「友釣りビギナーにぜひ釣ってもらいたい」と猿渡俊昭さんが太鼓判を押す川が板取川上流だ。浸かるだけで癒されるほど透明度が高く、天然遡上の多い今夏は追い合うアユの姿が各所で見られる。
「友釣りビギナーにぜひ釣ってもらいたい」と猿渡俊昭さんが太鼓判を押す川が板取川上流だ。浸かるだけで癒されるほど透明度が高く、天然遡上の多い今夏は追い合うアユの姿が各所で見られる。
写真と文◎編集部
丸佐おとり店ではサオのレンタルが可能
岐阜県美濃市にある丸佐おとり店の店主、猿渡俊昭さんの本職は包丁の研磨工だ。先代の父親から教わったという技術は手の感覚のみが頼りのまさしく手仕事。「クラフト36」という工房を構え、月に約1万5000本もの刃物を研磨して納品する。昨秋から「猿九」というオリジナルブランドの刃物も手掛けるようになり本職も充実した日々をすごす。
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友釣り名手でもある猿渡さんは友釣りファンを増やしたいという想いも人一倍強い。店ではオトリ販売のみならずレンタル用のアユザオが並び、小澤剛さん、小沢聡さん、島啓悟さんら名手の協力を得てガイドサービスも運営している。ベテランだけでなく20代、30代の友釣りビギナーの来店も多く、7月上旬のこの日は滋賀県在住の常連さんがイタリア人の入門者を連れて訪れていた。

板取川は「山紫水明」の美しい景色の中でアユ釣りを楽しめる
猿渡さんが友釣りビギナーにぜひともおすすめしたいというのが板取川上流漁協管轄の友釣り場である。下流は洞戸観光ヤナから上流は高島橋まで友釣り専用区が18ヵ所(全長約9.6km)設けられている。
「水がきれいで美味しいアユが釣れます。今夏は長良川からかなりの数の天然アユが遡上しているので数釣りも望めます。これまでルアーでしかアユを釣ったことがない方にも、爽やかな流れに浸かってオトリを操る友釣りの魅力をぜひ味わって欲しい」
そう話す猿渡さんと向かったポイントは「鮎川」という食事処の裏手にある流れ。「鮎川」はアユの塩焼きはもちろん、カジカの刺身など他所ではなかなか味わえない清流の恵みが供される人気店。板取川を臨むテラス席からは食んでいるアユが観察でき、天然遡上が良好な今夏は特にその数が多い。また店の駐車場は有料ながら友釣りファンも利用できる。山紫水明の景色は素晴らしく瀬音に交じってカジカの鳴き声が涼やかに響くのも心地よい。

瀬肩に立った猿渡さんが手にするサオはシマノ「トモアユ」7.5m。仕掛けは「メタキングII完全仕掛け」0.03号。ハリは「早虎」6.5号4本イカリでスタートした。
「今日はうちの店でレンタルしているサオで釣ってみます。完全仕掛けでも充分に釣れますよ」
波立ちの中にオトリを入れると即座に追われた。目印が避けるような動きを見せ、野アユがオトリに触れてゴンと震える反応が現われる。そのうち強い衝撃とともに目印が下流に飛んだ。サオを立てるとあっという間に抜き上げられたのは15cmほどの小型である。

21cmの良型も登場
「小さなアユもたくさんいますね」
長良川で育った友釣りマンは良型を揃えることをよしとする。いくら数を釣っても小型であれば自慢はできない。サイズが落ちれば型の出そうなポイントを次々に撃っていく。猿渡さんは瀬を下りながら流れの落ち口、白泡の中とテンポよくオトリを入れ込む。するとそのうち強い衝撃があってサオが満月になる。抜き上げると「でっかい!」と思わず声を上げるくらいの21cmクラスがタモに収まる。追い星が2段で連なる真っ黄色の天然アユだ。
思わぬ良型もいることからハリを7.5号の4本イカリと大きくする。型の出る筋を探って左岸から右岸に渡る。水通しのよい流心をねらう時は背バリをセットし0.8号程度のオモリも付けた。とにかく足を止めず、オトリを常時動かし続ける。そうして1時間ほどで10尾を掛けた。

板取川の攻略法:黄金色に輝く石をねらえ
午後からはさらに上流のポイントを目指す。洞戸ダムより上流になると天然アユは減り放流アユの良型が揃う。猿渡さんは「天然鮎料理おもだか」という料理屋の裏手の瀬を探ってみることにした。
「板取川では明るい黄金色の石が敷き詰められているスポットを中心にオトリを入れるといいです。黒い石の大半はアカ腐れ。釣れない時は1ヵ所で粘りすぎず、こまめに移動したほうが掛かる魚は多くなります」
猿渡さんはそう言って200mほど上流の落差の大きな瀬を目指した。瀬肩からサオを伸ばすと手前の筋から丁寧にオトリを入れていく。明るく金色に輝く石裏ではすぐに反応が出た。
「オトリを操作する時はイトを張りすぎず緩めすぎないテンションを心がけてください。そうするとオトリも弱りにくく、自由に泳ぎ過ぎずにポイントに留めておくことができます。またフワフワ泳がせたい時はサオを立て気味にする。ねらいの筋をきっちり通したい時はサオを寝かせ、穂先とイトとオトリをねらいの筋のラインに合わせるんです」
ほどなくして目印が弾け、背掛かりの黄色いアユが宙を舞う。これをオトリにしてその沖の筋に入れれば再び痛快なアタリ。猿渡さんは徐々に前に出ながら探って数を伸ばす。

流れの変化にも注目
ポイントの見立てとしては、石色を見るほかにも流れの落ち口、左右の流れが合わさってできるヨレにも注目してオトリを入れる。水通しのよい場所がよく掛かるのか、それともアユが密集しやすいヨレがよいのか探っていく。
「盛夏の渇水時には白泡の中もよく掛かりますが、今日はよくありませんね」
少し上流に移動するとアカ腐れした大石が点在するトロ瀬に立った。所々にある小石底のスポットはアユが食んでいそうな石色をしている。その周辺を泳がせていると強いアタリが出て、ドスッとタモに収まったのは22cmクラス。
「いいサイズです。板取川上流は終盤になると尺アユも出るんですよ」
同じエリアでたて続けに同型を掛けたが反応はそれっきり。猿渡さんは左岸の分流筋に移動して2尾追加するも数はまとまらない。今度は下りながらポツポツと拾い釣り。やがて駐車場前まで戻ってくると意外にもそこで反応が増えた。オトリを追い回すというよりは、まとわりついている感じでケラレや水中バレも頻発。それでもゴソゴソという反応が出る場所でオトリを川底に馴染ませていれば掛かる。最後に5尾ほどの連荘を味わって5時間の釣りでトータル29尾という満足のいく釣果を得られた。

※このページは『つり人 2025年9月号』を再編集したものです。