クランカーが投じる「変化球」としてジャークベイトの話をしていますが、あと2回お付き合いください。前回の主役・ポインター128を開発したころ、実はもうひとつ思い出深いルアーを作りました。これは我々の「迷走」のストーリーです。
目を覚まさせた、大森貴洋さんのひと言
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2022年11月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
◆第10回:ビッグジャークベイトの可能性
「蛇腹構造」というアイデア
クランカーが投じる「変化球」としてジャークベイトの話をしていますが、あと2回お付き合いください。前回の主役・ポインター128を開発したころ、実はもうひとつ思い出深いルアーを作りました。これは我々の「迷走」のストーリーです。
2003年、日本のラッキークラフトの開発部から提案がありました。それは「蛇腹(じゃばら)構造」のルアーを作ってはどうだろう? というものでした。本社がある富山県の伝統楽器「ささら」(蛇腹構造)からのアイデアです。
当時の私の主軸は「勝つためのルアー作り」でした。この連載でも触れたように、勝つルアーの3原則「リズム、サイズ、強度」を考えると、強度を出しにくい蛇腹構造は微妙なのですが、日本に生まれ、日本で育った身としては、本社の開発部の皆さんと一緒にルアー作りをして、皆さんが世界で報われてほしいという思いもありました。もちろん会社の売り上げを伸ばしたいという気持ちもあります。
結果、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったポインターに蛇腹構造を採用して完成したのが「ライブポインター95SP」です。多連結にすることで極めて細かいバイブレーションが出る生き物っぽいアクションに仕上がり、弱いジャークで使うと小規模なポンドではよく釣れました。また、水を複雑に押すのも蛇腹ならではの特徴です。日本の開発部の皆さんの思いをうまく汲んでひとつのルアーにまとめることができたと自負しています。
一方私の内心は複雑でした。遊びの釣りで使う分には楽しいしバイトもよく出るルアーですが、「勝てるルアー」ではない。ロールキャストが決まるサイズでもないし、巻いたときのパワー感も弱い。試合で投げ続けられてビッグフィッシュを獲ることができるルアーだとは考えていませんでした。
青天の霹靂
ちょうどこの年、我々ははじめて「I CAST」に出展しました。当時20歳代だった私は右も左もわからずボケーッとブースに立っていたのですが、このとき運営からメモを渡されます。「ライブポインターが『Best of Award』を受賞したから表彰式に来るように」と書いてありました。世界一のフィッシングショーの一番名誉な賞です。
このときの気持ちはまさに青天の霹靂。『太陽にほえろ!』の「なんじゃこりゃぁあー!」です。
まったく思いもしなかったトロフィーを受賞したことで、ライブポインターはかなりのメディアに取り上げられました。ライブポインターは「勝てるルアー」ではないと話しましたが、「I CAST」のようなお祭りでは映えたんでしょうね。お祭りでは普段食べない綿菓子がおいしく感じたりしますよね。パリコレでは背中にクジャクの羽根がついたよくわからない服がもてはやされたりしますよね。そういうことだと私は捉えています。
このライブポインターは売れに売れました。年間20万個の発注がバスプロショップスからきたり、年明けに出社したら4万個のオーダーが相次いでいたり……。注文数のスケールの大きさに「アメリカってデカいんだな……」と実感しましたね。
考えてみてください。当時の私はまだ20歳そこそこの若者です。このヒットにより、私は邪念と誠意の狭間で正しい価値観を維持することが不可能な状態に陥りました。「勝てるルアー作り」という本筋と、そうではないルアーでの成功……。若いので調子にも乗りますし、今後どんなルアーを作っていくべきか、頭の中はゴチャゴチャでした。
しかし、私の大切な人生の師匠である大森貴洋さんのひと言で目が覚めました。
大森「こんなの作ってちゃダメだよね」
邪念と誠意の間で揺れていた私のフィーバー状態は一瞬で消し飛びました。大森さんはすぐに「このルアーはお祭りにはふさわしいかもしれないが、勝つルアーではない」ということを見抜いたんでしょうね。
結局、ライブポインターの生産は2年でストップさせました。このあと私は、ポインターシリーズをより勝てるルアーにすべく、ジャークベイトと真剣に向き合うことになります(続く)。B
2003年に発売したライブポインター95SP。まさかこのルアーがI CASTで大賞を獲ることになるとは……
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