繊細さが命のタナゴ釣り。 市販の完成仕掛けはベテランの目にどう映る?釣り場でその実力を探った。
繊細さが命のタナゴ釣り。 市販の完成仕掛けはベテランの目にどう映る?釣り場でその実力を探った。
写真と文◎編集部
完成仕掛けならタナゴ釣り入門にピッタリ
タナゴ釣りは自分でハリを研ぐなど上級者向けの印象をお持ちの方もいるかもしれないが、そういったディープな世界もあるというだけで、本来は足場のよい身近な水辺で楽しめる、子どもたちへまず釣りという遊びに触れてもらうのにもピッタリだ。
ただしタナゴやクチボソは口が小さいので極小のハリがついた繊細な仕掛けが必要となる。初心者がイチから仕掛けを作るのはハードルが高いから、なるべく完成仕掛けをおすすめしたいところ。 そこに登場したのがまるふじのタナゴ仕掛け&用品各種だ。完成仕掛けとしてはかなり繊細なウキとハリを備えているうえ、ハンガー式のハリス止メや親ウキに出ないアタリをとるためのイトウキなどを盛り込んだ本格派。
タナゴ釣り専門店などがこだわって作ったオリジナル仕掛けは別として、一般の量販店で買える入門仕掛けとしては考えられない充実ぶりだ。 気になるのはその実力。普段、こだわりの仕掛けを自作してタナゴ釣りを楽しんでいるベテランの目に、この仕掛けはどう映るのか。そこで、編集部の人脈をフル動員して腕に自信の手練れのタナゴ師を招集。この仕掛けを使ってもらうことにした。
取材した釣り人プロフィール
・長谷文彦【ながたに・ふみひこ】
江戸時代から続く芝浦の老舗「おかめ鮨」五代目店主。江戸前の釣り文化を愛し、タナゴやフナ釣りにも造詣が深い。タナゴ釣りを紹介するTV番組にも出演経験多数
・鈴木清【すずき・きよし】
戦時下の疎開中にフナ釣りに出会った87歳。日本の釣り文化を見続けてきた生き字引的存在。現在は自作の和の釣り具を携えてタナゴ・フナ釣りを楽しんでいる
タナゴ釣りを始めるにあたって準備したい道具類
適切な完成仕掛けが準備できればタナゴ釣りは驚くほど手軽に始められる。以下が揃えておきたい道具類。
1.ノベザオ【必須】:60cm~2.1mくらいのもの
2.タナゴ用仕掛け入れ:仕掛け巻きを収納するとともに、替えバリを予めフェルト部に刺しておけばパッケージが風に飛ばされることもない
3.エサ入れ【必須】:グルテンエサを混ぜて入れておくもの。小さいタッパーでよい
4.グルテンエサ【必須】:水と混ぜて使う粉末の練り餌は保管が楽。写真の「タナゴグルテン(マルキユー)」には計量スプーンが付属
5.タナゴ桶:釣ったタナゴを入れておくもの。ワイヤー状のものはベテラン自作のハリ外しで数釣りを楽しむときはこれがあると手返しがよい
6.完成仕掛け【必須】
7.替えバリ:ハリス付きのものが初心者向き
8.黄身エサ用シリンジ:卵の黄身をエサにするときに使うもの。写真は「たなごポンプ(まるふじ)」
9.エサ入れ:グルテンエサの携行にベテランはおしゃれな和の道具を使う
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今回準備したタナゴの仕掛け
「特選たなご」シリーズ
今回メインで使用した「特選たなご」のほか、カエシのないスレバリがセットされた「同・スレ鈎タイプ」、ひと回り小さなウキと増量された目印が特徴の「たなごクチボソ」。仕掛け巻きが付属しているのは初心者にとってかなりありがたい。
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仕掛けのパッケージ裏にはサオへの付け方も記されたユーザーフレンドリーぶり。記載の方法(ぶしょう付け)にひと手間加えて、チチワの先端にもうひとつ輪を作ると外すのが簡単になる。
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一方下記画像は長谷さん・鈴木さんのサオ先。ゴム管でミチイトを任意の長さに止めていて、仕掛けを切らなくていいのでいろいろな長さのサオで使いまわせる。余ったイトはサオに沿わせて一緒に握るか、手もとにテープで止めるかして使う。タナゴやクチボソといった小さな魚には強度的にも問題ない。フナ以上の魚が掛かりそうならぶしょう付けがよいだろう。
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「別誂研ぎたなご」シリーズ
替えバリ「別誂研ぎたなご」シリーズ(まるふじ)。しなやかで食い込ませやすいテトロンハリス付きで、先端が輪になっているので「特選たなご」などにも使われているハンガータイプのハリス止メに引っかけるだけで結ぶ必要がない。 アタリが出やすい2.5cmのハリス長は鈴木さんも高評価。
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「別誂研ぎたなご」シリーズの中でも白眉は「くのいち」。先曲がりからハリ先までの長さが約1.0mm(編集部計測)と、職人の研ぎバリに迫る小ささでオカメタナゴにもグッド。
市販タナゴ仕掛けはベテランのお眼鏡にかなうのか
5月上旬、茨城県・霞ヶ浦周辺のタナゴスポットに集まってくれたのは、芝浦の老舗「おかめ寿司」大将の長谷文彦さんと、現在87歳で水郷エリアを拠点にいまも小物釣りを楽しむ鈴木清さんだ。 手練れのおふたりにさっそく仕掛け「特選たなご」を渡してみる。
長谷「まずタナゴを釣ってみたいって人が使うには本当によさそう。この前、お店のお客さんが親子でタナゴを釣ってみたいと言って道具をそろえてきたんだけど、買ってきた仕掛けにはでっかい玉ウキがついてた。釣り堀のニジマスならいいけど、悪いけどそれでタナゴ釣りは無理だよって。だけど、なにもわからない初心者もこれを買ったら解決だよ。小さいウキだってどこで買えるか知らないだろうし。僕は仕掛けを自分で作るけど、このサイズの親ウキを止めるためのゴム管を売っているお店がなかなか見つからなくて苦労する。そういうのが全部ついてるわけだから。しかも見てよ、仕掛け巻きもセットになってる。仕掛けは繰り返し使いたいから、しまう時にすごくありがたい」
鈴木「初心者に、ってことなら替えバリがあるのもいいな。大きいフナとかコイが掛かって伸ばされても予備があれば釣りを続けられる」 ちなみに、「特選たなご」にはカエシのないスレバリが付けられたバージョンもあり、別売でテトロンハリス付きの替えバリもあって、ハリス長は2.5cm。 鈴木「初めての人はスレバリがいいよ。魚を傷めないし、服に引っかかってもすぐとれるから。ハリスはそれくらい短いとアタリが出やすくていい」
ウキのバランスも初心者向けに調整済み
長谷「ウキはトップバランスに調整済みみたい。ウキの上側が水面から出て浮いている状態で釣りをするバランスのこと。活性が高いときはウキの波紋でアタリがとれるから初めてでもわかりやすいよ。慣れてくれば親ウキが動かないようなアタリも下のイトウキの動きでとれるようになる。でも僕たちがよく使ってるのは、ウキがゆっくり沈んでいくシモリバランスの仕掛け。ゆっくり沈んでいくウキと目印がフッと動くアタリを掛けていくのが面白い釣りだから」
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鈴木「それなら板オモリを足して調整すればいいのよ。でも本気で寒い時期のアタリをとるならこのウキでもまだ大きいかな」
長谷「大きいウキにさらにオモリを足してシモリバランスにすると繊細さはなくなっちゃう。たぶん大型の在来タナゴも含めたタナゴ仕掛けなんでしょう。あれ?こっちはもっと小さなウキがついてますね」 と、長谷さんが手にしたのは同じくまるふじの「たなごクチボソ」仕掛け。 長谷「寒い時期に使うなら絶対こっちがいいです。軽いオモリでバランスがとれますから、小さなアタリでも反応が出やすいです」 面倒見がよく初心者大歓迎のふたりだからユーザーフレンドリーなこれらの仕掛けは評価が高いようす。
ちなみに下記はより繊細なアタリをとるための鈴木さんの仕掛け。スリムな親ウキは同じ浮力でも水の抵抗が少なく、小さな力でも上下に動く。その下のイトウキは鳥の羽を加工したものでそれ自体浮力がある。浮力のないイトウキはオモリが沈む過程で水を切るように動くのに対し、羽根の糸ウキはミチイトを追いかけるように沈むので動きを予測しやすく、その予測と外れた動き=沈んでいく最中のアタリを感知しやすい。
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仕掛けを実釣で試す
霞ヶ浦の湖岸道路と農地の間には灌漑用の水路(ホソ)があって、タナゴやフナの好ポイントになっている。だが、取材時は前日から前夜の雨でこれらのホソは軒並みひどい濁りが入ってしまっていた。
そこで濁りが少ないホソを求めて、湖岸から少し離れた水田地帯を流れる水路で、農作業の迷惑にならない場所を慎重に探して釣り座を構えた。 ふたりが準備したのは4尺(1.2m)ほどの和ザオ。鈴木さんの自作の品だ。 サオの長さは足もとのボサを超えて仕掛けを振り込める長さがあればよく、矢板や護岸際で足もとをねらうならもっと短くてもいい。
完成仕掛けの「特選たなご」「たなごクチボソ」はイトの全長が2.1mあるから、サオの長さに合わせてオモリがサオ尻に来るくらいの長さに余分を切って調節する。イトの先端にチチワを作ってサオ先にぶしょう付けして使う。
エサはグルテンか卵の黄身
エサはグルテンエサか卵の黄身エサがおすすめ。グルテンエサは粉末で売られているので釣り場で水と混ぜて使う。 黄身エサはコンビニで買える温泉卵の黄身をそのまま使うのが簡単なうえ反応もよい。これをシリンジで押し出しながら使うのだが、まるふじ「たなごポンプ」 は先端が細くて首から下げられるストラップもついているので、長谷さんも絶賛。
長谷「エサをなるべく小さく付けられるように、シリンジの先は細いほうが絶対いいですよ。100円ショップの化粧品コーナーにあるシリンジを使う人が多いですが、これはいいなぁ」
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マブナに交じって本命のタナゴが登場
ボサに目をやればトノサマガエルが2~3匹顔をのぞかせている。それを横目に仕掛けを振り込むと、さっそくウキを引き込むアタリが出た。サオが大きく曲がり込んでいる。 長谷「あ、これコブ(小ブナ)だよ。タナゴねらいで来たけど、ひとつの仕掛けでいろいろ釣れたほうが楽しいじゃない」と初心者目線でひと言。その後もアタリはよく続いたもののどれも小ブナ(マブナ)だった。
「今日はフナの日みたい」 と長谷さん。 ここで感じたのはハリの強さ。いずれも手のひらに乗るサイズとはいえ、タナゴよりも重いフナを抜き上げてもひとつのハリで釣り続けることができた。鈴木さんが掛けた20cmほどのフナにはさすがに伸ばされてしまったが、替えバリに交換すればOK。交換もハンガータイプのハリス止メに輪を掛けるだけなので結びが不要で簡単だ。
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鈴木「俺が持ってきた仕掛け自慢していい?」 長谷「どれどれ~?」 などと和気あいあいと釣りをしていると待望のタナゴもヒット。尻ビレが明るいホワイトに発色している5cmくらいのオオタナゴだ。仕掛け純正のハリがしっかり上アゴを捉えている。
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タナゴのアタリをとるコツは?
鈴木「オモリをウキより遠くに落とすんだよ。そうするとエサが沈んでいく最中のアタリをイトウキでとれるから」 つまり、親ウキより下の部分の仕掛けが、ルアーで言うカーブフォールするように仕掛けを振り込むということ。こうすると仕掛けが馴染む最中もイトが張っているからイトウキにアタリが出るのだ。
この後、フナに交じってオカメタナゴも登場し、ついでに記者も同じ仕掛けで小ブナをキャッチ。ぽかぽか陽気の水辺の時間はおだやかにゆっくりと流れていくのだった。
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※このページは『つり人 2025年7月号』を再編集したものです。