「これって珍しくないですか?」と編集部に届いたブリの画像。数名でのぞいてみると「ブリでしょ」「でもヒラマサっぽいかも……」と声が上がる。ブリとヒラマサは、慣れた人でも判別に迷うケースが意外にある。ここではカンパチも含めて、役立つ見分け方と近年増加傾向の交雑種の存在も紹介しよう。

写真と文◎月刊つり人編集部
1946年創刊の雑誌「月刊つり人」を始め、数々の釣りに関するコンテンツを作成してきたつり人社の編集部。
釣りの人気ターゲット!青物御三家(ブリ・ヒラマサ・カンパチ)の特徴
釣りでも食用でも人気が高く、〝青物御三家〟と称されるブリ、ヒラマサ、カンパチ。いずれも日本近海に棲息するアジ科ブリ属の大型魚で、ヒラマサとカンパチは最大クラスなら2m超にまで成長する。

この御三家の中では、ヒラマサとカンパチが南方系の魚で、近縁種を含めると世界の温帯海域に広く分布している。一方のブリは3種の中では北方系の魚になり、大きさは最大で1m超といったところだ。また、それぞれの魚には性質にも特徴があり、釣り人によく知られたものとしては、ヒラマサは時速50km前後と非常に高速で泳ぐ海のスプリンター。カンパチは3種の中でも怪力の持ち主で、大型ほどハリに掛かったあとは下方向の磯や根に向け強烈な突っ込みを見せる。ヒラマサも根に向かって走るのは同じだが、ブリはヒラマサやカンパチほど極端な手ごわさは見せず、その点では素直な性質だが70〜80cmのワラサやメジロクラスはもちろん、80cmを超える正真正銘のブリともなれば充分に力強いファイトで楽しませてくれる。
カンパチは見分けがつきやすい
今回のテーマである「見分け」に関して言うと、カンパチは他の2種とは大きく異なるので迷うことはない。
カンパチならではの特徴は以下の2点だ。
1.ブリやヒラマサと比べると背中が黄褐色で、扁平な体型をしている
2.魚体を上から見ると、眼に「八」の字の帯がある

また、日本近海には「カンパチ」と「ヒレナガカンパチ」の2種がいて、九州以南では同じ海域で両種が釣れることがあるので、この2つを区別するポイントを押さえておけば充分だろう。ヒレナガカンパチは名前のとおり、背ビレの前縁が通常のカンパチと違ってスッと長く伸びている。
ブリ・ヒラマサを見分ける決定的なポイント
問題はブリとヒラマサだ。両者の見分けについては、「ここをチェックすればよい」というチェック項目が広く出回っているが、ここからはそれらをおさらいしつつ、実際のケースも見ながら「こうしたポイントを見ればより自信を持って判別できる」という点をチェックしていきたい。
今回、そのアドバイスは本誌でもお馴染みの工藤孝浩さん(日本魚類学会/つり人社刊『新 さかな・釣り検索』監修者)にまずお願いした。一般的によく言われるもののほかに、「個人的にはここが一番分かりやすいと思っています」というポイントも挙げてもらっている。
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1. ブリは上顎(上アゴ)の後端(上顎上後角)が角ばっていて、ヒラマサは丸みを帯びている。
2. ブリは胸ビレの付け根と黄色い線(黄色縦帯)の間に隙間があり、ヒラマサにはない。
3. ヒラマサは黄色縦帯がブリよりも濃くはっきりしている(ただし個体による)。
4. ヒラマサは口の先(口吻)と尾の付け根(尾柄部)を結ぶ線が眼の下半分を通っている。若干眼の位置が高い。
5. ヒラマサは腹ビレが胸ビレより長い。ブリは同じくらい。
6. ヒラマサは目からエラブタまでの距離が短い。ブリは長い。
一般にブリとヒラマサを判別する基準とされるのはこれらの項目とされる。これだけ見極めのポイントが多くあるのに「どちらだろう……」と話題になることが多いのは、その差異が意外に微妙だったり、特に実物でなく写真での判別になる場合、角度によってはどちらとも言い切れなかったり、「胸ビレは見えていても腹ビレは閉じている」といったケースがよくあるからなのだ。
ただ、「実物を見ればまず迷いませんよ」と工藤さん。それは「ブリはふっくらとした丸みを帯びた体型」「ヒラマサは体が少し平たくよりスリムな体型」という基本的な違いがあり、それによって以下の違いが出てくるからだという。
7. 頭上もしくは正面から見た時、ヒラマサは両眼の位置がほぼ体の最大幅の位置になっている。一方のブリは両眼が体の最大幅の位置より明らかに前方にある。
ここを見ればまず迷わないそうだ。これは意外に指摘されていない判別のポイントなので、覚えておくとたしかに写真だけを見た時でも「これはブリだな」「これはヒラマサで間違いないだろう」といった感覚が掴みやすいはず。ぜひ参考にしていただきたい。
Q.この魚はブリ・ヒラマサ・カンパチ?
スリムな体型をしているが、「眼の位置が体の最大幅より前」「口角が丸みを帯びていない」「黄色いラインが薄く、胸ビレと離れている」などから判別できる。
ブリ・ヒラマサ・カンパチの交雑種も存在
実はブリ・ヒラマサ・カンパチの交雑種も存在し、見分けを難しくしているケースも存在しそうだ。
2021年、長崎大学の河邊玲教授らの研究チームによってカンパチの産卵場の特定が行われた。東シナ海に生息する青物御三家のうち、ブリについては産卵海域が明らかになっていたが、カンパチについてはこれまで不明だった。その中で河邊教授らの研究チームは、2016年から台湾をフィールドにバイオロギングという魚に行動記録計を取り付けて放流し回遊行動を探る方法を活用。東シナ海におけるカンパチの産卵場が台湾の東岸沖合であることを世界で初めて特定したのである。バイオロギングが魚類の行動範囲や行動特性に加えて位置情報を特定することのできる、極めて有用な研究手法であることも合わせて示したことでも意義のある研究となった。
気になったのが、その中で触れられてる「カンパチとブリの天然交雑個体が日本海西部海域で採集」されているという一文だ。
この点についてお話をうかがったのは、河邊教授らの研究チームのメンバーでもあり、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産大学校の高橋洋准教授。高橋准教授は魚類の集団遺伝学が専門で、交雑を介した種多様性の進化などを研究している。そして2021年、他の研究者らとともに「山口県の日本海でブリとヒラマサの種間雑種が確認され、その大半がヒラマサ母系であった」という報告を初めて行ない、その中でカンパチとブリについても、やはり種間雑種が確認できることを報告した。
一部の海域でヒラマサとブリの雑種が相当数いる
高橋准教授によると、ブリ、ヒラマサ、カンパチの種間雑種はどの海域にもまんべんなくいるのではなく、今のところ長崎県から山口県沖にかけての玄界灘〜日本海西部の海域で発見されているそう。これらの交雑が目立ち始めたのはここ十年ほどで、「今は山口県日本海側ではヒラマサとブリの雑種が相当いると思われます(春先に定置網で20cm近い個体が数十匹同時に漁獲されたことがあります)。一方、カンパチとブリの雑種はごく低頻度でしかみられず、これまで山口県の日本海側で数個体の漁獲実績があるのみです」という。
気になる見分け方については、「カンパチとブリ、ヒラマサとブリのいずれの組み合わせも最終的にはDNAを調べて判別しています。ただ、漁師さんや市場関係者はその外見からかなり正確に判別されています。色の違いやプロポーションなどで見分けておられるようです」とのことだ。プロの漁業者の目はやはり優秀なのである。
今後見分けに迷う個体が増える可能性も?
最後に「河邊先生も私も、近年起こりつつある交雑現象は、海洋の温暖化による産卵場所の変化や各種の資源量の変化に原因があるのではと考えています。同様の現象はフグ(ショウサイフグとゴマフグ)でも知られているので、今後このような現象がさまざまな魚種間で増えてくるのかもしれません」とのこと。釣り人にとって、「これはブリ? ヒラマサ? カンパチ?」と迷う機会は、これからさらに増えていくのかもしれない。
交雑種は美味しい?近畿大が開発した養殖魚「ブリヒラ」
ブリとヒラマサを人の手で交配させた養殖魚も存在する。マグロの完全養殖でも知られる近畿大学および近畿大学水産研究所が開発した「ブリヒラ」だ。一番のねらいはブリの肉質の改善だったそうで、ブリにヒラマサを掛け合わせることで以下の3つのメリットを得られた。
1. 身はブリよりも硬く、ヒラマサほど硬過ぎず、歯応えがよい
2. 身が締まっていることから、養殖魚にみられる身割れ現象にも強い
3. 身の色、特に血合いの部分が変色しにくく、ヒラマサのような透明感がある
つまり、「脂の乗りがよいブリの特徴と歯応えのよさと色合いが長持ちするヒラマサの長所をそなえた品種」として生まれた。
お話をうかがった近畿大学水産研究所所長・升間主計さんによると、同研究所では1960年代から養殖の研究を進めるために、研究用としてさまざまな魚種を養成。それらの中から1964年にマダイ(雌)×クロダイ(雄)、1969年までにマダイ×ヘダイ、イシダイ×クロダイ、イシダイ×イシガキダイの交配に成功したそうだ。それらの一環として1970年代に入りブリ属の交配にも着手し、今回のブリヒラに繋がっていったという。
養殖の現場で分かった、青物御三家の性格の違い
さらに、養殖の現場で感じられる、青物御三家の性格の違いについてコメントをいただいたのは、近畿大学水産養殖種苗センター事業副本部長の谷口直樹さん。3種にはそれぞれの個性があり、「人工ふ化で生産した稚魚を取り上げる(1ヵ所に集める)際に性質の違いを感じますね。いずれも群れになって遊泳しますが、ブリは群れから離れる個体がいて、何とか逃げようとするのに対し、ヒラマサは群れから離れる個体はほとんどなく、素直に集まってくれます。そしてブリヒラはどちらかというとヒラマサに近い行動のように感じます。カンパチはとにかく人懐っこい(警戒感が薄い?)。海上で養成している時、潜水作業で人間が入ると、体表に付着した寄生虫などを落とすために、自らを潜水者に擦りつけてくることがあります」という。
怪力のカンパチにそのような一面があるとは驚きだが、知ってしまうとなんだか釣るのが申し訳なくなってもしまいそうだ。
※この記事は月刊『つり人』2021年11月号に掲載したものを再編集しています

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