東京湾の船釣りベスト3に入る人気ターゲットがタチウオだ。エサでもルアーでもねらえるが最もポピュラーな釣法はテンビンオモリの吹き流し仕掛けにサバやコノシロの切り身エサを使う通称「テンビンタチウオ」である。この釣りのエキスパートである高槻慧さんが基礎と応用を教えてくれた。
東京湾の船釣りベスト3に入る人気ターゲットがタチウオだ。エサでもルアーでもねらえるが、最もポピュラーな釣法は天秤(テンビン)オモリの吹き流し仕掛けに、サバやコノシロの切り身エサを使う通称「テンビンタチウオ」である。本記事では、このテンビンタチウオのエキスパート・高槻慧さんが実践する、エサ付けから誘い方までの手順を、実釣取材に基づき徹底解説。基本から一歩進んだ応用テクニックまで紹介する。
写真と文◎編集部
テンビンタチウオの仕掛け
東京湾のタチウオ釣りは周年楽しめ、今や東京湾屈指の人気ターゲットである。6~9月の高水温期は「夏タチ」と呼ばれる数が釣れる好機。かつてのタチウオは冬の釣りものとされたが、20年ほど前から夏場の釣りも盛んになった。その黎明期から夏タチを看板に掲げている船宿が1937年創業の老舗、金沢八景弁天屋だ。
「タチウオの人気は凄いよ。近年は6月~翌年の2月まで出船していて、特に夏は毎日のように満船状態でにぎわっています」
そう話すのはタチウオ午前船担当の木村定義船長。テンビン仕掛けとテンヤ仕掛けの2つの釣法が楽しめるが、ビギナー向けはテンビン仕掛けだ。
「テンビン仕掛けの魅力は、まず数が釣れやすいこと。それとエサの動かし方、つまりシャクリのテンポが合うと連発ヒットが楽しめます。このヒットパターンを見出すのも面白さのひとつです」と高槻慧さんは言う。
オモリは60号。サオは専用モデルでなくとも、汎用船ザオのいわゆる「ライトゲーム」モデルも使える。仕掛けはテンビンの先に2mほどのハリス(8号と太め)を付けた1本バリ仕掛けが主流である。

テンビンタチウオはエサ付けで釣果の8割が決まる
エサは船宿が用意してくれるサバもしくはコノシロの切り身を使用。
「エサ付けで釣果の8割は決まります」
と高槻さんが言うとおり、切り身を3点縫い刺しにして真っ直ぐになるように付けるのが非常に重要。エサがねじれていると誘いの最中に回転して食いが著しく悪くなる。周囲が当たっているのに乗らないと感じた時はまずはエサがちゃんと付いているかをチェックすること。








釣り方は正確なタナ取りとシャクリのテンポが重要
8月初旬のこの日、高槻さんがテンビンタチウオをレクチャーするのは、釣り具のキャスティング南行徳店に勤務する横山空知さんだ。幼い頃からバスフィッシングを中心に多彩な釣りを楽しんでいるが、今はチニング、シーバスといったオカッパリのソルトルアーフィッシングを始め、マグロのキャスティングゲームから沖イカまで多彩な船の釣りに燃えている。
釣り場は走水沖の水深60m。最初の指示ダナは56m。タチウオの活性が上がると泳層が上ずってくるため、船長のアナウンスには常に耳を傾けることが肝心だ。手順は次のとおり。
1.タックルを脇に抱えてリールのクラッチを切り仕掛けを投入する。この時沈下するエサを必ず注視し、回転せず真っ直ぐ落ちていくかどうかを確認しよう
2.指示ダナまで仕掛けを落とす時はPEのラインカラーを見て確認。その多くは10m毎に色分けされ、1m毎にマーカーが付いている。仕掛けは指示ダナより下にはなるべく落とさない。なぜなら群れ全体の泳層が下がってしまう恐れがある
3.指示ダナからハリス分(2m)巻き上げてシャクリをスタート
4.シャクリの基本は45度にサオを構え、水平までビシッと上げて再び45度に下げる。この下げるタイミングでリールのハンドルを1/4~1/2回転巻きイトフケを取る。この巻きのピッチで食い方が変わる
5.シャクリをスタートさせてから8m巻き上げ、この間にアタリがなければ再び指示ダナに落とす
6.指示ダナから8mまでの探りを5往復ほどしてアタリが出なければ仕掛けを回収してエサが取られていないか、もしくはズレていないかをチェックする
アタリがあっても誘い続けるのがコツ
朝のうちはタチウオの活性が高い。大きくシャクるよりは細かく刻んだシャクリのほうが食いがよいことが多い。高槻さんはハンドル1/4回転につき1回という小刻みなシャクリを行なう。と、穂先が「ガツガツ」と震えるアタリが何度も出た。
「アタリが出ても合わせる意識はもたなくていいです。タチウオは下から突き上げるようにしてベイトを追います。追って追って食らいつくのが基本なので、ガツンと魚が引き込むまで一定のリズムでシャクリ続けてください」
やり取りと取り込みの手順
そう話していると魚の重みが乗ってサオがきれいな弧を描いた。やり取りはロッドを水平にして引きを受け止める。強く引き込んだ時はリールを無理に巻かなくてもよい。取り込みの手順は次のとおり。
1.テンビンが海面まで浮上したところでサオを起こす
2.テンビンをつかみ、サオを置き、テンビンも船べりに置く
3.ハリスを手繰り魚が見えたところで一気に船内に引き入れる
こうして高槻さんは1投目から指3本のタチウオを釣りあげた。

2本バリ仕掛けで多点掛け狙いも効果的
横山さんは高槻さんの教えどおりに早いテンポのピッチで探って1投目から指2本のサイズをキャッチ。ジギング経験も豊富なためシャクリが安定しており仕掛けを落とすたびにアタリが出る。

「ピッチのリズムが合った時の連発がたまりません(笑)」と楽しそうだ。朝一の流しはタチウオの活性が高く船内各所でタチウオが釣りあがる。そしていつの間にか周囲にはタチウオねらいの大船団ができていた。そのうち「45mから探ってみて」と船長の指示ダナが上がる。活性が上がっている証拠だが、入れ食い状態にはならない。横山さんは3投に1尾くらいのキャッチ率である。一方、高槻さんは2本バリを試していた。
「2本バリ仕掛けは1尾タチウオがヒットしたところで、デッドスローで誘い上げます。そのうちもう1回強い引き込みアタリが出たところで合わせます。2尾目が食うまでの駆け引きが味わい深いんですよ」
とテンポのよい釣りをせず、じっくりと駆け引きをしている。そして2尾のタチウオが掛かると重量感は増し、2尾が各々暴れる感触が楽しいという。

横山さんも2本バリでやってみたいとなり、仕掛けを張り替える。10時を回った頃からは1流しの間にアタリが頻発する高活性な状況になる。そして1尾が掛かって2尾目の当たり待っていると一気にサオが海面に突っ込むほどの強烈なアタリが出た。サオを起こしてやり取りをしてジワジワと距離を詰めていくと、浮上した銀色の魚体に夏の日差しが映えた。ひと際体高のある魚体である。
「メーターは超えてます!」
と高槻さんも相好を崩す。船内に引き込まれたのは115cm指5本サイズであった。
弁天屋の午前船はポイントにもよるが概ね10時45分には沖上がりになる。高槻さんも横山さんも15尾を釣りあげてこの日のサオ頭になり、メーターオーバーも揃って釣りあげた。午前のみという短時間でも濃密な釣りが楽しめるはずだ。

※このページは『つり人2023年10月号』を再編集したものです。