「エサなら簡単に釣れる」初心者の頃、そう考えたことはないだろうか。しかし実際の釣り場では、磯のメジナや渓流のヤマメなどわずかな違和感でエサを見切る魚は多い。エサ釣りは決して簡単ではない。ではなぜ、本物のエサすら疑う警戒心の強い魚たちが、プラスチックや金属の塊であるルアーに食いついてしまうのか。釣りメディアの最前線で長年実釣と取材を重ねてきた筆者が、魚がルアーに口を使うメカニズムを考察する。

写真と文◎山根和明(株式会社つり人社代表)
つり人社代表取締役社長。日本釣振興会理事。大学在学中にアルバイトとしてつり人社に入り、卒業後に入社。1946年創刊の月刊「つり人」編集部に配属される。
2006年に同誌編集長、2015年に代表取締役社長に就任。釣りメディア一筋で、企画・編集・事業開発までを一貫して手がけてきた。また、釣り文化の普及と次世代育成にも力を注いでいる。2026年4月刊行の著書『カッパのいない川で子どもは育つか』は、発売2日目でAmazonカテゴリランキング1位を獲得。
「エサなら簡単に釣れる」は間違い?警戒心の強い魚との真剣勝負
私が敬愛する作家、開高健はルアー釣りをこよなく愛していた。「エサで魚が釣れるのは当たり前、エサ釣りは原始である」とも言っていた。
学生時代、その言葉に感銘を受けてルアー釣りにのめり込んだ。知識も技術も乏しく、釣果には恵まれなかった。しかしルアーを眺めているだけで幸せな気分に浸れた。開高健の世界に少しだけ近づけた気がした。
「エサで釣れるのは当たり前」——この考えが間違いだったと気づいたのは、釣り専門誌の編集者になってからだ。
つり人編集部に配属され、取材を重ねるうちに、エサ釣りがいかに難しいかを思い知らされた。
渓流のヤマメは、川虫をエサにして仕掛けを流しても、糸に少しでもドラッグがかかり不自然な流れ方をすると、たちまち見破られてしまう。チビは釣れても、手ごたえのあるサイズはそんなエサは口にしない。磯釣りの花形ターゲットであるメジナ(グレ)は、エサのオキアミだけを流しても良型はまず釣れない。コマセを撒き、そのコマセと付けエサを完全に同調させてナチュラルドリフトさせなければ、良型メジナの目は騙せない。
「エサで釣れるのは当たり前」どころではない。エサ釣りは、魚との真剣勝負だった。
ルアーがエサを超える瞬間もある
一方で、取材を続けるうちに全く逆のことも知った。
エサよりも圧倒的に不利と思われていた「擬似餌」が、実はエサ以上に釣れることがある。
最も衝撃的だったのが、アオリイカの日中エギングだ。
餌木を使ったアオリイカ釣りは昔からあったが、以前は夜の釣りだった。かつて月刊つり人で餌木のルーツに迫ったことがある。そもそも餌木は、江戸時代の薩摩(現在の鹿児島県)で考案されたとされる。当時、夜間に松明を灯してイカを獲る「夜焚き(よだき)」が行われていた。あるとき、海に落とした焦げた薪にアオリイカが抱きついたのを見た漁師が、これをヒントに木片を魚の形に削って針を付けたのが始まりという説が有力だ。その流れで、餌木=夜釣りという認識が定着した。
なぜエギングは日中に釣れるのか
それが今から20年以上前、日中に餌木を操作して釣るエギングというテクニックが確立された。細くて強度があり感度も高いPEラインが誕生したことにより、ダートやジャークといった操作で餌木に魅惑的なアクションを与えることが可能になり、イカが触腕で餌木に触ったごく小さなアタリを明確に捉えることができるようになった。これにより、夜釣りで一杯釣れれば御の字とされていた高級イカが、日中に数釣りできるようになった。
なぜ日中でもアオリイカが餌木に食いつくのか。イカはもともと好奇心が強く、動くものに反応しやすい生き物だ。しかも寿命は1年。常にエサを狙っている。ダートやジャークで激しく動く餌木は、イカの狩猟本能を刺激するのだろう。
タイラバで大型がよく釣れる理由:「興味」と「反射」で食わせる
私が船釣りで最も通ったのは東京湾のコマセダイ釣りだ。30年以上前から楽しんでいる。しかしこの釣り方で3kgオーバーのマダイを釣ったのは数えるほどしかない。東京湾で一番よく釣れるのは500g〜1kgだ。
一方、タイラバではすでに3kgオーバーを2桁以上釣っている。東京湾でも4.8kgをタイラバで手にした。タイラバの釣行回数はコマセダイの半分以下だというのに、だ。
最初は面食らった。「なんでこんなもので警戒心の高い大ダイが釣れてしまうのか」と。
佐渡島、庄内、若狭湾、東京湾、大阪湾、高知須崎沖、天草、錦江湾、五島福江島、ニュージーランド、オーストラリア——各地でタイラバの取材を重ねた結果、今は一つの確信がある。
大ダイは必ずしもエサとしてタイラバに食らいついているわけではない。むしろ、攻撃対象か、あるいは興味で口にしている——そう確信している。
大ダイは賢い。エサを食べる時はさまざまな危険を伴うということを知っている。だから、大きなタイほどエサで釣るのは難しい。
タイラバがまだなかった頃、ニュージーランドの大ダイハンターにこう言われたことがある。「大きなスナッパー(マダイ)を釣りたければ、大きくてよく目立つフラッシャーサビキを使え」と。
当時は「そんなもので大ダイが釣れるわけがない」と思った。しかし今ならよくわかる。南半球の大ダイも、攻撃対象や興味で派手でよく目立つフラッシャーサビキに食いついていたのだろう。
もう一つ、興味深いことがある。タイラバでフォール(落下)中のバイトは経験上、大型が多い。100g前後のヘッドが急速に落下する。その未確認物体に、反射的に食いついてしまうのだ。エサを食べる時は慎重なはずの大ダイが、落下する物体には反射的に口を使う。これがリアクションバイトの本質だ。考えてから食うのではなく、体が先に動いてしまう。人間でいえば、目の前に飛んできたボールに思わず手が出てしまうようなものだ。
「リアクションバイト」とは何か?食欲以外の本能を刺激するルアーの力
ここまで触れてきたリアクションバイトとは何か、改めて整理しておきたい。
リアクションバイトとは、魚が食欲とは関係なく、反射的・本能的にルアーに食いつく行動のことだ。驚き、攻撃本能、縄張り意識、好奇心——様々なスイッチがある。
渓流のヤマメをルアーで狙うミノーイングでも、警戒心の強い大型がエサよりも釣れる。私はトラウトルアー専門誌「鱒の森」を創刊した。また、渓流釣り専門誌「渓流」や月刊「つり人」の編集長も長らく務めた。どの本も毎号多くのヤマメの写真が掲載されるが、1号あたりのヤマメの平均サイズは「鱒の森」が一番大きい。
なぜかは、ヤマメの胃袋を調べるとわかる。内容物の中に小魚が入っていることは稀だ。サイズを問わずヤマメが好んで食べているのは川虫や昆虫だ。それなのに、小魚を模したミノーに食いつく。エサとしてではなく、攻撃対象として見ているからだろう。
バスフィッシングで昔から使われるスピナーベイトは、エサには全く似ていない。しかしエサに模したルアーと同等以上の実績がある。これもリアクションバイトだ。
アユの友釣りも同じ原理だ。縄張りに侵入してきたオトリアユを追い払おうとする闘争本能を利用している。食欲ではなく、本能の別のスイッチを押している。
リアクションバイトを理解すると、釣りの見え方が変わる。食う気がない魚でも、ルアーなら釣ることができるのだ。
ルアーは「擬似のエサ」ではない。食う気がない魚に口を使わせるメカニズム
魚はなぜルアーに食いつくのか。
理由は一つではない。
手返しの良さと広い探索範囲で魚との出会いを増やすルアーもある。そして食欲とは全く別の角度——興味、反射、闘争心——からアプローチできるルアーもある。
ルアーは「擬似のエサ」ではない。魚の食欲だけでなく、攻撃本能や縄張り意識、好奇心、反射行動まで利用する道具だ。魚はエサだから食うのではない。時には食う気がなくても口を使う。その事実こそ、エサ釣りファンが意外と知らない「もう一つの真実」なのである。
【発売2日目でAmazonカテゴリランキング1位を獲得!】カッパのいない川で子どもは育つか
子どもの自殺者数が過去最多を更新し、不登校は35万人を超えた。 豊かで安全なはずの日本で、なぜ子どもたちはこれほど追い詰められているのか。 自然体験が、待つ力、やり抜く力、折れない心を育てる。 創刊80年の釣り専門誌『つり人』編集長を10年務め、親子向け魚釣りイベントにも多く携わる筆者が、記者として、父として、水辺と子どもに30年かかわり続けてたどり着いた育て方のヒントとは。 巻末には、政治の側から子育て支援と水辺の環境問題に取り組む、元滋賀県知事で参議院議員の嘉田由紀子さんとの対談も掲載。

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