渓流ミノーイングの礎を築いたひとり飯田重祐さんのホームグラウンドは静岡県の狩野川だ。40年間この川のアマゴに親しみ、変化していくようすを見続けてきた。近年は「めっきり活気がなくなった」と嘆くものの、感動する魚体を手にすることも少なくない。河畔のサクラが満開になった4月上旬、飯田さんは今年3度目の狩野川に訪れた。
写真と文◎編集部
狩野川が好きな理由
神奈川県厚木市在住で平塚市に会社を構える「パームス」の飯田重祐さんは渓流ルアーとアユルアーを楽しみ、全国各地の河川を釣り歩く。4月までのシーズン初期は狩野川をメインフィールドにアマゴを追うのが毎年の恒例だ。
「23歳から狩野川に通っていますから、もう40年になりますね。ダムや大きな堰堤もなくて石がしっかり入っている。流れに変化があって面白い川です。優しい里川の渓相で釣りやすく、水温も高いので解禁日から期待値が高い。アマゴだけでなくサツキマスがヒットすることも珍しくありません。自宅から箱根を越えて富士山を見ながら伊豆スカイラインを走る道中のドライブも気持ちよくて好きですね」
そう話す飯田さんと合流したのはレンゲの瀬。狩野川釣行はこの瀬からスタートすることが多いという。
昨年の4 月下旬に手にした35cm(写真左)。この日はサツキマスと呼んでもよい遡上体型の尺上が1日に3 尾もヒットしたという
オトリ店の前から続く長い瀬や蛇行点の淵、その上の段々瀬をテンポよく探って魚の反応を見る。釣れなくてもチェイスやアタリがどんな所で出るのかを確かめる。多彩な川相が展開するのでその日の魚の傾向を探るのに最適なポイントという。
「今年は3回目の狩野川です。前回、前々回もチェイス、アタリともに少なく、かなり手強い状況でしたが魚の顔はなんとか拝めました。上流部や支流は型が小さいものの魚影は濃いので、もう少し簡単に釣れると思いますが、私は里川の雰囲気が好きで中流部に入ります。このエリアは近年特に難しくなっていて釣り人が少ない。先行者に悩まされないのはうれしいですが、アングラーが少なすぎて寂しく思います。各所に釣り人がいてアマゴがたくさん泳いでいた時代も見ていますからね。やっぱり川には活気があってほしいのです」
と落ち着いた口調で語るのだった。 飯田さんのロッドはパームス「シルファー」SYSSi-53UL。メインで使うルアーはトゥイッチングミノーの「アレキサンドラHW」。サイズは50㎜を基本に浅場は43㎜も多用。飛距離が必要な釣り場はXHW(エクストラヘビーウエイト)に替える。
飯田さんの愛用ロッドはパームス『シルファー』。今回の釣行時に使用していたのはSYSSi-53 UL。サクラマスねらいも狩野川ではこのモデルで対応できる。ブランクはグラファイトとグラスが用意されており、多彩なレングスやべイトモデルも選択できる。リールは「18 ステラ2000」。ラインはバリバス「スーパートラウト アドバンス ダブルクロスPE X8」0.8 号。リーダーは「スーパートラウトアドバンス エクストリーム ショックリーダー(ナイロン)」の6ポンドおよび8ポンド
現在の渓流ルアーはトゥイッチングミノーが隆盛である。トゥイッチによる平打ちアクションはアピール度が高く、魚が低活性であっても口を使ってくれる可能性が高い。オールシーズン活躍するルアーである。なぜミノーイングが有効なのか? その理由について飯田さんは確信をもって語らない。
「長くこの釣りをやっていますが、ヤマメやアマゴがミノーで釣れる理由はいまだによく分かりません。狩野川の場合、サツキマスはアユと一緒に遡上します。
魚食性によってミノーを襲う魚も多いと考えられますが、食性だけとは言いきれません。威嚇の習性もあるでしょうし、何らかの興味を示して口を使うことがあるのだと思います」
ミノーが効かないケースのひとつはライズが頻繁に見られる状況だ。飛び交う虫を偏食している時はスピナーの出番になる。パームスのルアーでいえば「スピンウオークQR」などに替えてライズスポットに送り込むように食わせることもよくある。
スピナーのスピンウォークQRだ。ライズに効く
午前8時には釣りをスタート。200mほどの瀬を釣り上がっていくと虫が飛び始めてはいた。しかしライズは皆無。
飯田さんはどこで魚が出るかという予測を立てキャストを繰り返す。そのテンポは早く、ルアーを食わせたいスポットにアップで通すこともあれば、クロスやダウンクロスでも通す。3月から4月上旬の頃はゆっくりとルアーを見せたほうが反応を得られやすいという。
「アップで食ってくれると単純ですが、活性の上がりきっていない解禁初期はクロスでトレースしてルアーがターンをする時にヒットしやすい傾向があります。クロスからややダウンクロスでトレースすればルアーをじっくりゆっくり見せやすいですが、反面テールフックに掛かることが多くバレやすいのが難点です」
やがて飯田さんは大きな淵を前にしたが、魚っ気は全くない。
「近年の狩野川はプールで釣れることは稀です。大半の魚は瀬でヒットします。
魚が少ないせいかカワウも減っているように感じますが、プールにいた魚はカワウに追われ瀬に逃げ込んでいるのだと思います」
瀬といっても形状はいろいろだ。深い瀬のほうがアマゴは潜みやすいと思えるが、意外性のある浅瀬に魚が残っていることもある。この日もそんな場面が落差の大きな段々瀬の最上段で見られた。
そこは瀬肩のすぐ下流に位置する脛くらいの水深の瀬だ。段々瀬の核心部を釣り上がったアングラーがスルーしてしまうだろう何の変哲もない浅瀬で、この日初めてのチェイスがあった。飯田さんは立ち位置を上流に移してトレースラインを変えた。トゥイッチでヒラを打つルアーが一抱えほどの石の前でターンするタイミングに川底で魚の閃光が瞬いた。と同時に「シルファー」に衝撃が走る。腰を落としてロッドをためると、25㎝はあろう良型が暴れまわるのが確認できた。
しかし、足もとまで慎重に寄せるもランディングネットを差し出した瞬間にフックアウトしてしまう。飯田さんが今釣行で巡ったポイントを列挙すれば本流はレンゲの瀬に始まり、大仁橋上流の瀬、宮田橋前後の瀬、オトリ店アルバトロス周辺、狩野川ドーム前、支流大見川の小川橋周辺など広範囲である。そのうち少ないながらも魚の反応を得られたのはすべて瀬だ。飯田さんは流れの落ち口を舐めるようにミノーを通していくことが多く、魚が定位しそうな石の前をどうトレースするかに集中しているように見えた。そしてアマゴをキャッチしたのもやはり瀬の落ち口だった。
狩野川ドームの裏手から続く瀬の上流に通称「鶏小屋裏」と呼ばれるポイントがある。右岸に向かってカーブする瀬の一角に「アレキサンドラHW50をクロスに投げ入れ、落差のある瀬の落ち口にある石前をトレースすると、またもターンの瞬間に食った。ロッドを低く構えて引きをいなして、がっちりとフッキングしていることを確認。今度は大胆に抜き上げてネットに収めた。
ネットの中で息を切らしているのは尾ビレがピンと張った美形アマゴ。丸っこいパーマークに派手過ぎない朱点が並び、いかにも狩野川育ちというプロポーションだ。
長い間釣り歩いてようやく手にしたアマゴ
丸っこいパーマークの上に派手過ぎない朱点が並ぶ伊豆育ちらしいアマゴ
「魚との出会いはタイミングも重要です。昨年は4月下旬から魚の活性が高まって35㎝を頭に尺上が3尾ヒットする恵まれた1日がありました。その後の釣行でも大型アマゴが多数釣れて、5月下旬のアユ解禁まで楽しめました。ゴールデンウイークでも混雑は少なく、入れるポイントはたくさんあります。アタリが少ない狩野川に慣れてしまった自分もいますが、多様な流れを楽しむくらいの気持ちで釣りをするのも悪くはありません。周囲には温泉もたくさんあるし、釣りの後の温泉を楽しみに訪れてもいいです。最盛期にはぜひ多くの釣り人にチャレンジして欲しいです」
狩野川のポテンシャルを味わうなら小誌発売の頃がベストである。飯田さんの通う中流部だけでなく上流や支流も多彩な水脈が広がる。解禁期間は10月末までと長いので年券を購入してじっくりと通い込むのもありだ。