトでした。ちなみに当時のアメリカのジャークベイトといえばラトリンログやハスキージャーク、ロングAが主流で、ジャーク時の挙動はいずれもノーズダウン系。横っ飛び系のジャークベイトはアメリカにはありませんでした。
当初はビーフリーズを名前だけポインターと変えてアメリカで販売していましたが、私が開発を担当するようになり、実はマイナーチェンジを施しています。1999年ごろ、スキート・リースやジェラルド・スウィンドルらから「ポインターはハリが小さすぎる」というリクエストをもらったことがキッカケでした。まずフックを一番手サイズアップ。また、春に試合が組まれることが多かったアメリカ南部の産卵行動は水温10℃ではじまります。初期のポインター(ビーフリーズ)は水温6〜8℃でサスペンドする仕様になっていたので、この設定を10℃に変更しました。そのため内部に若干ウエイトを追加したところ、水中での姿勢が水平に近づきました。これは小さな変更でしたが、極めて大きな意味をもつチェンジになりました。
これまでノーズダウンのキビキビ系だったアクションが、ボディーサイズによるトルクはそのままに、水平姿勢になったことでサイド・バイ・サイドの横っ飛び系に変わったのです。
このマイナーチェンジによりポインター78と100の人気はさらに過熱することになります。幅のある横っ飛びアクションで水押しは強く、さらに重心移動搭載で飛距離が出たことが支持を集めた理由です。
スキート・リースの敗戦から見えた釣れるジャークベイトの本質
2003年、ジャークベイト研究を進めるうえで決定的な出来事が起きました。4月にバスマスターツアーのクリアレイク戦が開催されたのですが、ここはスキート・リースの庭といえるフィールド。私たちはスキートの優勝を信じて疑っていませんでした。しかし信じられないことにスキートは敗戦(4位)。優勝はアルトン・ジョーンズ。このとき、スキートが負けた理由を聞いて、私の「釣れるジャークベイト」への理解がさらに深まりました。この試合はタイミング的にスポーニング前後でしたから、スキートも含め普通は3〜4ftを釣るのですが、多くの選手が一気に釣りをしたプレッシャーでバスが5ftまで落ちていました。
「プレッシャーがかかったとき魚のタナが落ちる」というシンプルな話ではあるのですが、それをいち早く察知し、5ftをヤマセンコーで静かに釣ったのがアルトン・ジョーンズだったのです。対してスキートはその変化を追いきれなかった。
同時に、この試合ではかなり多くの選手がポインター100をメインベイトにしていました。そう、ポインターはショートリップにもかかわらず5ft強のレンジを泳ぐという稀有な性質をもっていました。ロングビルで5ft強に達するジャークベイトはいくらでもありますが、ジャーク時のキレはショートビルが圧倒的に上です。
そして2004年。2月末に行なわれたバスマスターツアーのガンターズビル戦でジョージ・コクランが優勝します。公式発表ではストライクキングのジャークベイトがウイニングルアーになっていましたが、試合中の写真にはどう見てもポインターが映っていました。おそらくコクランがポインターを使ったのは「5ft強」が理由のひとつでしょう。このとき、私はようやくポインターの凄さに対する自信が確信に変わったのでした。
しかし覇権は長くは続きません。2005年にはケビン・バンダムがピッツバーグでのバスマスタークラシックをショートリップのフローティングログで優勝。ここで重心移動への絶対的支持が揺らぎます。その後、ラパラのXラップが登場。ポインターと同じく横っ飛び系で、バルキーさとトルクを兼ね備えたジャークベイトでした。このXラップは大流行し、ポインターのシェアは大幅に奪われることになります。あー、くやしい……。しかし、この悔しさが次なるジャークベイトを生むことになります(続く)。B
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