真正面から漁港の釣り場を開放した西伊豆町の実績を全国へ展開
写真◎ウミゴー 文◎編集部
漁業者と釣り人が共存できるシステムを

コロナ禍で釣り人気が高まる一方、トラブルにより全国的に漁港が次々と釣り禁止となる事態が多発している近年。漁港などの公共エリアの釣り場は一度閉鎖されるともう釣り場として戻ってこないことがほとんどであり、嘆く釣り人も多い。國村大喜さんもその一人。西伊豆町へ移住し、釣り三昧の西伊豆ライフに想いを馳せていた矢先、新居近くの漁港が釣り禁止となりショックを受けた。「釣り禁止の連鎖を止めたい。自分にできることはないか」と使命感が芽生えたのは、この時だったという。國村さんは釣り禁止を前に諦めることなく、デザインと工学を学んできた経験を生かして「アプリと法整備の合わせ技で、釣り場閉鎖という社会課題を解決できるかもしれない」と考えた。

●國村大喜(くにむら・ひろき)
株式会社ウミゴー代表。幼いころから釣りを楽しんでおり、西伊豆町へ移住。最寄りの漁港が釣り禁止になったことが海釣りGO発案のきっかけとなる
釣り人も責任をもって漁港を利用するために

まず目を向けたのは釣り場と釣り人に関わる社会構造のゆがみだ。「漁港は漁業者の職場であり彼らを決して邪魔してはならない」という基本的なルールも、レジャーとして釣りを始めたばかりの初心者は知らない。誰かにルールを教わる機会はなく、特に岸壁の釣りでは看板等でしか伝える方法がない。これではマナーの周知や向上は見込めない。また、費用面でも不公平があることに國村さんは着目した。漁業者等、プロとして漁港を利用する場合は、組合費や停泊料など定められた負担を担うことで共同利用を実現している。一方、釣り人には負担も無ければ責任もない。「釣り人を責任ある漁港利用者の一員として位置づけるべきではないか」と考えたのが出発点となった。

國村さんはICT(情報通信技術)のクリエイターとして、アプリの利用を検討した。利用者目線では、釣り場や駐車場の予約、支払いを現地での待ち時間なく済ませることができ、ルールや釣り可能エリアなどの情報にも目を通しやすい。一方、管理者側から見れば、巡回方式で画面の確認を行なうだけなら受付窓口を作る必要がない。
システムを通じて集められた利用料は、巡視スタッフの人件費や漁港施設の美化、メンテナンスなどに活用されていく。このように両者にとってWin-Winな形を追求してできあがったのがアプリ『海釣りGO』。持続可能な釣りレジャーを実現するための仕組みが誕生したのであった。
行政、漁協も関わって田子漁港を再開放

最初の舞台となったのは、國村さんが暮らす西伊豆町の田子漁港。漁業者と釣り人とのトラブルが原因で、2022年7月から釣りが禁止されていた。この港の再開放には、アプリだけでなく行政や漁協、地元の店舗、企業、自治会など、さまざまな関係者の理解と協力が不可欠であり、特に西伊豆町役場職員の松浦城太郎さんが重要な役割を果たしてくれたと國村さんは言う。町の行政マンとして、釣り人による経済効果を失ったことを憂慮していた松浦さんは、國村さんの語る「デジタル技術を使うことでルールを周知し、かつ釣り人が地域に貢献できる形を作れるかもしれない」という提案に可能性を見出したそうで、漁港再開放に向けて動き出した。現場では、伊豆漁協田子支所運営委員長の沼野文雄さんと所長の真野創さんも協力し、漁業者の不安や懸念に寄り添うことで、トライアルで実施することができた。こうして、漁業者と釣り人の共存を目指す協力体制が築かれたのである。
成功につき、第2港目仁科漁港も翌年解放


西伊豆町議会で条例改正が実現し、2023年7月31日、田子漁港で海釣りGOが稼動を開始した。サービス開始直後から秩序ある釣り場が自然と形作られ、利用者も増加。2024年8月末までの約一年間に延べ6450人が利用する盛況っぷりだ。さらに、釣り人が支払った利用料によって救命はしごや休憩所、水道設備が新設、さらにはAEDまで更新されるなど、漁港の設備が充実。これにより、地域環境の改善や経済波及効果も生まれ、漁港だけでなく地域全体にまで好循環が広がるようになった。

田子漁港での成功を受け2024年8月に海釣りGOの第2港目として西伊豆町の仁科漁港が開放された。地域おこし協力隊の若者も加わり、温泉や直売所、磯遊びエリアなど仁科漁港ならではの地域資源を組み合わせた釣り場の魅力を現在も発信している。はんばた市場とのコラボレーションにより、釣り人が漁協の環境保全活動に参加できる「食害魚ハンティング」というユニークな取り組みもスタート。田子漁港とはまた違った特徴をもつ海業の振興事例として、全国各地からも問い合わせや視察が相次いでいるそうだ。
クラウドファンディングで釣り場開放プロジェクト

現在、『海釣りGO』の認知が拡大するにつれ、漁港を真正面から開放したという実績を作ったウミゴーに対し、釣り場を開放してほしいという要望が多く寄せられるようになっている。とはいえ釣り場開放が容易なものであると楽観視する意見も少なくはないとのこと。もとよりトラブルが発生する素地があるからこそ釣りが禁止になったのであり、釣り場開放に至るプロセスにはいくつものハードルがあるのは想像に難くない。田子でも仁科でも、釣り場を開く過程では綿密な打ち合わせをもとに地域や漁業者の懸念をひとつひとつ解きほぐすことを國村さんは重要視してきたという。対話を通じて地域を知り、信頼関係を構築していったことも再開放に欠かせない要素である。
釣り場を作っていく運営側の取り組みには、単に釣りに行って魚を釣りあげるレジャーの喜びとはまた違った、地域を知って愛着を持つようになる別の価値観があると國村さんは気付いたそうだ。
「釣り場開放を望む利用者こそ、準スタッフとして釣り場開放に参画することで、それぞれが地域の特性や想いを知って釣りという遊びを通して地域の外部サポーターになれないか。釣り人が釣り場を消費するのではなく、釣り人こそが地域を支える主体になれるのではないかと思うようになりました」
こうしてクラウドファンディング「釣り人が地域を支える!釣り場開放プロジェクト」が立ち上がったのだ。
釣り人も共創の一員。豊かな海を次世代へ

釣り場が日々減っていく現状の中で釣り場の開放は、非常に喜ばしいニュースだ。ただし、この活動を長期的に続け、全国に広げていくにはウミゴーだけでは限界があると國村さん。地域、行政、業界はもちろん、個人も含めて大勢が手を取り合うほど実現への可能性は高くなる。クラウドファンディング開始時には、行政・漁協の責任者から応援メッセージが寄せられ、國村さんとウミゴーへの期待を感じられた。
ウミゴーの作り上げたシステムは商業的でなく、社会課題の解決策としてうまく機能している。
「ウミゴーは一貫して、地域に利益をもたらす事業を推進してきています。これからもそういった事業を続けていきたいですし、運営側の利益を削りながらでも取り組むべきだと考えています」
と國村さんは力強く語る。その熱意と実績が2港目に繋がったのだ。クラウドファンディングでの応援は釣り人みんなで釣り場を作るという「共創」のはじめの一歩。希望あふれる釣り場と地域社会の実現のためにもぜひ一度プロジェクトページを一読していただき、理想を掲げて活動するウミゴーへの支援をお願いしたい。