「子どもを釣りに連れて行きたいんだけど、何釣りがいいですかね」。この仕事をしていると、こんな質問を受ける機会は数え切れない。初心者ならサビキ釣り。そう答える人は多いだろう。実際、サビキ釣りは魚が釣れやすく、道具も手軽で、子どもの入門には優れた釣りだ。
それでも、夏休みに「一つ選べ」と言われたら、私はサビキ釣りを選ばない。理由は釣果ではない。石をひっくり返し、川虫を探し、水の流れを身体で覚える。その一日が、子どもの自然との付き合い方を変えることがあるからだ。だから私がすすめたいのは、オイカワやウグイをねらう「ピストン釣り」なのである。

写真と文◎山根和明(株式会社つり人社代表)
つり人社代表取締役社長。日本釣振興会理事。大学在学中にアルバイトとしてつり人社に入り、卒業後に入社。1946年創刊の月刊「つり人」編集部に配属される。
2006年に同誌編集長、2015年に代表取締役社長に就任。釣りメディア一筋で、企画・編集・事業開発までを一貫して手がけてきた。また、釣り文化の普及と次世代育成にも力を注いでいる。2026年4月刊行の著書『カッパのいない川で子どもは育つか』は、発売2日目でAmazonカテゴリランキング1位を獲得。
夏休みの釣りに「ピストン釣り」をおすすめする理由
夏休みに子連れで釣りというと、多くの人は堤防釣りをイメージするだろう。だが、真夏の堤防釣りは実のところかなり過酷だ。照り返しの強い堤防の上は暑く、夏休み期間は人出も多い。おまけに、日中の水中は溶存酸素が乏しくなりがちで、魚の活性自体が落ちる時間帯も長い(このメカニズムは前回の記事で詳しく書いた)。
釣果を優先するなら船釣りという選択肢もあるが、これは船酔いという大きな壁がある。乗り物酔いしやすい子どもにとって、船の上で何時間も過ごすのはハードルが高い。
ハゼ釣りも夏の定番だが、真夏に釣れるハゼはまだ小型が中心だ。「彼岸ハゼ」という言葉があるように、ハゼが十分に肥えて食べ応えのあるサイズに育つのは、彼岸を過ぎてから。夏休み期間に狙うなら、数釣りは楽しめても、型を求める釣りにはならない。
サビキ釣りは、魚を釣る楽しさをシンプルに教えてくれる。一方、ピストン釣りは魚だけが目的ではない。エサを自分の手で探し、水に入り、川の流れを体で感じ、生き物を観察する。子どもが自然と向き合う時間そのものが遊びになる。この違いが、私がサビキ釣りより先にピストン釣りをすすめたい理由だ。
「ピストン釣り」とは?
昭和世代の多くが幼少期に体験した釣りであるが、今はめっきりやる人が少なくなった。ピストン釣りと聞いても、ピンと来ない人が多いと思う。
ピストン釣りは、川の中に膝下くらいまで立ち込み、下流を向いて短いノベザオの先を前後に動かしながら、手元に伝わるアタリを感じ取る。視覚に頼らず、サオを通じた"触感"に意識を集中させる釣りだ。目でウキの動きを追う釣りとは違い、手のひらの感覚だけが頼りになる分、水の抵抗や川底の凹凸、川虫が引っ張られる小さな変化にまで自然と神経が向く。
子どもにとってこれは、視覚偏重の日常から離れて五感そのものが研ぎ澄まされていく体験でもある。エサは市販のものを買う必要すらない。川に入って石をひっくり返せば、川虫が見つかる。コスパ的にも素晴らしいし、子どもは魚を釣る前に、まずエサ探しから川の生態系に触れることになる。
なお、この釣り方はかつて「あんま釣り」とも呼ばれていた。視覚よりもサオから伝わる感覚を頼りに釣る様子が、按摩師の仕事になぞらえられたことから「あんま釣り」と呼ばれていた。呼び名は変わっても、道具・エサ・釣り方の中身は同じだ。
ピストン釣りの対象魚:清流に棲む「オイカワ」と「ウグイ」
ピストン釣りの対象魚は、主にオイカワとウグイの2種だ。オイカワは関東では「ヤマベ」、西日本では「ハエ」とも呼ばれる。5〜8月が繁殖期で、この時期のオスは体全体が虹のように鮮やかな婚姻色に染まる。成魚は15〜16cmまで育つが、ピストン釣りで掛かるのは6〜10cm級が中心だ。
ウグイは関東では「ハヤ」と呼ばれ、北海道から九州まで広く分布する。繁殖期には体に3本の朱色の線(婚姻色)が現れる。ピストン釣りの対象は6〜10cmの小バヤが中心だが、成魚は30cmを超えることもある。
どちらも川の中流域の清流を好み、混生していることが多い。この2種が同時に狙えるというのも、初めての川釣りには都合がいい。
プールが減る時代だからこそ、川で遊ばせたい
先日、長良川・郡上漁協の白滝治郎組合長から電話をいただいた。中日スポーツで連載されているご自身のコラムで、拙著『カッパのいない川で子どもは育つか』を紹介してくださるという。開口一番、白滝さんはこう言った。
「小学校でプール廃止が増えているんですよ。これは問題ですよ。だからこそ、子どもを川に連れて行かにゃいかんのです」。
まったく同感だ。実際、学校のプール授業を巡っては、水温が低ければ中止、逆に暑すぎても中止という運用になっている学校が少なくない。老朽化したプールを改築の際に造り直さず、近隣の公営・民間プールに切り替える自治体も都市部を中心に増えている。安全面や財政面の事情があるのは分かるが、子どもが「水に触れる」機会そのものが減っていくとしたら、それはやはり問題だと思う。
だからこそ、私は川遊びをすすめたい。ピストン釣りをしていても、子どもは放っておけば必ず泳ぎ始める。ライフジャケットを正しく着け、大人がすぐそばで見守れる場所なら、それで構わないと私は思う。魚を釣るという目的の傍らで、水の中に入り、川虫を探し、その生態にも自然と触れることになる。プールでは決して得られない経験が、そこにはある。
現場で見た子どもたちの変化:「安全と危険の境界線」を身体で学ぶ
私は公益財団法人・日本釣振興会の一員として、2017年の立ち上げから「多摩川フィッシングフェスティバル in 青梅」に携わっている。イベントの柱の一つが、川に立ち込んで行うピストン釣り教室だ。対象は小学1年生から中学生で、毎回約100名の親子が参加する。
流れの速い場所や水深のあるポイントに、吸い寄せられるように進もうとする子が必ずいる。講師が「そっちは危ないよ」と声をかけても、目を盗んで突き進もうとする子もいる。あえて注意せず見守り、あの流れはその子には無理だなと思っても体験させてみると、案の定、足をすくわれて流されることがある。ライフジャケットを着け、安全を見守るスタッフを配置しているため、流されても大丈夫。
「川は危ないから近づくな」と口で説明されるより、自分の身体で水の力を感じるほうが、何倍も実感を伴う。どこまでが安全で、どこからが危険か。その境界線を知る感覚は、こうした体験を通してしか養われないのではないか。
「良い子は川に近づかない」。この標語は、いつからか学校でも家庭でも当たり前のように使われるようになった。善意から生まれた言葉なのは分かる。子どもを危険から遠ざけようという考え方は、この数十年でますます強くなった。
一方で、その時代と歩調を合わせるように、不登校や引きこもり、自殺者数は増え続けている。
これを単純な因果関係として語るつもりはない。ただ、子どもが自分の身体で世界の手触りを学ぶ機会が減ってきたことと、現代の子どもが抱える生きづらさは、本当に無関係なのだろうか。私はそうは思わない。だからこそ私は、『カッパのいない川で子どもは育つか』という本を書いた。
「かわいい子には旅をさせよう」と昔から言う。私は、それに一つ付け加えたい。「かわいい子にはピストン釣りをさせよう」と。
ピストン釣りの準備:シンプルな道具と現地での「エサ探し」
道具はいたってシンプルだ。サオは1〜1.5mほどのノベザオ。昔ながらの竹ザオが手に入ればそれがベストだが、金魚ザオのような安価なものでも構わない。サオは長いほうが有利だが、子どもが扱いやすい長さのほうがいい。ミチイトは0.6号前後。サオの全長よりも30cmほど長めにする。その先にハリス付きの袖バリ3号を結ぶ。
エサは現地調達
エサは現地調達が基本だ。岸寄りの浅瀬でソフトボール大の石をひっくり返すと、ヒラタカゲロウの幼虫(通称ヒラタ)が見つかる。魚の食いが最も良いエサだが、夏場はやや数が少なくなるため、その場合はクロカワムシ(トビケラの幼虫)の小型のものを代わりに使うとよい。石を集めて固めた巣の中にいるので、崩して中身を取り出す。ピンピンと跳ねるように泳ぐピンチョロも、ピストン釣りではよく使われる川虫だ。ヒラタ、ピンチョロ、小さめのクロカワムシ、この3つがあれば十分だろう。採取した川虫は、濡らした腕に貼り付けておくか、首から下げられるエサ箱(濡れたティッシュを入れておく)に入れておくと弱りにくい。
石をひっくり返していると、いかつい姿のオニチョロ(大型のカワゲラの幼虫)や、時にはマゴタロウムシ(ヘビトンボの幼虫。噛みつくこともある)といった川虫にも出会える。これらは主に渓流釣りのヤマメやイワナ狙いで使われる虫で、ピストン釣りの対象魚にはあまり向かないが、エサ探しの過程で見つかることも多い。
川虫はやがて羽化してカゲロウやトビケラになり、空を飛ぶ。それを鳥や魚が食べる。石の裏にひそむ小さな虫を子どもが見つけるという行為の先には、こうした自然のダイナミズムがつながっている。
釣り場は清流の浅い瀬が続く場所
釣り場は、川岸から水深があまり変わらない、広く浅い瀬が向いている。水はきれいなほうが子どもが泳いでも安心。東京周辺でも、多摩川上流の青梅市周辺、埼玉の都幾川、神奈川の中津川など、日帰りできる清流がある。
なお、川で釣りをする際は、その川を管轄する漁協が発行する遊漁券(雑魚券)が必要になる点も覚えておきたい。近隣の釣具店や、遊漁券取り扱いの幟が出ているコンビニで購入できる。ただ、子どもは無料の場合が多い。
ピストン釣りで釣果を上げる4つのコツ
釣り方そのものは単純だが、いくつかコツを知っておくと釣果がぐっと変わる。
サオの動かし方
下流を向いて立ち、エサを付けて仕掛けを流す。イトが張ったらサオ先を水中に入れ手前に引く、前に押し出す動作を2秒に1往復くらいのリズムで繰り返す。動かす幅は30〜40cmほどでよく、人がリラックスして歩く時の腕の振りをイメージすると近い。派手に大きく動かす必要はない。
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サオ先の位置
コツは、サオ先をなるべく川底から離さないこと。手前に引く時はサオ先で川底をなでるように、前に押し出す時は底に突っかけないよう少し手首を上に向ける。これでエサの川虫が自然に川底付近を流れ、魚に見つかりやすくなる。
探る順番
いきなり深い場所や沖を狙わず、水深の浅い岸寄りから始める。同じ場所で20〜30回誘ってアタリがなければ、少し下流に移動する。狙う筋を大きく変えたい時は、一度岸に上がってから上流側に入り直すとよい。
アタリの取り方
魚が食いつくと、サオを引いたタイミングで「ククッ」という小さな手応えが伝わる。これがアタリ。サオを立てて魚を手前に引き寄せて手づかみする。この釣りはハリ掛かりが浅いことも多く、途中で魚が落ちてしまうこともあるが、1尾釣れればコツはつかめるので、気にせずどんどん次を狙うとよい。
濁らせるひと工夫
足元の小石や砂を軽く動かして水を濁らせるのも効果的だ。川底が荒れると川虫が流されてくることを魚は知っているので、濁った場所に寄ってきやすくなる。昔は「濁し釣り」という呼称もあった。
出かける前の安全チェックリスト
- 天気予報の確認(雷・強風・大雨の予報がある日は無理をしない)
- 川の水位情報の確認(山間部では、現地が晴れていても上流の雨で急に増水することがある)
- ライフジャケット(子どもは必須。大人も着用が望ましい)
- 川の中で滑りにくいウォーターシューズ、またはウエーディングシューズ
- 帽子、サングラス(直射日光と水面の照り返し対策)
- 川虫を入れるエサ箱、またはティッシュを濡らして持ち歩けるケース
- 遊漁券(現地の釣具店やコンビニで事前購入)※子どもは無料のケースもある
- 水くみバケツや水槽(釣れた魚を観察するのに便利)
五感で自然を感じる「ピストン釣り」は夏休みに一番オススメな釣り
道具はシンプル、エサは自分で探す、涼を感じながら遊べる、そして「安全と危険の境界線」を自分の身体で学べる。これだけの要素が一つの遊びに詰まっている釣りを、私は他に知らない。夏休みに子どもを釣りに連れて行こうと考えているなら、まずは近くの清流でピストン釣りを試してみてほしい。
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