勝たせてくれる魚は「ひとつ下のタナ」に潜んでいる。私たちが苦い敗戦と悔し涙から学んだことは、「ひとつ下のレンジ」でキレのあるアクションを見せてくれるのが「勝てるジャークベイト」であるという方程式でした。以上の3つを最低条件として開発したのがスレンダーポインター。
試合中、勝たせてくれる魚は「ひとつ下のタナ」に潜んでいる
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2023年2月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
◆第10回:ビッグジャークベイトの可能性
◆第11回:邪念と誠意のはざま/ライブポインター
ワンテンという神の登場
ジャークベイト編の最終回です。ビッグジャークベイトや蛇腹構造のジャークベイトの開発を経て、私はふたたび「勝つためのジャークベイト」作りという本筋に回帰しました。
すでに我々には、加藤誠司さんが残してくれたポインター78と100という財産がありました。サイレント仕様のポインター78はナーバスなプリスポーナーに極めて有効で、対して広範囲を探る必要が出てくるポストスポーン期は100が大活躍していました。
しかし、2006年ごろ、新たなる需要が生まれます。この年からバスマスターエリートシリーズは開催時期が3~9月になり、夏にレイク・セントクレアやレイク・エリーでスモールマウス戦が組まれることが恒例化しました。結果的に、サマーパターンの広大な湖で、より手返しよく、よりストレスなくスモールを釣っていけるジャークベイトが求められたのです。また、ラージマウスに対し口の小さいスモールマウスにはフッキング率の観点で3フックであることが必須でした。
このタイミングで全米を席巻したルアーがあります。メガバスのビジョン・ワンテンです。ワンテンは上記の条件を満たしており、なおかつアクションが素晴らしかった。私が驚かされたのは、ノーフックの状態で投げても完璧にアクションすることです。ルアーの設計においても黄金比率は存在しますが、その極みがワンテンのようなルアーなのだと感じます。神が宿っているルアーです。
たとえばヨーヅリのアオリーQ(餌木)も同じように素晴らしいルアーだと考えていますが、稀にこういった「神ってる」ルアーが世に出てきます。当然、アメリカ中のプロがワンテンを投げました。ラッキークラフトUSAのプロスタッフも例外ではなく、ブレント・エーラーはMLFのプリスタート戦をワンテンで優勝していますし、うちでシグネチャーモデルのジャークベイトを作っていたステイシー・キングにいたっては、セミナーで自分のジャークベイトではなくワンテンの素晴らしさを語っていましたからね(笑)。
私はプロスタッフの勝利を何より望んでいますから、基本的には「勝てるルアーで勝ってくれ」というスタンスですが、当然めちゃくちゃ悔しい思いもあります。いつかうちのジャークベイトで勝ってほしいという一心で開発を進めていきました。
3つめの条件
では「勝てるジャークベイト」の条件は何か。ひとつはよく飛ぶこと。そして3フックであること。もうひとつ、私たちが学んだ大事な教訓がありました。
ここで思い出したのが2003年のバスマスターツアー・クリアレイク戦でスキート・リースが勝てなかった苦い記憶です(最終4位)。水深3~4ftを釣っていたスキートに対し、優勝のアルトン・ジョーンズは5ftをヤマセンコーで静かに釣っていました。そう、本来のバスのレンジは3~4ftでしたが、試合によるプレッシャーで日が進むにつれバスのレンジは落ちていたのです。そして勝つためにはその魚を追わなければならない。
私たちが苦い敗戦と悔し涙から学んだことは、「ひとつ下のレンジ」でキレのあるアクションを見せてくれるのが「勝てるジャークベイト」であるという方程式でした。 以上の3つを最低条件として開発したのがスレンダーポインター。嬉しいことに、112MRは大森貴洋さんがスモール戦でいつもデッキに置いてくれるモデルになりました。そして、2017年のエリートシリーズ・サムレイバン戦でブレント・エーラーがスレンダーポインター127MR(オーロラブラック)をメインに準優勝。かつてワンテンで優勝経験があるブレントが使ってくれたという事実にはとても勇気づけられました。
まだウイニングルアーにはなっていないスレンダーポインターですが、勝てるルアーしか使わないふたりのプロフェッショナルが試合で投げてくれていることは、私のなかでひとつの成長を感じる事実です。B
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