釣りの予定を立てていると、天気予報とにらめっこする日が続く。雨マークが出るたびに「また雨か」と気分が沈む釣り人は多いだろう。しかし、それは間違いだ。雨による低気圧や光量の低下は魚の警戒心を解き、川からの流下物を増やすことで、思いがけない爆釣劇へと繋がる。本記事では月刊つり人編集長を歴任した、つり人社代表の山根和明が雨天釣行のメリットを解説する。

写真と文◎山根和明(株式会社つり人社代表)
つり人社代表取締役社長。日本釣振興会理事。大学在学中にアルバイトとしてつり人社に入り、卒業後に入社。1946年創刊の月刊「つり人」編集部に配属される。
2006年に同誌編集長、2015年に代表取締役社長に就任。釣りメディア一筋で、企画・編集・事業開発までを一貫して手がけてきた。また、釣り文化の普及と次世代育成にも力を注いでいる。2026年4月刊行の著書『カッパのいない川で子どもは育つか』は、発売2日目でAmazonカテゴリランキング1位を獲得。
連載 「釣りの疑問に全部答える」 について
― 創刊80周年。釣り専門メディア社長が語る「本質」―
つり人社は2026年7月、創刊80周年を迎える。本連載では、釣り専門出版社の社長として、また長年の編集者として釣り人を見続けてきた山根和明が、釣りにまつわる疑問に正面から答える。毎週更新。
雨の日の釣りは釣れる?伊豆大島のメジナ釣りでの出来事
20代の頃、暇さえあれば伊豆大島へメジナを狙いに通っていた。ある日、釣り宿の親父さんが灰色の空を見上げてこう言った。
「今日はずっと雨が降るよ。いいメジナ日和だな」
朝から雨予報だったため、私は少しがっかりしていたのだが、親父さんはなぜか上機嫌だ。理由を聞くと、「雨の日はタナが浅い。ゼロだよ、ゼロ」と教えてくれた。
タナとは魚の泳層、つまり水深のこと。水面直下まで魚が浮いてくるという意味だった。
半信半疑で海へ向かったが、実際によく釣れた。良型のメジナが普段より浅いレンジで食ってきて、仕掛けが馴染んだ直後にウキが消し込まれる展開が続いたのだ。
後から振り返ると、自分の釣行記録でも雨や曇天の日の方が成績は良い。もちろんメジナ釣りでは、潮や風向き、水温の影響も大きい。しかし条件が同じなら、曇りや小雨といったローライトな日の方が好結果になることは少なくなかった。
なぜ雨の日は魚が釣れるのか
魚は気圧の変化を敏感に察知する。浮き袋などを通じて微妙な環境変化を感じ取っていると考えられている。
低気圧が近づくと魚の行動が変わることは、多くの釣り人が経験的に知っているだろう。さらに、低気圧に伴う曇りや雨は天敵から身を隠しやすいため、魚の警戒心が薄れてエサを活発に追うようになる。一方、プレッシャーの高い沿岸部の魚は、晴天時に警戒心が強まり、深場や障害物周りに着くことが多い。
魚にとって気圧の変化は、人間でいうお天気情報みたいなものだ。彼らはスマホの気象アプリを見ずとも、自らの体を高性能な気圧計として使い、数時間後の天気を先読みして賢く行動しているのだ。

クロダイやウナギなど雨で釣れやすくなる魚種
大なり小なりあれど、ほとんどの釣りにおいて適度な雨はプラスに働く。
磯釣りの花形ターゲットであるクロダイは、とくに雨が好条件となる。もともと汽水域を好む魚であるため、雨が降って川の濁りが入ると、流下物を捕食しようと河口付近に集まってくるからだ。茶色に濁った潮でも、クロダイはよく釣れる。
渓流のヤマメやイワナも、雨が降ると捕食のスイッチが入る。流下する虫などが増えることに加え、適度な濁りが魚の警戒心を薄れさせてくれる効果もある。
アユも同様だ。増水によって縄張りが崩れ、付き場が変わるため、友釣りにおいてはこれが大きな好機になることも少なくない。
バスやライギョも雨を好むターゲットだが、ウナギに至っては「最も雨を好む魚」と言っていい。川でウナギを釣りたければ、何よりも雨の日を狙うべきだ。
雨の日にドバミミズが地面を這っているのを見たことがある人も多いだろう。地中から這い出てきたドバミミズが、雨水によって川へ流されてくる。ウナギはまさにそれを待っているのだ。エサにドバミミズを用いるのは、極めて理にかなった選択と言える。
雨が逆効果になる釣りとは?
ただし、すべての釣りで雨がプラスに働くわけではない。
船釣りの場合、雨の恩恵を受けにくい。東京湾や相模湾、大阪湾などの湾内はプランクトンが豊富で透明度が低く、深場では光量変化の影響を受けにくい。そのような環境では、雨によって光量が減っても魚の警戒心への影響は限定的だ。
青ものやシーバスは雨や曇天のほうがいいが、カワハギ釣りや深場を狙うティップランのアオリイカ釣りといった視覚依存の強い釣りでは、雨の日よりも晴れていた方がよく釣れる傾向がある。
「太陽光が届きにくくなることで警戒心が薄れる」という雨のメリットは、もともと光量が少ない環境では意味をなさないのだ。
快適に釣りをするための「レインウエア」の選び方
学生の頃、D&Gパウナルと開高健が共同編集した『雨の日の釣り師のために――釣文学35の傑作』という本を読んだ。ヘミングウェイ、モーパッサン、ブローティガン、井伏鱒二……古今東西の釣り文学35編を収めたアンソロジーだ。
このタイトルに、今更ながら脱帽する。フィールドに出られない憂鬱な日を、たちまち至福の書斎釣行へと変えてしまう魔法のような響きがある。
実際に竿を振るだけが釣りではない。雨の日に部屋で釣りの本を読みながら、まだ見ぬ魚に思いを馳せる。それもまた釣りの豊かな楽しみ方だ。
しかし、雨の日にアームチェアフィッシングをしていたのは今や昔の話である。レインウエアの性能が格段に向上した今、本格的な降雨の中でも一日中釣りができる。雨を言い訳に家にいる理由は、もうない。
「透湿性」が重要な理由
レインウエアを選ぶうえで重要なのは、防水機能だけではない。同じぐらい重視したいのが透湿性だ。釣りは意外に体を動かすので、透湿性が低いウエアだと汗だくになり、アンダーウエア(肌着)が濡れてしまう。そうなると不快なだけでなく、寒くなる。雨やしぶきをシャットアウトしながら、体内から出る汗を外に逃がす透湿性が求められる。ゴアテックスが有名だが、それに準ずる高い透湿性を備えた素材を各社が出しているので、販売店の店員に確認してほしい。
弊社のYouTube「釣り人チャンネル」で今年4月、1ヶ月で100万回再生された動画がある。初心者が10kgのブリと1時間半磯の上で格闘するショート動画だが、この初心者が着用していたのが透湿性のないビニールガッパだった。しかも予報に反して雨が上がり、カッパの下は蒸れてびしょ濡れ状態。脱水症状の一歩手前だった。
水分補給や安全確保も忘れないこと
雨の日の釣行で見落としがちなのが水分補給だ。
以前、神津島の磯でヒラマサが入れ食いになったことがある。小雨がそぼ降る雨模様の日だった。ヒラマサが掛かると取り込むのに5分、10分かかり、汗だくになる。しかし雨の予報だったので、水分をあまり持参していなかった。すぐに底をついてしまった。仕掛けを振り込めばヒラマサが掛かるとわかっているのに、脱水が怖くて釣りができなかった。それ以来、雨の日でも晴れた日と同じくらいの水分を持っていくようにしている。
もちろん、滑りやすくなる足元の安全確保や、川釣りにおける急な増水への警戒も、雨の日の鉄則として決して忘れてはならない。
雨は時に、水の中の空気を劇的に変える。魚の警戒心が薄れたり、川からの流下物が増えたりすることで、思いがけない爆釣劇へと繋がることも少なくない。梅雨の季節を嘆く前に、竿を持って水辺に向かってほしい。雨の日にしか出会えないターゲットと、雨の日にしか見えない景色が、あなたを待っているはずだ。
【発売2日目でAmazonカテゴリランキング1位を獲得!】カッパのいない川で子どもは育つか
子どもの自殺者数が過去最多を更新し、不登校は35万人を超えた。 豊かで安全なはずの日本で、なぜ子どもたちはこれほど追い詰められているのか。 自然体験が、待つ力、やり抜く力、折れない心を育てる。 創刊80年の釣り専門誌『つり人』編集長を10年務め、親子向け魚釣りイベントにも多く携わる筆者が、記者として、父として、水辺と子どもに30年かかわり続けてたどり着いた育て方のヒントとは。 巻末には、政治の側から子育て支援と水辺の環境問題に取り組む、元滋賀県知事で参議院議員の嘉田由紀子さんとの対談も掲載。



