トラウトルアーの名手である飯田重祐さんが、アプローチで最も重視するのは高いアキュラシーキャスト。ピンポイントに入れる、静かな着水音を心がけるだけでなく、飛行中のスピードやコースにも気を配る。いわばキャスティングにこそ、この釣りの深みが詰まっていると言う。そんな飯田さんの東北釣行に密着した。

写真と文◎月刊つり人編集部
1946年創刊の雑誌「月刊つり人」を始め、数々の釣りに関するコンテンツを作成してきた編集部。
飯田重祐さんが語る渓流ルアーの深み。東北・山形への釣行
9月初旬、飯田重祐さんは岩手県の気仙川にいた。前日までアユルアーを楽しみ、翌日は渓流域でヤマメを釣る予定で旅程を組んでいた。しかし、夜半から降り始めた警報級の雨で大増水に見舞われる。朝一番に「参ったね」と言いながらも慌てるようすはない。40年にわたり東北の渓を隅々まで釣り歩いてきた飯田さんは、雨雲レーダーを見てサオがだせそうな水脈に見当を付ける。三陸は陸前高田から北上を流れる和賀川周辺を見て回るも雨脚は強い。今度は秋田県の横手を抜けて山形県まで走り、たどり着いたのは最上川水系・真室川上流域の支流である。水嵩は増えていない。飯田さんは雨にしっとりと濡れた森を抜けて川に下りた。
「東北が好きですね。魚が多いこともありますが、人当たりのよい優しい人々が好きなんです。山形の渓には大学生だった19歳の頃からよく来ています。シーズンに3回以上、延べ1ヵ月くらい滞在してヤマメやイワナを釣るんです」
2026年モデルの5代目「シルファー」を手に雨後の渓へ
近年は夏になるとアユルアーに熱中している飯田さんも、9月に入れば禁漁前の名残りを惜しむように渓に入る。こと山形県はシーズンの仕上げに足を運ぶフィールドという。今回の釣行は2026年発売となるパームスのロッド「シルファー」のニューモデルの振り心地を試す目的もあった。
シルファーは1997年の発売以来、全国の渓流ルアーアングラーから支持されている。2026年モデルで5世代目となり、源流域から本流、サクラマス専用まで15機種がある。全モデルに共通しているのが高いキャスティング性能だ。現場主義に徹する飯田さんは、納得するまで釣り込んで軽快なアキュラシー性能を突き詰めていく。今回は4フィート11インチを手に釣り上がった。
トゥイッチの意味とキャスト時の考え
水況はやや高水で小雨がパラつく陽気である。条件は悪くない。セットされたルアーはアレキサンドラ43HW。トゥイッチングの使用を前提としたヘビーウエイトのシンキングミノーである。
短い移動距離で速く動かせるミノー「アレキサンドラ」
現代の渓流ミノーイングはトゥイッチング操作が主流だ。ルアー本来の泳ぎはただ巻きでも力を発揮するが、なぜトゥイッチングをするのだろうか。理由は「リアクションを刺激すること」と言われる。ルアーは渓魚が実際に捕食しているエサ(ベイト)よりもサイズが大きいことのほうが多く、着水音が立ち、硬い。魚がくわえた時の違和感も大きい。それをごまかすためにも着水と同時に瞬間的な速い動きを連続させてリアクションを起こさせる。
飯田さんは「トゥイッチで大切なのは瞬間的な速さ。短い移動距離で速く動かせること」と話す。それができるミノーの完成形のひとつがトゥイッチングミノーを謳う「アレキサンドラ」シリーズである。
水中ではなく「空中での視認性」を優先する理由
カラーはパールベース。腹がオレンジで背中は茶色だ。色は何を基準に選んでいるのかといえば、ベイトライクなカラーでもなければ水中の視認性でもない。「飛行時の見やすさを重視しています」と飯田さんは言うのである。
「空中にあるルアーをコントロールして最良の位置に着水させるには、飛行中のルアーがしっかり見えないと難しい。だから単純に派手というより、背景に溶け込まないカラーが好きで選んでいます」
また水中のルアーを確認しやすくするための背中のカラーは目立つ色を好まないという。
「水中での視認性は、背中のカラーを見るというより、ルアーが動いた時のボディーの反射(フラッシング)で確認します。目立つ背中だと、その背中ばかりをスポットで見てしまいがち。ルアー周辺で起きる魚のチェイスや反応が見えにくくなるように感じます。パールベースのカラーは水色が濁っていても、澄んでいても、さまざまな状況でよく釣れるんですよ」
着水音だけでなく「飛行スピード」もコントロールする
渓流ルアーはポイントから距離を取ってアプローチしやすい。しかし飯田さんはできる限りポイントや魚に近づいていく。なぜなら魚のチェイスやターンを見て探るのが楽しいからだ。アップで探りながら遡行していく渓流域ではポイントまでの最適な距離感は目まぐるしく変化する。プールが長ければ距離は長めに取るが、それでもショートからミディアムキャストが基本。なるべくコンパクトなフォームでルアーは飛ばす。それにはロッドの長さもコンパクトなほうがいい。飯田さんが手にする4フィート11インチの「シルファー」は今回のような川幅が5mもない小渓流で最適な長さという。
飯田さんがアプローチで最も気を遣うのは音である。
「遡行の際にジャブジャブと音を立てないような足取りを心がけるのはもちろん、キャスト時も音を立てないように身体を大きく動かしません。着水音もソフトにするためフェザーリングとロッド操作で調整します。もうひとつキャストでいえば、魚の頭上をルアーが通過しないように心がけています。稚アユや水生昆虫を意識する季節でなければ上を見ている魚はとても多い。飛行中のルアーの陰に警戒されることもあります。見えている魚はもちろん、ライズスポットやフィーディングレーンの真上をルアーが飛んでいかないようにアプローチします。水中にルアーがある時よりも着水までのほうが気を遣うんです」
魚の頭上を通さない軌道と、ベイトに合わせたルアーの飛翔速度
時にはベイトスピードに合わせてキャストスピードもコントロールするそうだ。たとえばヒゲナガカワトビケラが水面を飛び交う状況では、できるだけ低空で速くルアーを飛ばす。飛翔速度の遅いバッタ類が川面を行き交っている時はルアースピードを上げるのは不自然なのでふんわり飛ばして落とす。木々から虫が落ちているような時は、なるべく草木等に当ててから着水させる。渓流域で最速の昆虫といえるトンボが飛び交う季節はハイスピードでルアーを飛ばすなど、そこまで考えてキャストをする。
次々に躍り出る良型のヤマメとイワナ
いくつかの小堰堤が連続する浅瀬を遡行していくと最初に反応を得られたのは蛇行点にある沼のようにも見える淵だった。1投目、チェイスする魚が見えたが反転して帰ってしまう。もう一度キャストすると今度はフックアップ。水面を割った姿はヤマメである。シルファーのしなやかなブランクを活かしてやり取りをするとランディングに成功した。
「追ってきた魚がターンしてしまっても、まだ掛かると思うことは結構あります。要は釣り人の存在を魚が意識していないようならば再ヒットのチャンスはあると思っていい」そう言ってやや赤みが強い居着きのヤマメをひとしきり愛でてからリリース。
飯田さんは左岸、右岸と立ち位置を変えながらテンポよく丁寧にミノーを投じていく。立ち位置が限られ、ロッドを振れるスペースも限られる渓流である。サイドハンド、バックハンドとあらゆる角度から正確なキャストを繰り出す。それは年季の入った熟練の技術でもあるが、「シルファー」のアキュラシー性能によるところも大きい。すると浅瀬から30cm超のイワナが現われたり、オーバーハングした木の下からパーマークが艶やかなヤマメが食ったりする。
尺に迫る幅広ヤマメをキャッチ!豊かな最上川水系のポテンシャル
核心部となったのは20mほど続くプールである。「大きいのが出ると思う」と言う飯田さんの予言どおり、淵尻で9寸クラスの幅広ヤマメがまずは食った。続いて左岸の粘土質の岩盤に乗り、流れの落ち口からアレキサンドラ43HWを引いてくるとまたもやヒット。身をよじらせてギラギラと水中で光るのは尺に迫るサイズである。足もとまで来ると下流に向かって突っ走るが、落ち着いて引きをいなしてランディング。口が大きくて体高がある立派なヤマメだ。偏光グラスの奥で飯田さんの目尻が下がった。
真室川の下流は鮭川と名を変える。サケだけでなく春にはサクラマスも遡上する。最上川水系の中では海と川のつながりが保たれた数少ない健全な支流ゆえ、上流域の細流でも素晴らしい渓魚が育つのだろう。飯田さんはさらに数尾のヤマメとイワナを追加。入渓点から1kmほど釣り上がると、雨後の森の空気をたっぷりと吸い込んで深呼吸。
「やっぱりいい川ですね」笑顔でそう言って川を上がった。
※このページは『つり人 2026年3月号』に掲載した記事を再編集したものです。



