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つり人編集部2026年6月19日

釣果を分ける「潮」と「月齢」のハナシ。大潮が一番釣れるは本当?

大潮、中潮、小潮、若潮、長潮。釣り人なら誰しも、潮回りや潮汐の影響を考えたことがあるだろう。「大潮回りは釣れる」「若潮回りは釣れない」「下げ三分がいい」「上げ三分がいい」——潮汐が釣果に影響するという話は枚挙にいとまがない。はたして、本当に潮汐は魚の食いに関係があるのか。答えはイエスだ。しかし、それは決して普遍的な法則ではない。狙う魚種や地域、釣り場によっても「釣れる潮回り」は異なる。

著者:つり人オンライン編集部

写真と文◎山根和明(株式会社つり人社代表)

つり人社代表取締役社長。日本釣振興会理事。大学在学中にアルバイトとしてつり人社に入り、卒業後に入社。1946年創刊の月刊「つり人」編集部に配属される。
2006年に同誌編集長、2015年に代表取締役社長に就任。釣りメディア一筋で、企画・編集・事業開発までを一貫して手がけてきた。また、釣り文化の普及と次世代育成にも力を注いでいる。2026年4月刊行の著書『カッパのいない川で子どもは育つか』は、発売2日目でAmazonカテゴリランキング1位を獲得。

神津島の磯で実感!潮流を読む船長の凄さと「潮」の重要性

今から30年ほど前、神津島によく磯釣りに行っていた。2回り以上年上のベテランとご一緒させていただいたときのことだ。

若干ウネリが残っていたが、祇苗島の平段という一級磯に渡してもらった。沖に向かって平らなステージのような場所があり、背後は壁になっていた。釣り座から水面までは5m前後。大きなサラシが沖に向かって伸びていて、釣れる気しかしなかった。潮は川のように流れていた。

「どこでもそうだけど、磯の上では常に沖を見ているんだぞ。たまにヨタ波がくるから、決して背中を見せるんじゃないぞ」とベテランがアドバイスをくれた。

釣り開始して1時間ほど経っただろうか。どーん、という轟音とともに、いきなり波が頭から降り注いできた。なんと、沖からではなく、背後の壁を乗り越えてウネリが這い上がってきたのだった。膝くらいまで波がきて、一瞬身体が浮いたが、どうにか踏ん張ることができた。しかしクーラーボックスやタックルバッグが流されてしまった。

「おい本当かよ、まさか後ろから来るとはな」とベテランも茫然だった。

二人とも無事だったのは良かったが、大事な荷物をいくつも流されてしまった。まだケータイがそこまで普及していない時代で、船長と連絡の取りようがない。1時間ほどして、渡船が見回りに来てくれた。ベテランが顛末を話すと、船は荷物が流されたのと逆の方向に走っていった。

なんだよ逆に行ってしまったよ——そう思ったのだが、しばらくして船が流された荷物の大部分を回収して戻ってきてくれた。

その日の潮流がどのような流路かというのが、船長の頭に入っていたのである。

神津島の漁師は、出潮(でしお)、新場物(しんばもの)、新潮(にっちょ)、上新潮(のぼりにっちょ)といったぐあいに、潮流に名前を付けていた。そのベテランいわく、昔の漁師は夜空を見て「明日は上新潮だぞ〜」などとアドバイスをくれたそうだ。潮を読むことは、神津島の漁師にとって命綱だったのだ。

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神津島は祇苗島の平段。月刊つり人1997年12月号より転載。釣り人は、今は亡き柳下光康さん(関東めじな研究会会長)

釣り人が知っておくべき「海流」と「潮流」の決定的な違い

釣り人が「潮」と呼ぶものには二種類ある。

一つは黒潮や親潮といった「海流」だ。風や地球の自転などによって生じる大規模な流れで、日本の沿岸の釣り場に大きく影響する。そこから派生する沿岸流や分岐流なども、釣り人のあいだではまとめて「潮」と呼ばれることが多い。

もう一つが潮の干満によって引き起こされる「潮流」だ。東京湾のような湾内では、この潮流の影響が特に強く出る。上げ潮のときは湾口から湾内への流れが発生し、下げ潮のときは湾内から湾口へと流れる。潮汐表からその日の潮流を把握しやすい。

一方、半島の周りや外洋では、湾内ほど潮流ははっきりしない。たとえば伊豆半島では上り潮、下り潮がある。上り潮は西に向かう流れ、下り潮は東に向かう流れだ。これは下げ潮だから下り潮になるとは限らない。下げ潮時でも西に流れることもあれば、上げ潮時でも東に流れることもある。

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東京湾の遊漁船の船団。その時の潮流と風向きによって、席による有利不利が出てくる

船釣りで釣果が変わる?潮流から読み解く有利な座席の選び方

船釣りでは座席による有利不利が生じることがあるが、それを左右するのも潮流だ。

例えば東京湾なら上げ潮は湾口から湾奥へ、南寄りから北寄りへ差し込むことが多い。下げ潮はその逆だ。スパンカーを効かせると船は基本的に風に船首を向けるため、北風なら船首は北、南風なら船首は南を向く。

上げ潮で北風なら、潮は船尾(トモ)側から船首(ミヨシ)方向へ入りやすく、ミヨシ寄りが潮先となって有利だ。逆に下げ潮で北風なら、潮はミヨシ側からトモ方向へ抜けるため、トモ寄りが潮先となる。南風ならこの関係は反対になる。

船釣りが全て潮先が有利ということではないが、コマセを用いたマダイ釣り(コマセダイ)やアジ釣り、ワラサ釣りに加えて、カワハギ釣りやタチウオ釣りなどスパンカー流しでねらう釣りでは、潮先が有利になる。しかし、有利というだけで絶対ではない。二枚潮になって船の流れ方が変わることもあるし、風向きが変われば流れる角度も変わり、魚の活性が高いと胴の間に突っ込んでくることもある。また、釣り座に合った釣り方、テクニックも存在する。弘法は筆を選ばずではないが、名手はどの釣り座でも結果を出す。

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カワハギ釣りも潮先が有利な釣りといわれる

陸っぱりは「潮が動く」ことが鉄則!大潮・小潮と干満の考え方

一方、磯釣りや堤防釣りなど陸っぱりからの釣りでは、基本的に自分で釣り場を選ぶことになる。その場合、釣り場によって、どの潮流がいいかは異なる。上げ潮にいい釣り場もあれば、下げ潮にいい釣り場もある。

一ついえるのは、潮は流れていた方がいいということだ。

「どんな一級磯でも、潮が動かなければただの岩」という名言がある。潮が動くことでエサが運ばれ、酸素が供給され、魚が動く。逆に潮が止まると、どれだけ条件が揃っていても魚は食わない。ただし、潮が止まる直前、そして動き始めるタイミングは別だ。潮止まり前後は、逆にチャンスタイムになることも少なくない。

釣り人たちが口にする「上げっぱな」、「下げっぱな」がまさにそれだ。

潮の動きを表す釣り用語

上げっぱなとは、干潮から満潮に向けて潮が動き始めた直後のタイミングを指す。潮が動き出すことで海中に流れが生まれ、ベイトが活性化しやすい。長い潮止まりの後に潮が動き始めるこの局面は、魚が捕食スイッチを入れやすい時間帯として経験的に知られている。

下げっぱなはその逆で、満潮から干潮に向けて潮が動き始めた直後を指す。上げっぱなと同様、潮が再び動き出すことで流れが生じ、魚の活性が上がりやすい。

一方、よく耳にする「上げ三分」は、干潮から満潮までの潮位変化を十分割したときの三割程度、つまり上げ潮の序盤から中盤にさしかかるあたりを指す。潮の流れが程よく効いてきたタイミングで、ベイトの動きが活発になり、フィッシュイーターが捕食体制に入りやすいとされる。多くの釣り人が「上げ三分は釣れる」と口にするのはこのためだ。

「下げ三分」は、満潮から干潮に向けて潮位が三割ほど下がったあたりを指す。満潮直後の潮止まりが過ぎ、流れが出始めた段階で、上げ三分と並んで実績の高い時間帯として知られる。

これらの表現に共通しているのは、「潮が動き始めるタイミング」と「適度に流れが効いている状態」を重視する釣り人の経験則だ。潮止まりが続く時間帯は魚の活性が落ちやすく、潮が動くことで海中の酸素や栄養が攪拌され、食物連鎖全体が活性化すると考えられている。数字で表現されてはいるが厳密な計測値ではなく、潮の「勢い」と「鮮度」を感覚的に捉えた釣り人の言葉として理解するのが適切だろう。

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海とつながった川の下流域にも干満差がある。写真は春の大潮の大干潮。流心付近まで歩いて行けるくらい水位が下がる

大潮が有利かどうかは釣り場によって変わる

そう考えると、干満差が大きい大潮が有利と思われがちだが、そもそも日本海側では干満差があまりない。また、太平洋側では大潮回りで日中に干満差が大きいのは春から夏にかけてで、秋から冬にかけては夜に大きくなる。

場所によっては大潮だと潮流が速すぎて釣りづらくなるところもあるし、潮が動かない時間が長いこともある。むしろ、小潮や若潮など干満差が小さい潮回りの方が、1日中ダラダラと流れて好釣果に恵まれるケースも少なくない。

また、潮流とともに干満も大事だ。地磯や堤防など水深が比較的浅い場所は満潮前後がいい場合が多いが、逆に干潮前後がいい釣り場もある。自分が通う釣り場の「釣れる潮回り」を調べておくことが上達の近道だ。月刊つり人のような釣り雑誌が80年も続いてこられたのは、こうしたポイントガイドのニーズがいつの時代もあったからに他ならない。

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ウェブサイト「ANA釣り倶楽部」の撮影で、オーストラリア西海岸のパースにてタイラバのロケを実施した。現地の船長は「スナッパー(マダイ)の大型をねらうなら、大潮回りがベストだ」と語り、実際に大潮と重なったロケ当日は大ダイが次々にヒット。別のロケで訪れたニュージーランドの船長も全く同じことを口にしていた。

満月と新月で魚の活性が変わる。月齢と釣果の関係性

潮汐と並んで意識したいのが月齢だ。

フィッシュイーターの中には、満月前後の日中に捕食行動が変化する魚もいる。満月の夜は月明かりによって視界が確保されるため、夜間でも活発に捕食できるからだ。その結果、夜間の摂餌量が増え、翌日の日中は捕食意欲が低下するケースもあると考えられている。

逆に、満月の夜はアジやイワシなどの小魚にとっては被食リスクが高まる条件でもある。月明かりによって捕食者や海鳥から発見されやすくなるためだ。そのため、夜間の摂餌行動が制限され、明るくなってから積極的にエサを追うケースもある。

ベイトフィッシュの動きに大きく関係

さらに近年の海洋生態学では、こうした月齢の影響を考えるうえで「DSL(ディープ・スキャタリング・レイヤー)」の存在も重要視されている。DSLとは、イカ類やイワシ類、動物プランクトンなどが形成する巨大な生物層のことで、音波を強く反射・散乱させるため「散乱層」と呼ばれる。魚群探知機では厚い魚群のように映ることもある。

これらの生物は昼間は捕食者を避けて深場に潜み、夜になると表層近くまで浮上して摂餌する。これを「日周鉛直移動(Diel Vertical Migration)」と呼ぶが、この移動量は月明かりの影響を受けることが知られている。新月の暗い夜にはベイトが浅いレンジまで浮上しやすい一方、満月の明るい夜には警戒してやや深い層に留まる傾向がある。

その結果、ベイトを追うフィッシュイーターも深いレンジを利用することがあり、釣り人の仕掛けが届かない層で活発に捕食しているケースも少なくない。「魚がいない」「口を使わない」と感じる場面の中には、実際には魚がレンジを変えているだけという状況も含まれている。

もっとも、月齢だけで魚の活性を判断するのは危険だ。潮流、水温、ベイト量、海況など複数の要素が絡み合うため、満月だから必ず釣れない、新月だから必ず釣れるというほど単純な話ではない。月齢は魚の行動を左右する重要な要素の一つではあるが、あくまで海の状況を読み解くための材料の一つとして捉えるべきだろう。

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潮汐だけではなく、月齢も魚の行動に大きな影響を及ぼす

淡水魚も月の影響を受ける?

月齢はバスフィッシングの本場、アメリカでも昔から重視されていた。バス・プロフェッサー(Bass Professor)として知られる伝説のビッグバスハンター、ダグ・ハノン(Doug Hannon)。彼が膨大なデータと記録をもとに発展・活用した考え方が、魚や野生動物の活性が上がる時間帯を予測する「ムーンクロック(Moon Clock)」だ。

これは、1926年にジョン・アルデン・ナイトが提唱した「ソルナー理論(潮汐の干満や月の位置が野生動物の捕食行動に影響する理論)」をベースに、ダグ・ハノンがさらにブラックバスなどのゲームフィッシュ向けに最適化・進化させたものだ。

ムーンクロックは、主に「月が地球のどの位置にあるか」によって、1日のうちに4回訪れる「魚の活性が高まる時間帯(フィーディングタイム)」を割り出す。詳細は割愛するが、ムーンクロックでは、大型ブラックバスが最も期待できるのが、新月の大潮回りなのである。月齢に左右されるのは、海の魚だけではないということだ。

以前、釣りが盛んなニュージーランドを訪れた際、現地の新聞を見る機会があった。そこには、先住民マオリに古くから伝わる、潮汐や月齢をもとにした“釣りのチャンスタイム”の予想が掲載されていた。海と月の関係を読む文化は、日本だけのものではないのだ。

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大もの釣りファンにとってあこがれのGT(ロウニンアジ)。大型のフィッシュイーターは日中なら新月の大潮回り、夜釣りなら満月の大潮回りがねらいめという説があるが、もちろん絶対ではない

結論:潮汐と月齢を読み解き、釣りの本質を楽しもう

潮は釣果に影響する。しかしその影響は一律ではない。

大潮が必ずしも釣れるわけでも、小潮が必ずしも釣れないわけでもない。潮流の向き、干満のタイミング、月齢——それらが複合的に絡み合って、その日の釣りが決まる。

神津島の船長が潮流を読んで荷物を回収したように、潮を知ることは釣りの本質に近づくことだ。潮汐表を眺めながら、次の釣行に思いを馳せる。それもまた釣りの楽しみの一つである。

次回|魚はなぜルアーに食いつくのか?

エサより釣れることもある?
魚がルアーで釣れるメカニズムを解説します。

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