参加者が主体的に体験しながら学び、共同で課題解決やアイデア創出を行なう実践的な学習の場をワークショップという。ロックショアアングラーのための安全ワークショップが静岡県下田で開催された。今回の講習では、安全確保の前提知識を座学で学ぶだけでなく、実際の事故映像を視聴することで、アングラーが陥りやすい判断ミスや物理的な危険の 「落とし穴」を検証した。 さらに、実際に落水と救助を体験したことで見えてきた、ロックショアにおける適切な安全対策とは?

写真と文◎月刊つり人編集部
1946年創刊の雑誌「月刊つり人」を始め、数々の釣りに関するコンテンツを作成してきたつり人社の編集部。
安全への意識と知識があってこそ成立する遊び
静岡県下田市の稲生沢川下流のほとりにあるゲストハウス「下田ハウス」1階の店舗兼ダイニングスペースにてロックショア専門ブランドAWAKE主催の安全ワークショップが開催された。
関 今日はお集まりいただきありがとうございます。僕はもともと富士川でラフティングのリバーガイドを10年間していました。そして隣にいる佐野真司さんは徳島の吉野川をはじめ国内外の激流で活躍されたトップレベルのリバーガイドで、たくさんの資格を持つアウトドアのスペシャリストです。
お互い、スイフトウォーターレスキューという急流救助の資格を持ち、水難事故の現場での活動経験もあります。そんなふたりの共通の趣味がヒラスズキ釣りだったことから、リバーガイドとしての経験や知識を加味したウエアなどを展開するAWAKEというロックショア専門のブランドを立ち上げ、佐野さんにもプロスタッフとして協力してもらっています。
安全ワークショップ始まりのきっかけ
関 僕らが安全ワークショップをやり始めたのは、10年ぐらい前に伊豆で起きた釣り人の死亡事故がきっかけです。その日ふたりで釣りをしていたら事故の情報が飛び込んできて、ライフジャケットは着用されていたけれど落水でパニックになり、潮に流されて亡くなってしまったと。その話を聞いて、僕らは流水の知識があったから、こうしていれば助かったかもしれないって思いがあり、そのときから安全についての情報を釣り人の皆さんと共有したいと考えました。
サーフィンやラフティングは安全への意識と知識があって成立する遊びですが、釣りは安全の知識がないままスタートしている趣味だなという思いがあったからです。釣りといっても種類がたくさんありますが、ヒラスズキのようなロックショアの釣りでは仲間同士での安全知識の共有も必要との思いで始めました。
今日学んだことは、数日もすれば忘れてしまうと思いますが、それでいいんです。でも、いざというときに今日の経験を思い出せばパニックにならないかもしれない。それだけで意味がある。
経験と知識から生まれたロックショア用ライフジャケット
関 僕たちは急流を仕事場にしてきましたが、急流救助用のライフジャケットは泳ぎやすいシェイプになっています。これは決して推奨しているわけではありませんが、地磯のヒラスズキのように泳ぐこともある釣りにはラフティングやサーフィンなどから参考にできる部分が多いんです。
ただ、急流救助用のライフジャケットは磯釣りで使うにはボリュームが大きくてちょっとオーバースペック。それを海用、釣り用にアレンジして泳ぎやすいライフジャケットを作りました。普通のライフジャケットは落水者の首から上の頭を浮かせて、空気が吸える姿勢を保つことを目的としていますが、リバー用はちょっと考え方が違い、浮いて待つだけよりも自ら泳げたほうが安全だと考え、泳ぎやすいシェイプになっています。
サラシの中ではライフジャケットの浮力が半減する
佐野 私も20代前半から30代半ばにかけてずっとアウトドア業界におりまして、メインフィールドは流れのある川が多かったので水の中を泳ぐことが不可欠でした。そんなところへ、これまでプール以外の水に入ったことがない人をその場に連れていき、小さいお子さんからお年寄りの方まで事故なく安全に遊んでいただくのが仕事ですから、潜在的に危険になる可能性があることはすべて念頭に置き、皆さんが危険な目に遭わないための行動をしてきました。
本日お集まりの皆さんも、磯のヒラスズキ釣りをされますので、風を読む力、波を読む力が必要になると思います。今日みたいに低気圧が通過して風が強く吹いた日はやっぱり波が立って、沿岸沿いにはサラシが広がってホワイトウォーターの状態になります。ヒラスズキファンにはたまらない景色かもしれませんが、そのサラシの中を泳いだことがありますか?
水は海水と淡水、止水と流水、サラシの有無でも全く別物で、基本的にその白くなった部分は空気が半分含まれていると考えてください。ライフジャケットを着用していれば海で浮きますが、空気の中では浮きません。サラシは空気を半分含んでいるので、浮力が8kgあるライフジャケットを着用していても浮力は4kg程度に半減します。大人の頭のサイズがだいたい8kgくらいです。ライフジャケットの浮力は体重の10%が目安とされ、80kgの体重の方なら浮力が8kgあれば頭や首は浮くように設計されていますが、それはあくまでもサラシのない海の場合ということを覚えておいてください。
たとえ浮いたとしても沿岸沿いは複雑な波や流れがあるので、何回も何回も波をくらうたびに、浮いたり、沈んだり、打ち付けられたりします。ライフジャケットにたくさんのメタルジグが入っていたり、フィッシュグリップがあればそれも抵抗になります。皆さんは経験者ですからライフジャケットを着て海に浮かんだ経験があると思いますが、普通に釣りをしていたら意外とそんな経験もなく、実際に落水するとパニックになる人もいますし、イメージしていた姿勢と違うと感じる人も多いですから、午後からフィールドに出ての落水体験はとても有意義だと思います。
落水死亡事故から学ぶ「セルフレスキューファースト」という考え方
関 これから皆さんにご覧いただく映像は2023年に南伊豆で起こった釣り人の落水事故のものです。石廊崎エリアにある人気の地磯で、特に断崖絶壁という感じではない比較的足場のよい平らな磯です。この日は5月末のヒラスズキの好機とあって、僕も釣りに出ていましたが、台風が九州にあって伊豆でもかなり荒れていて、これからもっと荒れてくる状況で、さすがに荒れすぎていたので僕は朝イチで帰ってきました。
すると知り合いの釣り仲間から連絡があって、同行者が海に流されて亡くなったと。どういう状況だったのかを詳しく聞くと、落水した直後に118番に連絡して、海上保安庁が来るまで見失わないようにスマホで動画撮影をしたそうで、あとで「こんなふうに救助されたよ」と見せてあげるつもりだったそうです。
映像を見てもらえればわかると思いますが、この釣り場は足場も低いですし、落水された方も上半身がしっかり浮いていますから、撮影者も最初は死亡事故につながるとまでは思っていなかったそうです。彼は僕がこうした活動をしているのを知って、安全喚起のためにと映像を提供してくれました。

(画面を指さして)ここに映っているのが落水した方ですね。しっかり浮いているように見えますが、よく見ると浮いてはいますがもう意識があるかどうか確認できません。
今浮いているのは岸から15mくらいのところです。この地磯はテーブル状になっていて、そのテーブルの左側はスロープ状になっているから波が這い上がりやすい。しかも後ろが壁になっていて、押し寄せた波がテーブルに乗っかって壁に当たって跳ね返り、今度は壁から足もとへ払い出していきます。
事故は釣り場に着いてすぐだったそうです。2人で行って、落水された方が先行して左側のほうに行って、すぐに数投したらしい。この動画を撮った方はまだテーブルよりも上にいてリーダーを結んでいたら、すごい大声が聞こえて、パって見たら落水して流されている。そのあとも「おーい」という声が聞こえたし、磯に叩きつけられてもいない。沖にゆっくり流されながら上半身はしっかり浮いているので、すぐに118番に連絡したあと、このように動画を撮影したということです。
左から右に流れたのち沖に流されていますが、ご本人は泳ごうともしてないことから、おそらくですがこの時点で意識がないんではないかと……(死因は溺死)。
「セルフレスキューファースト=自己の安全確保が最優先」という考え方
通報を受けた海上保安庁のレスキュー隊を乗せた漁船がすぐにやって来て隊員の1人が荒れた海に飛び込んでいます。落水した人を抱えて泳ぐのはなかなかできません。ロープを装着した隊員の方が落水者を確保すると、船上の隊員の方たちがロープを手繰り寄せていますが、これは訓練をしているレスキューのプロが数人がかりでも船に引き上げるのは大変なことです。
これを僕ら釣り人同士でやろうとすれば二次災害につながります。だからこそ事故に遭わないような装備と知識を身に付けるのが第一なんです。それでも事故が起きてしまったら、なんとか自分の命はできるだけ自分で守ろうというのが、僕らが提唱している「セルフレスキューファースト=自己の安全確保が最優先」という考え方です。
この撮影をされた方も、すぐに海上保安庁に連絡した判断は素晴らしいですし、海に慣れている人だと言えます。何かひとつでも条件が変わっていればこういう結果にはならなかったんじゃないかとも思ってしまいます。でも、お互いにライフジャケットを着ているのだからと飛び込んで助けるっていうのはとてもリスクが高い。コンタクトレスキューといいますが、実際に溺れている人はどうにかして息をしたい、どうにかして浮きたい気持ちが強いので、助けに行った人にしがみついて逆に助けに来た人を溺れさせてしまうということが結構多い。コンタクトレスキューはあくまでも最終手段のひとつで、間接的に助けてあげることが大事です。
退路までをシミュレーションすることの重要性
佐野 しっかり海を観察していても、視界に入っていないタイミングで大きなセットの波が来て、ブレイクしたタイミングで恐怖を感じたとか、ちょっと見てない間にすごいデカい波が来ていたのを友達に教えてもらったとか、事故に至らなかったものの「ちょっと今の危なかった」とか「ちょっと怖かった」という経験があると思います。
僕自身、磯で落ちたり怪我をして痛い思いをしています。以前、西伊豆で釣りをしていたんですね。恋人岬という断崖絶壁の近くに、急に深くなる船釣りも盛んなところで釣りしている時、ウネリがあって1.5~2mぐらいの波が立っていたので、少し後ろに下がって立っていたんですけど、いざ魚が掛かるとその立ち位置だと根ズレを起こし始めたんです。手ごたえからサイズもよさそうだからと、ちょっとドラグも緩めてラインを出してという操作をしながらパッて顔を上げたら、もう目の前が真っ白になるくらいの大波が迫っていた。
一歩引いたちょっと高い場所でしたし、ちゃんと退路も考えて、波が来たら上がって回避するっていう前提で立っていたんですけど、いざ魚が掛かってファイトをしてしまうと両手もふさがっていましたから、次の瞬間にはそのまま後ろに吹き飛ばされ、2mぐらいの高さからそのまま落ちて、磯場に尻もちをつき、結構ぶ厚いウエットスーツを履いてハードレインスーツを着てやっていたんですが、全部破けて肌が丸出しの状態に。もちろんロッドも破損。さっきの事故映像と大差はないどころか激しいくらいです。

釣りをする前に海況をじっくり観察する
実際その状況になったら、正解はないし間違いもない。状況状況で違うので、一概に何が正しくて間違いというのはないです。間違ったことをして、結果的にそれが最善の策で助かる場合もありますから。
確実に正解と言えるのは、これから釣りをする海況をじっくり観察することです。1分でも2分でも5分でも10分でもいい。サラシ撃ちをする方ならある程度の情報はみんな見ては来るはずですが、それはあくまでもざっくりとした情報でしかありません。現場に出ると、2mの波の予報だったのに3m、4mなんてことはザラにあるし、思ってた以上に風が強いこともよくあります。
その状況から、この立ち位置で釣りをした時に、ここで魚を掛けてここでランディングするシミュレーションするのみならず、もしここで流されたり落ちれば、水はどっちに流れ、どっちに泳いだら岸に帰れるのか、岸までたどり着いたとして這い上がれるのかまでを頭の中で考える。自分の足もとまでセットの波が来たらどう逃げるのかと退路の確認をしてください。もちろんそれ以前に、ここでトラブったら車までどれぐらいで戻れるのか、携帯の電波が入るのかを確認をするのは大前提です。
ロックショアではウエットスーツと固形式ライフジャケットが必須
関 泳ぐ泳がないは関係なしに、私はロックショアではウエットスーツとライフジャケットは着用しています。ウエットスーツを着ていることで、落水してもパニックにならずに自分の心を保つことができるからです。まあ、ウエットスーツを着ているから攻めの姿勢になるっていう部分もあるとは思うんですけど。磯場で膨張式のライフジャケットを着ている人がいますけど、クッション性もありませんし、波に揉まれれば脱げやすい。
落下した衝撃でも脱げやすいし、変にズレることで浮き姿勢が不安定になりパニックを起こす可能性もある。でも、船釣りの場合、磯用のライフジャケットでは重いし動きにくい。船には救命具もあるから、身軽で動きやすい膨張式が成り立ちますが、磯では固形式で、なおかつ体にちゃんとフィットしたものが必要です。
早春の磯で実際に落水体験とスローバッグ救助を実践
その後、午前中の座学ではハンドサイン(親指を立てるサムアップから両手で頭の上に丸を作るOKサインだったり、声も出ない痛みがあるときに手で十字を作るなど)のほか、仲間内の決め事として、離れた仲間に頭をポンポンと叩くジェスチャーをして、それを見た仲間がOKのハンドサインを出せば、次でラスト一投で撤収という意味にしているとのこと。
波音で声が聞き取りにくくても意思の疎通ができるそうだ。また、沖から大波のセットが来たらホイッスルを2回吹くと決めておけば、瞬時に危険を理解できるという。
参加者の方たちからも普段からしている安全対策としてスマホの緊急SOS機能(アイフォンなら電源ボタンを5回連打すると自動的に110番などの緊急通報先へ電話でき、事前登録しておけば通報後に家族や信頼する知人に現在の場所が自動で送信される)をきちんと把握することなどが挙げられた。たしかに落水したパニックの状態でグローブをはめたままスマホを操作することは至難の業であり、ぜひ覚えておきたい機能である。
そして午後からは店舗から田牛の岬へ移動し、普段釣りをしている格好での落水体験、さらに落水者をスローバッグ(浮力体の入ったバッグにロープが20m入っているもの)を投げて助ける練習を行なった。この日は低気圧の通過でウネリが高く、大ザラシが広がるなか、風裏のワンドで次々に入水体験をした参加者からは「冷たい!」「思っていた浮き姿勢と違って泳ぎにくい」などの声が。
スローバッグを投入しての救助も「思ったより飛ぶ」という声もあれば、途中でロープが絡んで失速してしまう人も。参加者のひとりでAWAKEサポートアングラーである明神さんは、昨年すでにこのスローバッグを使ってたまたま居合わせた磯から転落した釣り人を救出しており、常に釣行の際は携帯しているという。「逆に自分自身も大波をくらって磯から飛ばされ、足の骨とロッドを折った状態で崖を登って戻ってきました」と言う。救助者と要救助者は紙一重であると改めて再確認した。
笑顔のまま帰宅するために
関 今日やってみて、うまくいったこともうまくいかなかったこともあると思いますが、実際の現場で今日得た技術を使わないことが一番いいことです。スローバックを投げるまでの状況に追い込まれない、そこに到達しないラインを自分で引けることが大切です。では皆さん、これからも「セルフレスキューファースト=自己の安全確保が最優先」でロックショアを楽しんでください。

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