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つり人編集部2026年5月31日

同じ40cmのマダイでも、西日本は3歳・東日本は高齢。専門家が明かす意外な生態

マダイは日本を代表する魚種であり、釣り人にも馴染み深い、国魚ともいえる存在だ。そんなマダイだが、西日本と東日本で生息数や成長速度に大きな差がある事実をご存知だろうか。本記事では愛媛大学の高木基裕教授が、地域ごとの資源量の違いから、放流事業の恩恵と遺伝的多様性、養殖の脱走個体問題までマダイの生態や現在地を詳しく解説する。

著者:高木基裕

解説◎高木基裕(たかぎ・もとひろ)

愛媛大学南予水産研究センター教授。「水生動物の生き方を知り共に生きる」ことを目標とする。水産重要種を中心に個体や個体群のもつ遺伝的な違いを評価して育種系統や野生群の保全管理の研究をしてきた。最近では、所属する研究センターの飼育設備を用い、マダイやメジナの成長や行動に関して研究している。

マダイの生息数は東日本と西日本で大きな差がある

南北に長い日本において、温帯海域を好むマダイは西日本で資源量が多く、東日本で少ない。農林水産省の令和5年漁業・養殖業生産統計によれば、天然マダイの漁獲量は全国で1万4706トンであり、長崎県が1848トン、兵庫県が1820トン、福岡県が1519トン、愛媛県が1242トンという順に多く、これらマダイの産地としても名高い4県の漁獲量が全体の44%を占める。また、海区ごとにみれば、瀬戸内海区、東シナ海区といった西日本の海区での漁獲量が69%を占める。なお、東シナ海区に沖縄海域も含まれるが、沖縄にはマダイは生息しない。

成長速度にも差が出る

西日本に多いマダイだが、成長速度にも南北で顕著な差がみられる。鹿児島湾、天草、北九州では3年で40cmの尾叉長に達するのに対し、若狭湾や山形県では7年もかかる。

マダイは魚類の中では長寿命であり、20年以上とみられている。学名にあるPagrus major(= 大きいタイ)が示すとおり、タイ科魚類の中ではひときわ大きく成長するが、それでも成熟には4年程度を要する。つまり、西日本において40cm程度のマダイを釣りあげた場合、3才魚で一度も産卵に参加できなかった個体という可能性が高い。東日本であれば、そもそもの資源量が少なく、40cmに達する時にはすでに高齢である。寿命を全うするまでの産卵回数は西日本よりも少ないと考えられるため、より貴重である。このことを深く心に留め、過剰なキープを控えてマダイ釣りを楽しんでいただきたい。

マダイの分布域は、北海道南部から九州にかけての日本海、太平洋、朝鮮半島、中国、東南アジアの一部にかけての東シナ海、南シナ海とされている。しかし、現在は地球温暖化による海水温の上昇により、各海域の魚類相の変化が指摘されている。北海道北部でもマダイが見られたり、漁獲量が今後増加していくのかを注目している。

マダイ放流事業の恩恵は大きい。多い時には50%を超えた海域も

マダイの放流事業は栽培漁業という名のもと、先人によるマダイの種苗生産技術の開発成功により、50年ほど前から各都道府県の栽培漁業センター等によって人工種苗生産が実施され、人工のマダイ種苗が放流されている。最盛期の1990年代後半には全国で3000万尾を超える個体が放流されたが、その後落ち着き、近年では1000万尾程度が毎年放流されている。

マダイの漁獲に対する放流魚の割合は海域により異なっているが、多い時には50%を超えた海域もある。漁業・遊漁関係なくマダイ放流の恩恵を得ていると言ってよいだろう。

遺伝的多様性への影響も問題視されている

ただし、人工種苗放流による野生集団への遺伝的な影響が問題視されている。2015年には水産庁から遺伝的多様性に配慮した人工種苗放流の指針が発表された。マダイ放流について概略すると次の3点である。

(1)マダイは全国的に単一の集団とされているが、わずかに海域ごとの遺伝的違いがみられるため、放流海域で獲れた親魚から作られた種苗を放流に用いること。

(2)種苗生産施設では100~200尾程度の親魚を水槽に収容し、自然産卵により受精卵を得ているが、年に複数回の種苗生産を行ない、さまざまな交配の組み合わせで生産し、野生集団に近いレベルまで遺伝的多様性を高めること。

(3)養殖用種苗は成長のよいもの、形がよいものなどの選抜を受けているため、野生集団と比べ近親交配が進んでおり、遺伝的多様性が顕著に低下している。そのため、人工放流種苗として用いるべきではないこと。

しかしながら、これらの提言は罰則のない指針に過ぎないため、今後の規制強化が必要だろう。なお、天然魚と放流魚の識別には人工種苗で生じる鼻腔隔壁の異常を目印として用い、放流効果の評価がなされている。

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天然マダイと人工生産種苗由来のマダイを判別する鼻腔隔壁の異常。正常個体では鼻孔は左右2孔ずつある(右)が、異常個体では2つの鼻腔を隔てる壁がなく細長い1つの鼻孔になる(左)。写真提供=工藤孝浩

養殖マダイの現状と育種の歴史

日本で古来より食用とされてきたマダイは最初に完全養殖された海産魚種である。2023年における全国の養殖マダイの生産量は6万7257トンと天然マダイ漁獲量の4.5倍を超えている。超高級魚であったマダイは安定した生産により、常に手に入るほど身近な存在になっている。

マダイ養殖は陸上の種苗生産施設で4cm程度までマダイ種苗を育てたのち、海上生け簀に沖出し馴致され、10cm程度まで養成される。この間、何度か選別作業が行なわれ、形態異常魚(奇形魚)が取り除かれたのち、各地の養殖業者に販売される。

養殖に適した家系作りとDNAによる親子鑑定

マダイの形態異常には、稚魚期は透明、幼魚期は赤色が薄いといった体色異常、エラ蓋の不全、下顎の突出や退縮、脊椎骨の湾曲などがみられるが、これらは遺伝要因、環境要因もしくは両方が原因となって生じている。

なお、筆者らはDNAによる親子鑑定技術により、形態異常魚が特定の親に偏って発生するのかどうかを調べ、体色異常や脊椎骨の湾曲についての形態異常が、遺伝的要因による影響が強いことを明らかにした(澤山・高木,2011,2012)。これにより、要因を持つ親魚を排除することで形態異常の発生率を下げ、種苗生産現場において利益率を向上させることに成功している。

さて、形態異常の出現が望まれないマダイ種苗であるが、逆に必要とされる形質がある。それは、高い成長を示し個体間の大きさにばらつきがないこと、色がよく天然マダイに近いこと、高密度飼育で生じやすい各種の病気に強いこと、という形質を持つ家系が求められる。

残念ながら、それらの形質はそれぞれ独立していて、同時に満たす家系はなかなかないのが現状である。しかし、完全養殖が成功してから50年以上の歴史を持ち、20代にわたり引き継がれた親魚選抜により、最も重要な経済形質である高成長の家系が作成されている。30年前の飼育研究(谷口ら,1995)であっても、非選抜の家系と高成長の家系を同一日に産卵させ同じ条件で飼育したところ、生後200日で1.5倍も体重に差がみられた。養殖に適した家系の選抜がなければ、いつまでたっても大きくならない個体がいて、出荷時の選別に手間がかかるため、採算の取れる養殖経営は成り立たない。まさに、マダイ養殖は育種の恩恵を得て成立しているといえる。

養殖生け簀から逃げ出す個体も

養殖マダイの産地は生育に適した水温が高く成長が早いこと、波浪の影響が少なく、管理しやすい入り江だ。西日本の太平洋側を中心とした16県で養殖されているが、中でも宇和海を擁する愛媛県の2023年の養殖生産量は3万7893トンと養殖魚全体の半数を超える。ここまで宇和海の養殖が多いのは、リアス式海岸の地形をもち、水深が陸から急に深くなり汚染が広がりにくいこと、黒潮由来の急潮(表層が貧栄養の水塊)が入り込むことによって残餌・排泄物の除去や赤潮の抑制効果をもたらしているからだ。

宇和海で養殖されるマダイは、先に述べたように成長のよい家系を何世代にもわたって継代した系統だ。近年のDNA解析技術の発達により、天然マダイと遺伝型が固定されつつある養殖マダイをDNAの型で判別できるようになった。

我々の最近の研究では、養殖マダイが海域にどれくらい混入しているかDNA解析により調べると、宇和海のマダイ養殖中心地の宇和島では、養殖生け簀周辺において釣りで採集した個体の約50%が養殖由来のマダイであることが判明した(Sawayama et al, 2019)。悪天候やサメ類により生け簀網が損壊することがあるが、これらの個体は生け簀から逃亡した養殖マダイである可能性が高い。今後、他のマダイ養殖が盛んな海域でも同様の結果がみられるのか? 生け簀内で産卵したマダイの受精卵が生け簀の外に出て孵化・成長して周辺海域に加入しているのかを研究していく必要がある。

人工種苗生産魚には鼻孔隔壁の異常個体がよくみられ、養殖か否かの判断基準とされることが多い。しかし、宇和島での調査では鼻腔異常がみられた個体でもDNA解析では養殖由来でない個体やその逆の個体も見られた。天然マダイと人工生産種苗由来のマダイを判別するのに鼻腔隔壁の異常だけで判断することは難しく、今後の精査が必要である。

図1 養殖生簀の周辺で採捕された逃亡マダイ
養殖生簀の周辺で採捕された逃亡マダイ

引用文献等

澤山英太郎, 高木基裕. マダイ稚魚期における体色透明化個体出現への遺伝的関与. 日本水産学会誌 2011; 77: 630-638.
澤山英太郎, 高木基裕. マダイ人工種苗でみられた重度の脊椎骨形成異常個体の遺伝的解析. 日本水産学会誌 2012; 78: 62-68.
谷口順彦, 松本聖治, 小松章博, 山中弘雄. 同一条件で飼育された由来の異なるマダイ5 系統の質的および量的形質に見られた差異. 日本水産学会誌1995; 61: 717-726.
Eitaro Sawayama, Hironori Nakao, Wataru Kobayashi, Takashi Minami and Motohiro Takagi. Identification and quantification of farmed red sea bream escapees from a large aquaculture area in Japan using microsatellite DNA markers.Aquat. Living Resour. 2019; 32: 26.

※このページは『つり人 2026年4月号』に掲載した記事を再編集したものです。

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