日本のバスプロ・伊藤巧さんがアメリカの著名なトーナメント(バスフィッシングの大会)で優勝を決めました。その大会の名はB.A.S.S.バスマスター・エリートシリーズ。この記事では、大会名を聞いてもピンとこない人のために今回の快挙のスゴさを解説します。
千葉県柏市出身の好青年がついにやった!
2021年7月19日の早朝(日本時間)、日本のバスプロ・伊藤巧さんがアメリカの著名なトーナメント(バスフィッシングの大会)で優勝を決めました。その大会の名はB.A.S.S.バスマスター・エリートシリーズ。この記事では、大会名を聞いてもピンとこない人のために今回の快挙のスゴさを解説します。バスフィッシングの本場、アメリカには大小含めると多数のトーナメント団体(バス釣り大会を主催する団体)がありますが、そのなかでももっとも歴史ある団体がB.A.S.S.。1967年発足なので、50年以上運営され続けているということになります。そのB.A.S.S.のなかで最もハイエンドなカテゴリーが今回伊藤選手が優勝した「エリートシリーズ」。下部カテゴリーを勝ち抜いた精鋭約100名だけが出場できる特別な試合です(年間9戦)。
その華やかさと熾烈さを知るには賞金額を見るのが一番でしょう。エリートシリーズの優勝賞金はなんと10万ドル。7月19日現在の為替レートで日本円に換算すると1100万円にせまるビッグマネーです。釣り大会の優勝賞金が1000万超えとは……! ちなみに、エリートシリーズの年間順位上位だけが出場できる年間1戦の「クラシック」の優勝賞金は30万ドル。しかも、優勝して注目を浴びれば企業からのスポンサー獲得にもつながるため、得られるお金は賞金の何倍にもなると言われています。
BIG BASS,BIG STAGE,BIG DREAM‼️I got blue trophy‼️
— Takumi Ito 伊藤巧 (@takumi_no_oheya) July 19, 2021
7歳の頃、ゲームで優勝した世界。バスマスターエリートシリーズ。夢の舞台で優勝することができました。頭の整理もつかず、困惑してますが、本当に皆様の応援のお陰です。涙って、自然と湧いてくるんですね。本当にありがとうございました‼️ pic.twitter.com/mRAYOJ6uxq
それでは、伊藤選手はいったいどんな人物なのか。伊藤選手は1987年3月29日生まれ。千葉県柏市出身です。
物腰が軟らかく人当たりのいい好青年ですが、バスフィッシングにかける情熱はすさまじく、こと試合が絡むとヒートアップすることもある熱血漢でもあります。そんな伊藤選手を象徴するエピソードがあります。あれは2013年のことでした。TBC(利根川を舞台にしたバストーナメント)に出場する伊藤選手は、前日練習を終え車で帰宅。事件は駐車場で起こりました。なんと車に積んでいた釣り用のバッテリーとガソリンの携行缶を不注意で接触させてしまい、車が爆発炎上したのです。幸いケガ人はありませんでしたが、車は廃車となり、積んでいた釣り具の大部分は燃えてしまいました。普通の人間であれば、翌日の釣り大会には出ません。しかし、伊藤選手はかろうじて使えそうなタックルをかき集め(溶けていたサオやリールもあったといいます)、試合に強行出場。ベイトリールのクラッチが溶けていてうまく切れなかったそうです。
普段はファンとも気さくに接してくれる好青年だ
出場だけでも尋常ではないことですが、伊藤選手はこの大会を準優勝……。試合後、「スピニングリールのドラグが溶けていてうまくイトが出ず1尾切られてしまった」と悔しそうに話す姿を見て、「ただものではない……」と驚愕したことをよく覚えています。そんなクレイジーな一面を持つからこそ、異国の地の大きな試合で逆転優勝を決めるという離れ業ができるのだと思います。
幼いころからバスフィッシングに夢中だった伊藤選手。アメリカのバストーナメントをテーマにしたテレビゲームや、日本人としてアメリカの試合に挑戦した先駆者である大森貴洋選手(エリートシリーズ優勝経験あり。『バス釣り界のイチロー』と呼ばれた)の影響から、「アメリカのバストーナメントに出場する」が目標でした。
釣りに行ける時間はすべて釣りにあてる青春を送った伊藤選手。麗澤大学を卒業後、大きな出会いがあります。それは日本を代表するバスプロのひとり、田辺哲男さんとの出会い。この後、伊藤選手は田辺さんの直弟子としてバスフィッシングを叩きこまれることになります。田辺さんは非米国人としてはじめてB.A.S.S.の試合で優勝した選手であり、アメリカのバストーナメントの最前線に挑戦し続けたアングラーでした。そんな田辺さんを師匠にもつ伊藤選手がアメリカを目指したのは当然の成り行きかもしれません。
師匠の田辺哲男さんと
国内のトーナメント(TBCやH-1グランプリなど)で活躍した伊藤選手は2019年に渡米。エリートシリーズの下位カテゴリーであるオープンカテゴリーで上位フィニッシュを決め、わずか1年でエリートシリーズに昇格を果たしたのです。アメリカの試合に日本人が出場することは決して簡単ではありません。資金やビザ、スケジュールのやりくりや言葉など、乗り越えるべき壁は無数にありますが、伊藤選手は日々その壁と戦いながらアメリカで戦っています。
伊藤選手が優勝したのは2021年シーズンの最終戦でした。年間ランキングは16位でクラシック戦の出場も決まっています。これからも伊藤選手が活躍する姿をまだまだ見られそうです。
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