島根県津和野町に暮らす大庭敏成さんは、清流の豊かな水脈を活かしてワサビ農園を営み、農作業の合間を縫って友釣りを楽しむ。アユ釣りを始めたのは小学6年生の頃。以来、高津川の天然アユを追い続け、ダイワ鮎マスターズ2026で全国優勝を果たした。
その原点を探るべく、天然遡上に沸いた2023年夏、圧巻の入れ掛かりに密着した取材記事を掲載する。(※取材当時46歳。文中の発言や各種数値は取材当時のものです)

写真と文◎月刊つり人編集部
1946年創刊の雑誌「月刊つり人」「別冊 鮎釣り」を始め、数々の釣りに関するコンテンツを作成してきたつり人社の編集部。
ダムのない清流・高津川でワサビを育て天然アユを釣る
高津川は島根県西部を流れる1級河川。延長は約81km。この規模にも関わらず本流にダムがない奇跡の川である。ダムがない川というのはこんなにも美しいのかということを私たちに教えてくれる貴重な川でもあり、過去に水質日本一に7度も輝いている。(その後、3年連続で水質日本一に輝き2026年時点で10度受賞中)
中流域の左鎧地区で右岸に注ぐ横道川がある。ゴギやヤマメが釣れる渓流相だが、天然アユもよく上る。この横道川に注ぐ沢の清水を利用したワサビ農園を大庭敏成さんが開いたのは今から20年あまり前。元来、周辺にはワサビを作る農家があり、大庭さんのお父さんも含めて沢筋にワサビ田を造っていたので、増水時に流されてしまうなど収穫量は不安定だった。そのため、椎茸や米などもやりながらというスタイルだった。
しかし、これだと安定した収入を見込みづらい。そんなわけで若者は都会に出て行ってしまうが、アユ釣りが好きな大庭さんは高津川という素晴らしい川がある地元を離れる気にはなれなかった。そこで、農業大学校に通い、2年間の養成課程を経た後、ワサビの一大産地である静岡県伊豆河津のワサビ農家に2年間研修で世話になった。わさび丼で有名な「かどや」さんである。
伊豆・河津のワサビ農家で学んだ2年間
河津といえば七滝で有名な河津川が流れていて、夏場はアユ釣り客で賑わう。峠を越えれば友釣り発祥の地といわれる狩野川が碧い流れをたたえている。
「そうなんですが、この頃はワサビのことで頭がいっぱいで、釣りはいっさいやらなかったんです。今にして思えばもったいなかったですね(笑)」と大庭さんは振り返る。
畳石式のワサビ田で年間3万本を出荷
22歳で地元に戻った大庭さんは、伊豆地方で考案された「畳石式」というワサビ田を自らの手で造っていった。簡単に説明すると一番下に大石の層があり、その上に中~小石の層、その上に砂礫層があり、その上を水が流れるという仕組み。これにより安定生産が可能になり、今では年間に3万本を出荷できるまでになったという。
アユ料理の名店「美加登家」との長い付き合い
かつて人気テレビ番組『情熱大陸』(毎日放送)で、高津川の河畔に建つアユ料理屋「美加登家」の店主、山根一郎さんが鮎料理人として登場し、アユ釣りファンの間で話題になった。大庭さんが初めて友釣りをしたのは小学校6年生の時であり、当時は美加登家の先先代が河畔までアユを買い取りに来ていたという。大庭さんはその頃から美加登家との付き合いがあり、今でもアユを卸している。
「増水後で魚が少ない時など、一郎さんから電話がかかってくるんですよ。なんとかしてくれって。私は高水のほうが好きなので、そんな時は一生懸命釣って持って行きますよ(笑)」と大庭さん。
取材後、その日の釣果を美加登家へ届ける
今回の取材終了後、大庭さんにお願いをして美加登家さんにアユを卸すシーンを撮影させていただいた。
「大庭さんは高津川では一番の名人ですから頼りにしています。いや、今は日本一の名人ですね(笑)」と店主の山根さん。そう、大庭さんは2023年、高津川で開催された全日本アユ王座決定戦で9勝0敗という圧倒的な成績で優勝に輝いたのである。
思い出の釣り場で時速15尾 高津川の友釣り実践
9月上旬。朝一番でワサビ田の取材をさせていただき、川に入ったのは9時半過ぎ。旧左鎧小学校前の釣り場である。ここは減水区間で普段は地元の釣り人が毎日のように入っているのだが、この日は出水の後で水位が高く誰も入っていない。2015年で閉校になった左鎧小学校は大庭さんの母校で、6年生の夏は毎日、目の前の川でアユ釣りをしていたという。当時は泳がせ専門。水がきれいだから、オトリの泳ぎや野アユが追う姿がよく見え、この時のアユの姿勢が今でも脳裏に焼き付いているという。
大庭さんの愛用タックルと仕掛け
少し上流の水深50cmほどの早瀬からスタート。水中イトは「ハイパーエムステージEX」0.07号。ハリは「スピード」7号4本イカリ。小沢式の背バリ。手にするサオは最も信頼しているという「グランドスリム」9mだ。
「このサオのいいところは、場所やオトリのサイズを選ばないということですね。小さいオトリを引いても、ちゃんと底を這って付いてきてくれるんです。だから大会では非常に有効なんです」
ねらうのは茶色い石 怒涛の入れ掛かりで時速15尾
まずは手前の筋にオトリを入れてじっくりと沖に誘導する。最初のオトリということもあるからか慎重である。
「高津川では黒い石よりも茶色の石がねらいめです。ビール瓶くらいの色ですね」
という大庭さん。目の前には、茶色に見える石がゴロゴロしているが、すぐには掛かってこない。何度か入れ直してようやく1尾目。17cmほど。開始から10分くらい。これをオトリにしてから、怒涛の10連発。流心まで送り出す途中に掛かるパターン、流心まで到達して引き上げた直後に掛かるパターン、いずれにせよ入れポン、出しポン。次々と天然アユが空を舞った。撮影をしながらであるにも関わらず1時間で15尾をキャッチ。
絞り込みの荒瀬をねらって24cmの良型をキャッチ
「測ったように全部同じようなサイズですね。写真映えするもう少し大きなアユをねらってみましょうか」
入れ掛かりの早瀬を下り、その下の絞り込みの荒瀬にオモリを打ってオトリを沈めた。3尾目に24cmの惚れ惚れするアユが掛かった。
「実はこのエリアでサオをだすのは10年ぶりくらいなんです。周りから『毎日釣りができて羨ましい』なんて言われますが、実際は週に2日くらいです。子どもがまだ小さくて。夕方に川を見て、明日は掛かるぞという時だけ釣りに行く感じです。まあ、地元の特権ですね(笑)。これだけ天然アユがいる川で、そんな釣りばかりしているので、放流河川の釣り方とか、よく分からないんですよ。だから鮎マスターズはブロック止まりですが、いつか全国決勝大会に行きたいんです」と大庭さんは笑みを浮かべた。
その言葉から2年後の2025年、大庭さんは念願の全国決勝大会の舞台に立ち、準優勝。そして翌2026年、ついにダイワ鮎マスターズの頂点へと登り詰めた。
大庭さんが優勝を果たした、ダイワ鮎マスターズ2026の動画はこちら↓
※このページは『鮎釣り2024』に掲載した記事を再編集したものです。


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