秋から冬に栃木の釣り人が夢中になるのが、可憐な小魚「ガンガラ(オイカワ)」。鹿沼市在住のアユ名手・福田和彦さんが語る、極小の毛バリ「蚊バリ」を使った、オイカワ釣りの魅力と奥義を紹介する。
写真と文◎編集部
解説◎福田和彦
秋冬に楽しい!オイカワの毛バリ釣り
オイカワは全国各地の中流域に生息している小魚だ。東日本では「ヤマベ」、西日本では「ハエ」と呼ばれる。海なし県の栃木県では秋・冬のターゲットとして親しまれ、当地のベテランはオイカワを「ガンガラ」と呼ぶ。
「ガンガラ釣りはアユ釣りが終わったあと、ヤマメ釣りが始まる春までの楽しみです。特に10〜11月はよく釣れて面白いんだから」
そう話すのは栃木県鹿沼市に住む福田和彦さん(72)。ダイワ鮎マスターズでも優勝経験のある、アユ釣り競技界のレジェンドだ。自宅裏を流れる利根川水系・思川支流の黒川が福田さんのホームグラウンド。近年の黒川はアユが絶好調で大賑わい。天気や水況がよければ、毎日アユを釣るのが福田さんの夏の日課だ。そしてアユシーズンが終わると、勤しむようになるのがオイカワ釣りである。
「カミさんとお昼を食べてから、午後の数時間だけ釣りをします。ガンガラは簡単に釣れちゃうけど、よりたくさん釣るにはどうすべきかと、ウキや毛バリも自作してこだわっています」
全長1cm弱の小さな毛バリ「蚊バリ」を使う
そう、福田さんの釣法はオイカワ釣りで最も手軽な蚊バリ釣りである。「蚊バリ」と称される全長1cm弱の小さな毛バリは、チモトに金や銀のビーズが付けられ、多彩なカラーパターンがある。古くから市販されているものには「音羽」「二葉」「菊水」「清姫」「白雪」「歌姫」といった、雅で小粋な名が付いている。
「ハリスは細いほうが食いはいいかな?小さいハリのほうがよく釣れるかな?こだわるのが楽しいから毛バリや仕掛けを研究するけど、ガンガラは市販品でも充分に釣れる。とにかく気軽に楽しんでほしい釣りなのよ」 そうにこやかに語る福田さんのこだわりや、蚊バリ釣りの基本を紹介しよう。
福田さんのサオと仕掛け
適したサオの長さは5.3〜6.4m。福田さんの愛竿はダイワ「清流X硬調」6.4mである。1〜1.2号のミチイトにウキを介して、ハリスと枝スが0.3〜0.4号の5本バリ仕掛けを結ぶ。市販品は毛バリの間隔が短いが、福田さんは60cmと長めに間隔を取っている。そのほうが仕掛け絡みのトラブルが少ないからだ。また広く探るためにも、手尻(サオ尻から仕掛けの先端まで)は約1mと長めにする。ウキがつかみやすい位置になるように、ミチイトの長さを調整しておくとよい。
ウキは仕掛けを飛ばすためと、毛バリを浮かせて流すためのもの。福田さんのウキは木製だ。ちなみに市販品の多くは発泡素材のウキである。木製にこだわる理由は、仕掛けを振り込みやすいから。このため軽いバルサは使わず、パイン(松)などの無垢材を切り出して流れの抵抗を減らすため流線形に削る。穴を開けてミチイトと仕掛けを結び付けるためのタコイトを通し、固定している。
蚊バリの色は「銀」と「黒金」がマスト
蚊バリの色は多彩だが、福田さんが圧倒的によく釣れるというのが「銀」と「黒金」。5本ある毛バリの配色もいろいろ試した結果、「一番上が銀で一番下が黒金のヒット率が高い。間の毛バリの色はなんでもいい」と言う。特別な虫が飛んでいるわけではなく、シンプルな毛バリでよいそうだ。
「すべての蚊バリを釣れる色に替えてもいいんだけど、それじゃ面白くないでしょう。どの色がよく当たるかを見つける。釣りは探求するのが楽しいの。毛バリの色や並びもこだわってきたけど、もう決まっちゃった。魚釣りはよく釣れるものを見つけるまでが面白い。釣れるまでの探求がなくなるとつまらない」
ちなみにハリはがまかつ「細地袖」の2.5号。チモトのビーズは手芸用製品。フライタイイング用のティンセルを3色撚って巻いたり、手芸用の金糸や銀糸を巻く。ボディーのマテリアルはピーコックが主体だが、アオサギやカラスの羽根を調達して巻くこともあるそうだ。
芸用の金糸・銀糸や、フライ用のティンセルなどをシャンクに巻き、ボディーにはピーコックやアオサギの羽根も使う。チモトには手芸用の極小ビーズを接着して完成。右下の「銀」と「黒金」は特によく釣れるそうだ
名人に学ぶ釣り方のコツ
ポイントは水深が膝下程度までの浅瀬が中心になる。水面直下に毛バリを流して釣るため、流れの緩い場所や深場は向いていない。浅瀬は水生昆虫が豊富で虫が流れてきやすく、高活性な魚も多い。水深がくるぶしくらいのチャラ瀬でも釣果は出やすい。
10月初旬、福田さんは自宅裏の府中橋上流で釣りを始めた。そこは瀬落ちから続く脛くらいの水深のトロ瀬で、下流に行くとザラ瀬になり小堰堤に落ち込む。
「の」の字で振り込み 下流方向に扇状に探る
手尻が長い仕掛けなので、振り込みは頭上で「の」の字を描くように行ない、斜め下流に向かって仕掛けがまっすぐ伸びるように着水させる。着水後は下流方向を扇状に探る。サオで仕掛けをリードするように、ゆっくりと引くのがコツである。
一流し目で水面にポチョッと波紋が出て、毛バリが引き込まれた。小気味よい躍動がサオに伝わる。小型ではあるものの、本命のオイカワだ。一番上の銀の毛バリに食い付いている。
「向こうアワセで勝手に掛かってくれます。だから簡単。流れが強いほど掛かりやすい」
2投目には2尾がヒット。今度は一番上と一番下の黒金だ。その後も連発で、オイカワだけでなくウグイやカワムツも混じった。
曇り空や夕方のほうが釣りやすい
「曇り空なのがいいんだよ。ピーカンの快晴だと食い渋ります。それでも夕方には魚の活性が上がって入れ食いになる。蚊バリを深く食い込んでくれるからバレにくい」
アタリが途切れると、下流にじわじわと立ち位置を移す。するとまたよく当たる。ザラ瀬に差し掛かるやや上流のカガミでは、オイカワのサイズがアップした。丸々と太った18cmクラス。いわゆる「イワシヤマベ」がたて続けに躍り上がった。
「空揚げにして食べてみて。揚げたてはすっごく美味しいし、南蛮漬けにすれば数日もちます。大きいのは塩焼きでもいい。こっちの人はみんな喜んで持って帰るんだから」
さらに下流のザラ瀬までくると、途端にアタリが遠のいた。「おかしいな。ここが本命ポイントなんだけど」 と福田さんは首をかしげる。周辺の石は黒く磨かれており、時おりアユが跳ねる。
「アユが追っ払っちゃったかな。ガンガラもナワバリ意識は強いけど、アユにはかなわない。アユは本当に強い魚だよ」
10月初旬とはいえ、黒川のアユはまだ落ち切っていなかった。それが影響しているのだろう。それでも50mほどの距離を探っただけで、次々にオイカワがヒットした。
「子どもでも大人でも、たくさんの人が川に来て魚と遊んでくれるとうれしい。釣り人のいない川は寂しいでしょう。ガンガラは気軽に釣れて食べて美味しい。ぜひ多くの釣り人にやってほしいです」
釣り人を増やしたい。それもまた福田さんの願い。蚊バリ釣りはシンプルで素朴。親子で楽しむのもよし。数時間のチョイ釣りでも癒される。
※このページは『つり人 2025年12月号』の記事を再編集したものです。


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