引き続きジャークベイトの話です。2000年以降、アメリカのツアーシーンでポインターが脚光を浴び、このルアーの特性がいたるところで語られるようになりました。メイド・イン・ジャパンならではの高精度の作りと、5ft(水深1.5m)レンジでもしっかりとアクションすることがポインターが釣れる秘訣でした。
15年後に結実した「湖上の夢会議」
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2022年11月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
スキート・リースの机上の空論
引き続きジャークベイトの話です。2000年以降、アメリカのツアーシーンでポインターが脚光を浴び、このルアーの特性がいたるところで語られるようになりました。メイド・イン・ジャパンならではの高精度の作りと、5ft(水深1.5m)レンジでもしっかりとアクションすることがポインターが釣れる秘訣でした。ほかのショートリップのジャークベイトはせいぜい4ftまでしか入らず、ロングリップでは動きのキレが出なかったんです。
その流れで、2002年ごろスキート・リースが机上の空論を提案してきました。空論と言うと聞こえは悪いですが、ルアー作りにおいて、新しいアイデアはすべて机上の空論です。私たちはそういった提案を「湖上の夢会議」と呼んでいました。
スキートの出したアイデアはずばり「ポインター128」。ビッグなジャークベイトでビッグフィッシュを獲るという単純明快な発想です。
しかし、この「ポインター128」はなかなか表舞台に出ることはありませんでした。それも当然の話で、当時の私たちのルアー作りは常に「企画は今、答えは来年の今」という状態でした。どういうことかというと、企画が上がってからサンプルができるまで最速でも2週間はかかります。すると、フィールドはすでに変化しており、企画段階のパターンは通用しなくなっていることがほとんどで、検証には来年の同タイミングまで待たねばなりません。しかも湖も少しずつ変わりますので、一年後は水がやや濁っていたり、水位が違ったりする。しかもバイト数を稼ぎにくいビッグベイトとなると、開発のための「エビデンス」集めはかなりの時間を要します。
「ポインター128」に対する多くのアングラーの反応は「こんなデカいの釣れるの?」というもの。日の目を見ることなく埋もれていくかと思っていました……。
15年越しの「エビデンス」
しかし、まったく思いもよらなかったタイミングで事態が動きます。それは2014年。FLWツアーのレイク・ピクウィック戦でグレッグ・ハックニーが優勝したのですが、ウイニングルアーが驚きでした。グレッグ・ハックニーはチーム・ストライクキングでしたが、SKTマグナムのプロトタイプをどこからか入手して使っていたのです(公式発表はKVD2.5でした)。「隣の芝生は青く見える」と言いますが、ツアーにおいて、チーム・ストライクキングのメンバーがラッキーのルアーを使ったり、その逆だったりすることはよくあることでした。この優勝で盛り上がったチーム・ストライクキングはすぐに10XDを開発。結果的にSKTマグナムよりも先に発売されてしまったことはいまだに悔しく思っています。
2016年にはエリートシリーズのトレドベンド戦でケビン・バンダムが10XDで優勝。「ビッグルアー・イコール・ビッグフィッシュ」という公式が思わぬ形で、しかし明快に証明されたのがこのころでした。10XDに対しては忸怩たる思いはありましたが、期せずして「エビデンス」が集まったのです。
そして2017年。エリートシリーズのトレドベンド戦で沖のストラクチャーを釣ったジョン・マーレ―が優勝したのですが、最終日に5パウンダーをとったルアーがポインター128でした。ジョン・マーレ―はスキート・リースの親友でした。
思えば、この2年間のトレドベンドは濁りが入っていて、沖でビッグフィッシュを釣るにはボディーサイズとラトル音が必要だったのでしょう。また、このころから普及した360度魚探もビッグフィッシュをねらい打ちする戦略を後押ししたように思います。
「湖上夢会議」から15年後の結実……。今、デジタルサイトの時代に突入し、ビッグベイトでビッグフィッシュを釣る戦略はギャンブルではなく、リアリティーのあるものになったことを感じます。私も15年かけて勉強させてもらいました。その間、ポインター128は辛抱強く彼らの成長と時代の変化を見つめてきたのです(続く)。B
128mm、24.5gのビッグジャークベイト。ジョン・マーレーが使っていたのはこのカラーだった
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