苦労して釣り上げた新鮮な魚を、極上の刺身で味わうのは釣り人にとって至福のひとときです。しかし、そこで立ちはだかるのが寄生虫「アニサキス」の存在。近年、この寄生虫による食中毒「アニサキス症」の発症例が全国的に急増しています。今回は、海の幸を安全に楽しむための正しいアニサキス対策を分かりやすくまとめました。

まとめ◎つり人オンライン編集部
1946年創刊の雑誌「月刊つり人」を始め、数々の釣りに関するコンテンツを作成してきたつり人社のWEB編集部。
激痛を伴う「アニサキス症」の恐怖
アニサキスは、主に海産魚介類の内臓周辺に寄生する、2〜3cmほどの白い糸状の寄生虫です。これを生きたまま飲み込んでしまうと、胃や腸の壁に取り付きます。そして、食後数時間から十数時間後に、激しいみぞおちの痛みや嘔吐に襲われるのです。
とは言え、体内に入れば必ず発症するわけではありません。運よく胃壁に取り付かず、そのまま消化・排泄されていくことも多いと言われています。
筋肉へ移行しやすい種類の増加が、アニサキス症急増の要因?
アニサキス症が増加している要因は諸説あるものの、筋肉(身)へ移行しやすいタイプのアニサキスが急増していることがひとつの理由として挙げられます。
日本近海のアニサキスには主に、筋肉への移行率が高い「アニサキス・シンプレックス」と、内臓に留まりやすい「アニサキス・ペグレフィ」の2種類が存在します。以前は、太平洋側の魚にはシンプレックス型が多く、日本海側ではペグレフィ型が主流でした。
しかし、内閣府食品安全委員会のマサバによる調査[PDF] によると、日本海側で獲れたマサバであっても、筋肉移行率の高いシンプレックス型の割合が増えており、太平洋のマサバとリスクが変わらなくなったと指摘されています。
海水温の変動や宿主となる海洋哺乳類の回遊ルートの変化などが影響していると考えられており、現在は獲れた海域を問わず、生食の際は目視確認や十分な冷凍・加熱処理の徹底が必要不可欠となっています。
死骸でも危険?アニサキスアレルギーについて
「アニサキス症」とは別にアニサキスでアレルギーを起こす「アニサキスアレルギー」も注意が必要です。アレルギーの場合は、虫体が死んでいても、その死骸や破片を摂取しただけで蕁麻疹やアナフィラキシーショックを起こす恐れがあります。
この場合は生食を避けるだけでなく、加熱済みの魚介類や、魚由来の出汁・練り物などの摂取にも厳重な警戒が必要になります。本記事では主に生きている虫体による「アニサキス症」の予防法についてまとめていますが、アレルギーの場合は命に関わる場合もあるので併せて知っておきましょう。
アニサキス症を防ぐ4つの対処法
巷では「よく噛んで食べれば大丈夫」「ワサビを多めにする」「酢や醤油にしっかり漬け込む」といった噂を耳にしますが、これらはすべて間違った迷信です。アニサキスの体表は丈夫で滑りやすく、人間の歯で確実にすり潰すのは困難を極めます。また、一般的な調味料では全く死滅しません。予防法は以下の4つに絞られます。
1. マイナス20度で24時間以上の「冷凍」
厚生労働省などの基準では、アニサキスは「中心部までマイナス20度で24時間以上」冷凍することで完全に死滅するとされています。ただし、一般的な家庭用の冷凍庫は、扉の開閉や自動の霜取り機能によって庫内の温度が上昇しやすく、厳密にマイナス20度を維持し続けるのが難しいのが実情です。筆者自身、家庭用冷凍庫で「締めサバ」などを冷凍処理し、トラブルなく食べている経験はありますが、絶対の安全を求めるなら、超低温冷凍庫(マイナス40~60度対応など)の導入も検討しましょう。
2. 中心部までしっかり「加熱」
最も安全で手軽な対策が加熱調理です。アニサキスは熱に弱く、中心温度が「60度で1分以上」、あるいは「70度以上」に達すれば確実に死滅します。不安がある場合は、煮付けや塩焼き、フライなど火を通す料理で美味しくいただきましょう。
3. ブラックライト(UVライト)で「目視確認」
刺身に切った上で、目視で確認する方法も有効です。アニサキスは紫外線を当てると青白く発光するため、ブラックライト (UVライト )で照らすことでさらに見つけやすくなります。
ただし、身の奥深くに潜っている個体は見落とす可能性があるほか、ホッケなど冷たい海域に生息する魚種に多い「シュードテラノーバ」というアニサキスの仲間は、紫外線を当てても光らないため注意が必要です。
また、アニサキスは虫体に傷がつけば死滅するため、細かく包丁を入れるなどの工夫も必ず併用しましょう。
4.釣った直後に内臓を取る
アニサキスは宿主である魚が死んだ後に内臓から筋肉へ移動する性質があるため、速やかな内臓処理は有効な予防策の一つです。
しかし、魚種によっては海を泳いでいる生きている時点ですでに腹側の筋肉へアニサキスが入り込んでいるケースがあると報告されています。つまり、どんなに素早く内臓を取り除いても、最初から身に潜んでいるリスクがあるということです。目視確認などと併せて行えば効果はありますが、内臓をすぐに取ったからといった安心しないようにしましょう。
寄生リスクの高い魚種は?実はアジやマダイも要注意
アニサキスは、クジラやイルカなどの海産哺乳類を最終宿主とする寄生虫です。海中に放出された卵はオキアミなどの小型甲殻類に取り込まれ、食物連鎖を通じてより大きな魚介類へと寄生を広げていきます。つまり、食物連鎖の起点となるオキアミを食べない魚や、オキアミを捕食する小魚を狙わない魚種は、相対的に寄生リスクが低くなるわけです。
反対に、直接オキアミを好んで食べる魚には寄生しやすく、身近なサバ、サンマ、カツオ、サケ、スルメイカなどがその代表格。同じイカ類を見ても種類によって差が顕著で、スルメイカが極めて高い寄生率を示すのに対し、アオリイカやヤリイカはかなり低い傾向にあります。
魚種別のより詳細な寄生データを知りたいなら、東京都保健医療局のHP「食品衛生の窓」の実態調査が便利です。たとえば、人気ターゲットのアジは59尾中8尾(約14%)、マダイは37尾中7尾(約19%) に寄生しているなど、意外な実データにハッとさせられるはず。検査魚体数にばらつきはあるものの、釣れた魚にどれくらいのリスクがあるのか一定の目安にはなります。
また、広大な海で育った天然魚である以上、リスクが低い魚でも「絶対に寄生していない」とは言い切れません。生食する際は、目視確認などを行っておいて損はないでしょう。
もし激痛に襲われたら?迷わず病院へ直行を
もし生の魚介類を食べた後に激しい胃痛や嘔吐を感じたら、我慢せずに必ず「胃カメラ(内視鏡)の設備がある消化器内科」を速やかに受診してください。医師による内視鏡での虫体摘出が、最も即効性があり確実な治療法です。正しい知識で予防を徹底し、万が一の際の対処法も心得た上で、お刺身を堪能しましょう。
【出典・参考資料】
- 厚生労働省:アニサキスによる食中毒を予防しましょう
- 東京都保健医療局:食品衛生の窓 魚種別アニサキス寄生状況について(平成24年4月から令和2年3月まで)
- 内閣府食品安全委員会:アニサキス食中毒のリスク評価に関する調査研究[PDF]


