「仕事終わりに思い立って堤防へ。これができるのが高知なんです」
そう笑うのは、高知県で林業に従事しながら、年間100魚種を目標に釣りを楽しむ峯本さん。磯釣りのシーズンには週に1回渡船で沖磯へ、仕事終わりに近場の堤防へ夜釣りに行くことも多いという。一見すると無関係に思える「林業」と「釣り」だが、話を聞いていくと、この二つは驚くほど地続きだった。
釣り場の近くで働き、自然を相手に考えながら手を動かす。釣り人にとっての「林業」という選択肢を、峯本さんの言葉から覗いてみたい。

文◎つり人オンライン編集部
1946年創刊の雑誌「月刊つり人」を筆頭に数々の釣りに関するコンテンツを作成してきた「株式会社つり人社」のWeb編集部。現場を知り尽くした編集部員・プロアングラーのネットワークを活かし、確かな情報をお届けします。
釣り人と林業、実は相性がいい?
自然を相手にする過酷なイメージのある林業で、釣り三昧の日々を送る峯本さん。その最大の理由は、林業ならではの「タイムスケジュール」にあった。
峯本さんの職場では、夏の場合朝8時から始まり、夕方の4時までには山を降りている。状況によっては、昼過ぎに終わることもあるという。つまり、夕マヅメに十分間に合うのだ。
「仕事が終わってからでも、思いついたら竿を出せます。高知はふらっと竿を出せるような堤防が多くて、釣り場がとにかく身近なんです。堤防も人が少なくて、のんびり釣りができます」
黒潮の影響により魚種多彩な海をはじめ、美しい清流を泳ぐアユや渓魚、ロマンを求めてのアカメ狙い——。魅力的な釣り場が自宅や職場からすぐ近くにある高知では自然と釣りが日常に溶け込んでおり、周囲に釣り人も多いという。
「周りに釣り好きが多いので、林業関係者の連絡グループも、気づけば釣果報告の場になっています(笑)。いい意味でも悪い意味でも高知の人は距離感が近くて、堤防で釣っていたら、いつの間にか知り合いになっている。釣りをしていれば、交友関係が勝手にできていくんですよ」
同じ趣味を持つ仲間が「仕事仲間」でもある。これは釣り人にとって、なかなか得がたい環境だ。
「自然を読む」という点で、釣りと林業は似ている
峯本さんによると、釣りと林業には共通点もあるという。
「林業も釣りと同じで生き物を相手に、考えながら取り組む仕事なんです。だから、釣りが好きな感覚と通じるところがあると思います」
魚の動きを読んで一手を組み立てるのと、森の状態を見て木に手を入れるのは、たしかにどこか似ているかもしれない。
また、森に入ると四季の移ろいを肌で感じ、「夏には夏の、冬には冬の匂いがある」と峯本さんは言う。仕事の合間に山菜を採るなどの楽しみもあり、釣り人が海や川に感じている「自然の中に身を置く心地よさ」は、森にも存在している。
釣り人こそ実感できる、「森と海」のつながり
そして、釣り人にぜひ知ってほしいのが、森と海が一本の線でつながっているという事実だ。峯本さん自身、それを現場で実感している。
「大雨のときなどに、海や川との関係を強く感じます。手入れされていない森だと、土砂が川に流れ込んでしまう。それが河口にも溜まっていく。山からの水が川を下って海にたどり着くんだ、と仕事で山に入り、趣味で海に出ているとよく分かるんです」
これは感覚的な話にとどまらない。古くから漁師の間では「森は海の恋人」と言われる。森の落ち葉や土壌から溶け出した鉄分や養分が川を下り、海の食物連鎖を支える植物プランクトンや藻場を育てる。豊かな森は、豊かな漁場の源なのだ。逆に手入れを欠いた森は土砂を流して川を濁らせ、産卵場や藻場を埋めてしまう。整った森は「緑のダム」として澄んだ水を海へ送る。
自分の手で森を整える仕事が、巡り巡って釣り場を守ることにつながる——釣り人にとって、これほど腑に落ちる「やりがい」もないだろう。
森を「デザイン」する。街づくりゲームのような面白さ
とはいえ、仕事として向き合う場合、「自然が好き」という気持ちだけで続けていくのはなかなか難しいだろう。では、林業の仕事そのものの面白さはどこにあるのか。峯本さんが挙げたのは、意外な感覚だった。
「森を自分の好きな形にデザインしていく感覚があるんです。ブロックを積んで地形をつくっていくゲームや、街づくりゲームに近いというか。ああいうのが好きな人は、きっと楽しめる仕事だと思います」
木を切り、光を入れ、次の世代の森を描いていく。長い時間をかけて山の姿を整えていく営みには、ものづくりにも通じる創造性がある。
林業は困難や危険も伴う仕事
自然を相手にする仕事である以上、楽なことばかりではない。峯本さんは林業の厳しさも率直に語ってくれた。
ケガのリスクは「学べば防げる」
まず挙げられるのが安全面だ。
「チェーンソーで大きな木を切る仕事なので、ケガのリスクはやはりあります。ただ、補助金も出て、教育体制がしっかりしている業界なんです。やり方さえ分かれば防げる。研修の段階できちんと教えてもらえます」
実際、国の支援制度(「緑の雇用」など)を活用し、未経験者が働きながら技術を学べる研修の仕組みが整っている。また、高知県立林業大学校に入校して林業の現場で必要な技術や知識を学んでから働くこともできる。危険と隣り合わせの仕事だからこそ、安全を身につける環境はしっかり用意されているということだ。
キツいのは体力面より、夏の「下草刈り」
体力面については「仕事をしているうちに付いてくる」と峯本さん。特別な適性も要らないという。ただ、本人が「キツい」と挙げたのは、夏の下草刈りだった。
植えたばかりの苗木が、夏に伸びる雑草やツルに光を奪われて枯れてしまわないよう、周囲の草を刈り払う作業だ。会社によって行う・行わないは分かれるが、まだ木が小さく日陰のない現場のため、炎天下の作業になりやすい。
「夏場の草刈りは正直かなりキツいですね。ただ、それ以外の仕事は木陰での作業が多くて、空調服なども使うので、思っているよりラクですよ」
林業が「ちょっと気になったら」まずは情報収集から
ここまで読んで、「林業×釣り」というライフスタイルに少しでもワクワクしたなら、まずは情報収集から始めてみてはいかがだろうか。
もちろん、仕事である以上、自分に合う・合わないは必ずある。そこで、高知県では無料講座「こうちフォレストスクール」を開催している 。オンライン・東京・大阪・高知の会場で、実際に林業の現場で働く先輩から直接リアルな体験談を聞ける場だ。
こうちフォレストスクール概要
開催形式
オンラインのほか、大阪・東京・高知の各会場で開催(会場回はオンライン視聴も可)。
- オンライン:7/25(土)・9/26(土)・12/5(土)/13:30–15:00
- 大阪:7/11(土)/13:00–15:30
- 東京:10/30(金)/19:30–21:30
- 高知:8/29(土)・11/28(土)/13:00–16:00
内容
林業の基礎知識、就業・移住支援の情報提供、先輩フォレストワーカーとのトークセッション。高知会場ではチェーンソー体験や高性能林業機械の見学も。
サポート
希望者は個別相談も可能。受講後も就業に向けた手厚いフォローや、高知県内での林業体験への交通費助成などが受けられる。
公式ページ
セミナーで話を聞き、本格的に就職を考えはじめたら
情報収集を行い、実際に転職・就職を考えはじめたら——峯本さんがすすめるのは、いきなり飛び込むのではなく、まず「お試し」で現場を体験してみることだ。
「高知県では、林業体験や職場体験、支援講習ができる仕組みが整っています。自分に合うかどうか体験してみて考えることができますよ」
実際、峯本さんの職場「合同会社フォレスト高知」にも、愛知県で保育士をしていた女性が、登山などで自然に親しむうちに山に惹かれ、インターンを経て林業に転職してきた例もあるという。
きっかけは人それぞれ。「自然が好き」という入り口は、釣り人にとっても決して遠いものではない。釣り竿を片手に、山と海のあいだで暮らす。それは案外、手の届くところにある選択肢なのかもしれない。


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