初心者ほど、遠くに投げたがる。広い川や海を前にすると、魚は沖にいるはずだと思い込み、力いっぱいキャストする。目の前に広大な水面が広がっているのだから、より遠く、より深い場所ほど大きな魚がいるように感じるのだろう。それに、遠くへ投げること自体が「釣りらしい」というイメージもある。
私自身、小学生でルアーフィッシングを始めたころはそうだった。わざわざボートを借り、沖へ出れば出るほど魚に近づけると思っていた。ところが、3年間釣れなかった。後になって分かった。魚はずっと、私たちが見落としていた場所にいたのである。

写真と文◎山根和明(株式会社つり人社代表)
つり人社代表取締役社長。日本釣振興会理事。大学在学中にアルバイトとしてつり人社に入り、卒業後に入社。1946年創刊の月刊「つり人」編集部に配属される。
2006年に同誌編集長、2015年に代表取締役社長に就任。釣りメディア一筋で、企画・編集・事業開発までを一貫して手がけてきた。また、釣り文化の普及と次世代育成にも力を注いでいる。2026年4月刊行の著書『カッパのいない川で子どもは育つか』は、発売2日目でAmazonカテゴリランキング1位を獲得。
上げ潮のハゼは沖ではなく岸に寄る
例年9〜10月、多摩川下流部で公益財団法人日本釣振興会主催の「多摩川フィッシングフェスティバル」が開催される。2026年は9月19日開催予定だ。メインは親子のハゼ釣り教室で、今回で10年目になる。立ち上げから関わってきた私は、釣り部門の責任者的な立場で、開催日の決定にも関わってきた。
開催日を決める上で欠かせないのが、潮の満ち引きだ。潮の時刻は毎日少しずつ後ろにずれていくため、親子連れが動きやすい日中の時間帯に、狙い目となる上げ潮がちょうど重なる日を、潮見表を見ながら逆算して選んでいる。タックルやエサについても、同様に検討を重ねてきた。
当初、リールタックルを推す意見もあった。だが私は、ノベザオでやらせてほしいと委員の皆さんに説明した。理由は二つある。
一つは、リールタックルでハゼを釣っても、あのキュンキュンという小気味いい引き味を存分に味わえないこと。もう一つは、多摩川のような汽水域(海水と淡水が入り混じるエリア)では、上げ潮のときにハゼが岸辺に寄ってくるからだ。つまり、リールタックルで沖のポイントを狙うより、ノベザオで手前のポイントを狙ったほうがよく釣れる。
多摩川のような川幅の広い釣り場を前にすると、つい沖めを狙いたくなるのが釣り人のサガだ。しかし、干潮時に干上がっていた岸際の泥地やゴロタ石の周辺には、ゴカイや小さな甲殻類などのエサが豊富に潜んでいる。
潮が満ちるにつれて、干上がっていた岸際が次々と水に浸かる。ハゼにしてみれば、それまで利用できなかった餌場が開放されるようなものだ。だから上げ潮では、沖ではなく岸際へと積極的に差してくる。
逆にリールタックルで遠投して沖の深場を狙っても、ハゼは岸寄りに来ているので留守だ。アタリのないリールタックルの釣り人を尻目に、足もとの浅場で手返しよくハゼが釣れるのである。

一等地の「手前」にこそ、鮎は潜んでいる
鮎の友釣りでも、同じようなことが起きる。サオが流心まで届きそうな中小河川の釣り場を前にすると、ほとんどの人が水深のある流心付近を狙おうとする。実際、そうした一等地にはいい鮎が付いている。だが人気河川では連日のように攻められているため、すでにもぬけの殻になっていることが多い。
そんな人気河川で本当に狙い目になるのは、一等地そのものではなく、その一等地を狙う際に釣り人が立つであろう浅場だ。
理由は二つある。一つは、そこがサオ抜けポイントになっていること。誰もが沖を見ているので、自分が立っている足元は誰にも狙われていない。もう一つは、釣り人が頻繁に歩く浅場では石の表面がこすられ、その後に鮎が好む新アカ(新しく付いた苔)が付きやすいともいわれることだ。実際、人気河川では、人が立ち込むような浅場に意外なほど良型の鮎が残っていることがある。
2026年8月17日、まさにそれを目の当たりにした。
福井県九頭竜川で開催された「龍角散 鮎釣りドリームマッチ」で、上田弘幸さんが90分で30尾の鮎を釣り上げた。そのポイントは、ほとんどの釣り人がポイントへ向かう際に歩いて通過するような、水深わずか30cmほどの浅場だった。
YouTube「釣り人チャンネル」のアーカイブに残されているので、ぜひご覧いただきたい。
堤防釣りも狙うべきはすぐ足元
堤防釣りにも「ヘチ釣り」というジャンルがある。ヘチとは堤防の壁のことで、壁についた貝類やカニ類を食べにくるクロダイ(チヌ)やシマダイ(イシダイの幼魚)を狙う釣り方だ。
狙う距離は、壁からわずか10センチ以内。
初心者は、海を前にすればまずリールタックルで遠投しようと考えるだろう。だが実際には、堤防のすぐ足元こそ、一級ポイントになっていることが少なくない。
理由は単純で、堤防そのものが漁礁のような存在だからだ。堤防の周りには基礎や捨て石があり、その表面には海藻や貝類などが付き、隙間にはカニやゴカイ、小魚などが潜む。つまり堤防そのものが、巨大な人工漁礁のような役割を果たしている。
ちなみに私は大型クロダイを狙って、北は新潟県の佐渡島、南は長崎県の五島列島・福江島まで全国各地を巡ってきた。ところが自己記録の53cmを釣ったのは、なんと多摩川下流域。しかも、ヘチ釣りだった。
遠く沖合でも構造物に魚が集まる。パヤオに見る魚の習性
ここまでの話だけを聞くと、「魚は近くにいる」という単純な結論に思えるかもしれない。だが、話はもう一段深い。
日本でパヤオ漁が本格的に始まった地として知られるのが、沖縄県の伊良部島だ。1982年、伊良部漁協がパヤオを設置し、その後全国へ広がっていった。私も何度か、伊良部島のパヤオで釣りをしたことがある。
パヤオはいずれも佐良浜港から2〜3時間の沖合にあり、場所によっては水深1000メートルを超える。本来、そのような深場は漁場ではなかった。
パヤオの仕組みは驚くほど単純だ。海底に重りを沈め、そこから海面まで長いロープを伸ばし、その先に大きな浮きを取り付ける。水深1000メートルなら、ロープも1000メートル以上になる。そんな単純な構造物の周りに、小魚からカツオやシイラ、マグロなどの大型魚まで集まってくる。
なぜこれほど広い海の中で、パヤオの周りにだけ魚が集まるのか。
藻類がロープや浮体の表面に付着し、それを足がかりに小さな甲殻類などの生き物が集まり、それを餌とする小魚が寄ってきて、さらにそれを狙う大きな魚が集まるという「餌場説」、パヤオの影を魚が利用しているという「隠れ場説」など、理由には諸説ある。私自身は、餌場説だと思っている。シイラが流れ藻に付くのも、同じ理屈だろう。海面を漂う藻には小さな甲殻類やプランクトンが付き、それを狙って小魚が集まり、さらにその小魚を狙ってシイラやカツオが回ってくる。パヤオも、これと同じ連鎖が起きているのではないか。
ここで分かるのは、魚の居場所を決めるのは「近いか遠いか」ではないということだ。
餌があるか。身を隠せる場所があるか。流れや地形に変化があるか。
魚はそうした条件によって居場所を決める。堤防やヘチが強いのも、岸に近いからではなく、魚が集まる条件がそこに揃っているからだ。そして釣り場では、その好条件が意外なほど足元にある。だから「灯台下暗し」が起きるのである。
遠投の前に「足元の好条件」を見極めよう
冒頭で触れた「3年間釣れなかった」というのは、他でもない私自身の話だ。
舞台は神奈川県の津久井湖。拙著『カッパのいない川で子どもは育つか』にも書いたが、小学生時代の私は友人と手漕ぎボートを借りては、沖の深場ばかりを狙っていた。それでバスが釣れるわけがない。
バスも基本的には岸寄りにいる魚で、バスプロたちはバスボートの上から、岸に向かって釣っていることが多い。
何を隠そう、私自身、津久井湖で一番釣ったのは、沼本ワンドでの陸っぱりの釣りだった。
ボートで釣ったのは、たったの1尾だけである。
遠くへ投げる技術を覚える前に、自分の足元に魚がいないかを見る。それだけで、釣果はまるで変わってくる。

【発売2日目でAmazonカテゴリランキング1位を獲得!】カッパのいない川で子どもは育つか
子どもの自殺者数が過去最多を更新し、不登校は35万人を超えた。 豊かで安全なはずの日本で、なぜ子どもたちはこれほど追い詰められているのか。 自然体験が、待つ力、やり抜く力、折れない心を育てる。 創刊80年の釣り専門誌『つり人』編集長を10年務め、親子向け魚釣りイベントにも多く携わる筆者が、記者として、父として、水辺と子どもに30年かかわり続けてたどり着いた育て方のヒントとは。 巻末には、政治の側から子育て支援と水辺の環境問題に取り組む、元滋賀県知事で参議院議員の嘉田由紀子さんとの対談も掲載。


