釣具店のルアー売り場に立つと、いつもワクワクする。同じ形のルアーなのに、棚には多くのカラーが並んでいる。アユカラー、イワシカラー、ワカサギカラー。赤金、金黒、ブルピン。チャートリュースにピンク、果てはグロー(夜光・蓄光)まである。しかし同時に、こんな疑問も浮かぶ。魚は本当にこの色の違いを見分けているのだろうか。それとも私たち釣り人が勝手に色にこだわっているだけなのか。
その答えを知りたくて、私はある日、水中ドローンを透明度の高い山上湖へ沈めた。

写真と文◎山根和明(株式会社つり人社代表)
つり人社代表取締役社長。日本釣振興会理事。大学在学中にアルバイトとしてつり人社に入り、卒業後に入社。1946年創刊の月刊「つり人」編集部に配属される。
2006年に同誌編集長、2015年に代表取締役社長に就任。釣りメディア一筋で、企画・編集・事業開発までを一貫して手がけてきた。また、釣り文化の普及と次世代育成にも力を注いでいる。2026年4月刊行の著書『カッパのいない川で子どもは育つか』は、発売2日目でAmazonカテゴリランキング1位を獲得。
魚は人間より多くの色を見ている
人間の目には色を感知する錐体細胞が三種類ある。赤、緑、青である。ところが多くの硬骨魚類は四色型色覚を持つことが知られている。種によっては紫外線まで感知できる。
もちろん例外もある。深海魚や夜行性魚の中には色覚が単純化した種もいるし、サメ類の多くは人間ほど豊かな色覚を持たないと考えられている。
しかし少なくとも、マダイ、クロダイ、メジナ、シーバス、ヒラマサ、アユ、ヤマメ、ブラックバスといった私たちが普段釣っている魚の多くは、かなり発達した視覚を持っている。
魚は色を見ているのか。その問いに対する答えは、ほぼ間違いなくイエスだ。問題はその先である。
水中ドローン実験でわかった真実
弊社が製作しているWebサイト「Honda釣り倶楽部」で以前、「水中のルアーの色は、実際にどう見えるのか」を検証する実験を行った。水中ドローンを使い、山梨県西湖(平均透明度8m)に様々な色のルアーを並べたアクリル板を沈め、深さによって各色の見え方がどう変化するかを映像で記録したのだ。
結果は興味深かった。
水深10〜20mまでは、ほとんどの色がほぼそのままの色として見える。しかし水深30mを超えたあたりから、色による差が顕著に出始めた。暗い緑、茶色、明るい青がいち早く見えなくなる。一方で白やベージュは比較的長く残った。
ただし、ここで一つ注意しなければならないことがある。
この映像はあくまでも水中カメラが捉えた映像であり、人間の目で見た世界だということだ。魚の目は人間とは違う。多くの魚は四色型色覚を持ち、紫外線まで見ている可能性がある。つまり魚は私たちとは違う色の世界を見ていると考えられる。
深場でのグローの圧倒的な存在感
それでも、この実験には大きな意味がある。
少なくとも、釣り人が釣具店で見ているルアーの色と、水中で実際に存在している色は別物だという事実を教えてくれたからだ。
そして圧倒的に存在感を保ち続けたのがグローだった。他の色がほぼ見えなくなる水深でも、グローだけは光を放ち続けていた。この映像を見て、東京湾のテンヤタチウオ船の船長たちが「ゼブラグローは強い」と口をそろえる理由が少し分かった気がした。
もう一つ意外だったのはプラグの結果だ。ニジマス、蛍光オレンジ、青白、タイガー、金黒——どれも同じような加減で色褪せていき、色による差がほとんど見られなかった。複雑なカラーバリエーションがあるわりに、水中での見え方にスプーンほど大きな差はなかったということだ。
これは「リアルカラーが特別にいいわけでも、目立たない色が必ずしも悪いわけではない」という示唆でもある。管理釣り場のトラウトでは茶系のナチュラルカラーが定番だが、それは魚に「見切られにくい」からだと言われる。水中で目立たない色が、逆に効くケースがある。
赤のようなコントラストがはっきりしたカラーも目立つ
釣り人がよく言う「深場では赤金が釣れる」は、科学的に興味深い話だ。
光は水中で吸収される。赤やオレンジといった長波長の色は、透明度の高い海でも水深20〜30mを超えると急速に吸収される。赤いルアーは深場では黒いシルエットとして見えている可能性がある。
つまり「赤く見えているから釣れる」のではなく「黒いシルエットとして輪郭が強調されるから釣れる」という可能性がある。色を選んでいるつもりが、実はコントラストを選んでいたということだ。
水中ドローンの実験でも、深場では色よりも明暗差——コントラスト——の方が重要になることが映像からも見て取れた。
イカは魚と色の見え方が違う
エギングファンなら、エギのカラー選びに頭を悩ませたことがあるだろう。金テープ、銀テープ、赤テープ——しかしアオリイカの視覚は魚とは根本的に異なる。
多くの頭足類(イカ・タコ・コウイカ)は単一の光受容体しか持たず、基本的に単色視とされている。色そのものより、明るさ、コントラスト、シルエット、偏光の方が重要だと考えられている。アオリイカを含む多くの頭足類は、青〜青緑域の光に高い感度を持つことが知られている。
しかしここに謎がある。単色視であるはずのイカが、なぜ周囲の色に合わせた擬態(カモフラージュ)ができるのか。
2016年、ハーバード大学のクリストファー・スタッブス教授らがPNAS(米国科学アカデミー紀要)に発表した研究がこの謎に迫った。イカの独特なW字型の瞳孔と「色収差」——波長によってピントが合う距離が異なる現象——を組み合わせることで、単色視でありながら色を識別できる可能性があるという仮説だ。現在も研究が続いており確定した事実ではないが、エギやスッテのカラーの見え方を考えるうえで興味深い仮説だ。
エギやスッテの「下地テープ」論争——金テープか銀テープ——かは、色の違いというより光の反射量とコントラストの違いとして捉えた方が正確かもしれない。
釣果を左右するエサ釣りの「ハリの色」
色の話は、ルアーに限らない。エサ釣りのハリにも、実にさまざまなカラーバリエーションがある。
私がこの業界に入った1990年代、ハリの色は金、銀、黒、赤くらいだった。しかし2000年代に入ってすぐ、がまかつからオキアミカラーのハリが発売された。競技グレ用のオキアミカラーだ。
オキアミカラーのハリに替えると、それまでより良型メジナの反応が良くなった印象があった。ハリがオキアミに溶け込み、魚に違和感を与えにくくなっているのかもしれない。オキアミカラーは大ヒットし、すぐにクロダイ、マダイのハリにも普及した。その後、ケイムラやムラサキなど、さまざまな色がエサ釣り用のハリにも用いられるようになっている。
こんな経験もある。船のマダイ釣りで食いが渋い日のことだ。隣で一人だけよく釣っている人がいた。仕掛けを見せてもらうと、黒いハリを使っていた。理由を聞くと、「オキアミに刺した時に、エビの背腸のように見える気がして」とのことだった。
なるほど、確かにその通りだ。マダイの好きなエビの背腸は黒い。ハリが黒ければ、オキアミに刺しても違和感なく溶け込む。私もすぐに試してみると、アタリが来た。それ以来、黒色のハリも必ず忍ばせている。
ハリの色が釣果に影響している可能性は十分にある。磯や堤防からのメジナ釣りやクロダイ釣りにおいて、金色や銀色のハリは水中で目立つため、エサ取りにもやられやすい。オキアミカラーや黒系を好んで使うのはそのためだ。魚の目は、釣り人が思う以上に細かいところを見ているのだ。
魚はルアーではなくハリを食う?ただの銀バリにカツオが連続ヒットした衝撃
「魚はルアー本体ではなく、フックを食いにきているのではないか」という説があるのをご存知だろうか。そんなバカなと思われるかもしれないが、私はその可能性もあると思っている。
その根拠となった体験がある。以前、伊良部島のマグロ漁師の船に乗せてもらい、3時間ほど南に走ったパヤオに連れて行ってもらった。
パヤオの周りでカツオの反応があったので、船長が「そのハリだけでいいから、ラインを50mくらい出して止めてみな」と言った。どういうことか。ルアーではなくハリのみでトローリングをするというのだ。ハリは泳がせ用のシルバーカラーだった。船でゆっくりそのハリを引っ張ると——なんとエサもルアーもない、ただの銀色のハリに、カツオやキメジが次々にヒットしたのである。
魚は何を見ていたのだろう。小魚に見えたのか。甲殻類に見えたのか。単なる光の反射だったのか。答えは分からない。
だが少なくとも、その日私は確信した。魚は私たちが思っているより、ずっと単純で、ずっと複雑だということを。
カラー選びに「正解」はない
子供の頃に読んだルアー釣りの本に、こんな一文があった。
「晴れた日中はホッテントットの金黒カラーがあればアブレなし」
半世紀近く経った今でも鮮明に覚えている。当時の私はそれを信じて疑わなかった。
だが現実は甘くなかった。
もちろん私のテクニックが未熟だったことが大きいのだろう。しかし、そのルアーは長い間一軍ボックスに入っていたにもかかわらず、一尾も釣ることができなかった。以来、私は「この色さえあれば絶対に釣れる」という言葉を簡単には信じなくなった。
「浅場ではナチュラルカラー、深場ではグロー」というセオリーもある。確かにそうした傾向は存在するのだろう。しかし、それはあくまで傾向に過ぎない。釣りはそれほど単純ではない。
月刊つり人2026年6月号の表紙は、ヒラマサがオレンジカラーのペンシルベイトをくわえている写真が使われた。ペンシルベイトとは表層を泳ぐトップウォータープラグだ。にもかかわらず、オレンジやピンクなど自然界にはないような派手なカラーがトップウォーターゲームでは人気だ。
なぜか。表層に食い上がってくるヒラマサやGTは、食い気が強くてカラーをいちいち選んでいるわけではないと考えられる。シルエットがベイトに近ければ食ってくる。ならばナチュラルカラーでいいじゃないかと思うかもしれないが、ナチュラルカラーは人間が見づらい。あえて派手なカラーを使うのは、釣り人がルアーの動きを目で追いやすくするためだ。魚のためではなく、釣り人のための色選びというわけだ。
和歌山を拠点とする遊漁船船長で、タイラバの多くのギアを開発してきた名手、中井一誠さんはこう言っていた。『春の乗っ込み期のマダイには、なぜかチャートリュースが効く』と。私が東京湾で手にした4.8kgの大ダイもチャートリュースだった。
なぜチャートリュースなのか。科学的な答えはまだない。産卵前の大ダイが攻撃的になっている時期に、自然界にはない蛍光色が何らかのスイッチを押しているのかもしれない。あるいはコントラストとして際立つからかもしれない。わかっていることは、現場の経験則が先行していて、科学がまだ追いついていないということだ。
魚は色を見ている。しかし魚が色で食っているとは限らない。
水中ドローンで実際に映像を確認して痛感したのは、「釣り人が見ているルアーの色」と「魚が見ているルアーの色」は全く別物だということだ。水深、透明度、光量——これらが変わるたびに、ルアーやハリの見え方は激変する。
オキアミの背腸に見えるから黒バリを使う。深場では赤が黒いシルエットとなる。さらに深くなるとグローが存在感を発揮する。食い気の強い魚には派手な色で人間が操作しやすくする。春のマダイにはなぜかチャートリュースが効く。そして、ただの銀色のハリにカツオが飛びつく。
そこには必ず理由があるはずだが、すべてが解明されることはないだろう。
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