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編集部2022年10月14日

世界一のクランクベイトができるまで。ラッキークラフトU.S.A. Behind Story 第8回

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2007年。この年、私たちラッキークラフトUSAの第一段階における集大成といえる出来事が起きました。それはスキート・リースのエリートシリーズでのAOY獲得です。

 

スキート・リースのAOYを決めた1尾 「KATOのルアーだけ売ってろ」から5年

瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り  

この記事は『Basser』2022年9月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ

 目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。

以下、瀬川さん談。

 

◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」

◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3

◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件

◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり

◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり

◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代

◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド

経験がルアーを選ばせる

 2007年。この年、私たちラッキークラフトUSAの第一段階における集大成といえる出来事が起きました。それはスキート・リースのエリートシリーズでのAOY獲得です。

lucky10_01AOYを決めた最後の1尾をスイングイン して天を仰ぐスキート・リース。その表 情には充実感と安堵が満ち溢れてた。ヒ ットルアーはSKT MINI DR

 2007年のシーズン開幕前に行なわれたバスマスタークラシックでスキートは優勝争いを繰り広げましたが、ボイド・ダケットに敗れ2位に終わってしまいました。この敗戦がスキートの心にさらに火をつけました。スキートは燃えに燃え、11試合中7試合でトップ10、うち5試合はトップ5入りするという驚異的な成績を出します。最終戦(9月中旬のフロリダ、レイク・トホぺガリガ)を前にAOYレースの先頭を走り、最後の一戦で17位以上に入ると他の選手の成績にかかわらず年間優勝が確定するという状況でした。

 つまり、絶対になにがなんでも釣らなければならない最終戦だったわけです。そして必要なのは優勝ではなく確実な上位フィニッシュです。

 そんなスキートがこの試合でメインルアーにしてくれたのが「SKT MINI DR」でした。前回・前々回と、スキートら発展途上の若いアングラーがスモールクランク(フラットサイド含む)を求め、私たちがその気持ちに寄り添いながらも時に衝突し、一心不乱にそういったルアーを設計した話をしました。「SKT MINI DR」もその流れで作ったルアーのひとつです。振動係数が細かく、急潜行の「勝負が早い、釣れやすいルアー」であり、投げやすくバスとのディスタンスがとれるルアーです。

 思い出してください。この連載で伝えたように、スキートはラッキークラフトUSAと契約した当初「KATOのルアーはいるけど、お前のルアーはいらない。KATOのルアーだけ売ってろ」と言い放った選手です。そこから数年間、駆け出しのバスプロとしての彼の気持ちに寄り添い、設計したルアーがこの大一番で使ってもらえた……。私はそれだけで感動しました。

 そしてこの試合、「SKT MINI DR」によるクランキングを軸に快調にキーパーを重ねたスキートは、14位でフィニッシュ。今回の写真は、最終日に最後の1尾を抜き上げてAOYを確信した瞬間のものです。

 このスキートの勝利は私にとって本当に嬉しいもので、信じられないものでした。ラッキークラフトUSAのスタッフも会場に駆けつけていましたが、みんな泣いてしまい言葉にならなかった。スキートもウエイイン後はずっと泣いていました。言葉にならず、無言で抱き合ったことを覚えています。

lucky10_02かつて「KATOのルアーだけ売ってろ」と言い放ったスキート・リース。そんな選手が人生の大一番をSKTMINI DRで戦ってくれた……

 よく考えることがあります。この試合でスキートが釣ったのは、「SKT MINI DR」でなければ釣れない魚だったのでしょうか? 実は私はそうは思いません。ほかのクランクでもなんとかなったかもしれません。しかし、スキート ・リースというアングラーの成長過程に寄り添い、西海岸出身であるというバックボーンを理解し、ルアーを選ぶ考え方を間近で見てきたのは私たちであり、その私たちが作ったルアーをスキートが大一番で選んだことは必然だったように思います。 

かつてこの連載でもお伝えしたように、計り知れないプレッシャーがかかった一戦では、彼らの「経験」こそがルアーを選ばせます。私たちはバスプロとしての彼に寄り添うことができていたのでしょう。だからスキートはプラでラッキークラフトのクランクを投げ、釣れるという経験を積んでいたということだと思います。

 いろいろな要素が重なり、スキートの栄光に微力ながら尽力できたことは心からの喜びでした。しかし、まだ私たちは決定的なウイニングルアーは作れていません。このあともクランクベイトを巡る冒険と研究は続いていきます(続く)。B

 


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