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つり人編集部2026年7月7日

タングステン輸出規制の余波は釣具にも。アジングを直撃する価格高騰

小さな1g台のジグヘッドにも世界情勢が凝縮されている。釣具店の値札はどんどん書き換わり続けているのが、その証だ。背景には、産出国によるレアメタル輸出規制という、地政学的な嵐が吹き荒れている

著者:月刊つり人編集部

写真と文◎月刊つり人編集部

1946年創刊の雑誌「月刊つり人」を始め、数々の釣りに関するコンテンツを作成してきたつり人社の編集部。

アジングに欠かせないタングステンとは何か

アジングは、軽量なジグヘッドリグを操る繊細な釣りだ。0.1g刻みで操作性や釣果が変わってくる。その釣りに不可欠なアジング用ジグヘッドを語るうえで、タングステン(元素記号:W)という素材は当たり前の存在になった

タングステンは金属であり、地球上に存在する金属の中でも産出量が少ないというレアメタルである。超硬合金や触媒などの原料として超硬工具、電子機器部材、半導体、石油精製、重工関連部品などに使われ、さまざまな産業用途で欠かせない素材だ。タングステンの比重は約19・3g/立方cm。鉛(約11・3)を大きく上回り、鉄(約7・9)と比べれば2.5倍近い密度を誇る。

釣りではこの圧倒的な重さが活きてくるのは周知のとおり。従来の鉛素材と同じ重量でも体積を大幅に小さくできることで、水の抵抗も減り素早く沈む。深いレンジや潮流の速い場所が探りやすくなり、飛距離も変わった。タングステンは硬度も高いのが特徴で、着底時などの感度が鉛よりもわかりやすいなど、タングステンの登場によってあらゆるジャンルで釣りの幅が大いに広がったといっても言い過ぎではないだろう。

繊細なロッドワークやライン管理が求められるアジングにとっても同様で、タングステン製ジグヘッドは今や鉛製と並んで当たり前とも言える選択肢となりつつある。

ところが、その当たり前が今、揺らいでいる。

アジングに欠かせないジグヘッド。その素材の多くは鉛製だが、タングステン製も各社から登場しており常用する人も多い
アジングに欠かせないジグヘッド。その素材の多くは鉛製だが、タングステン製も各社から登場しており常用する人も多い

世界のタングステンは中国が支配している

タングステンの市場構造を理解するには、まずその産出地を知る必要がある。現在、世界のタングステン生産量の80%以上を中国が担っている。中国・江西省や湖南省を中心とする鉱山地帯は世界最大規模の埋蔵量を誇り、採掘コストも低い。日本はほぼ100%を輸入に依存しており、そのうちの約60%が中国からだ。

次いで生産量の多いのがベトナム、ロシア、オーストリアなどだが、中国の圧倒的なシェアには敵わない。かつて日本でも採掘が行なわれた歴史があるが、現在では経済的に成立する国内鉱山はほぼ存在しない。こうした一極集中型のサプライチェーンが抱えるリスクは、かねてから指摘されていた。そして、そのリスクが現実になったのが2025年2月4日のことだ。

タングステン化合物(WO3)を含む鉱石。その多くが中国からの輸入に頼っている
タングステン化合物(WO3)を含む鉱石。その多くが中国からの輸入に頼っている

中国の一声で原料価格が6倍に高騰した経緯

中国の商務部と海関総署は2025年2月4日にタングステン、モリブデン、テルル、ビスマス、インジウムの5種類のレアメタル関連品目について輸出管理を実施すると発表した。そして、その発表は「即日実施」だった。

それまでの中国の輸出規制は、2023年のガリウム・ゲルマニウム規制など、発表から施行まで一定の猶予期間が設けられていた。企業は在庫の積み増しや代替調達ルートの構築に動くことができた。しかし今回は違った。猶予ゼロの即日発動により市場は完全に不意をつかれた形となった

この背景にあるのは、同日にアメリカのトランプ政権が中国産全製品に10%の追加関税を発動したことへの対抗措置として行なわれたということ。米中の貿易戦争が激化するなかで、中国は半導体関連から始まったレアメタル輸出規制をさらに拡大。レアメタルを経済的な武器として使い始めたのだ。

規制後の価格動向は衝撃的だった。タングステン製品の中間原料であるAPT(パラタングステン酸アンモニウム)の国際価格は、規制前(2025年初頭)の340ドル(W純分10kg当たり)から急騰し、同年9月には600ドル台を突破した。わずか半年余りで約2倍の水準に達したことになる。さらに2026年3月には1944ドルという驚異的な水準に達したとの報告もあり、規制前と比べ実に6倍近い高値となった。

釣り具への打撃は値上げに現われている

原料価格の急騰は、当然ながら釣り具メーカーにも深刻な影響を及ぼしている。タングステンを扱う釣具メーカーから「原価が2~3倍に跳ね上がった」という話もあり、深刻な影響が出ている。グローブライド(ダイワ)は2025年1月、リール・ロッド・用品の価格改定を実施した(リール平均6.8%、ロッド6.2%、用品9.6%値上げ)。同社は「もはや自助努力で吸収することは困難な水準に達した」とコメントしている。競合大手のシマノも同様の価格改定を行なっており、大手2社が相次いで値上げに動いたことは、業界にとっても印象深い出来事だ。

アジングで愛用者の多いタングステン製ジグヘッドは、鉛素材と比べ単価が高い。それがさらに値上がりすれば、消費者の負担は相当なものだ。アジングに関して言えば、ジグヘッドは必需品であり消耗品だ。1パック数百円だったものが千円を超えるようになってしまったら、財布のヒモが堅く締まることは間違いない。また、「ステルス値上げ」と呼ばれる現象も起きている。入り数を減らしながら定価を据え置く手法だ。消費者の目に見えにくい形でも価格転嫁が進んでいる。

右がタングステン製、左が鉛製。どちらも2gだがシルエットはこれだけ違う
タングステン製シンカーが最近脚光を浴びたのはボトム感度を必要とするチニング。他にもタチウオジギングでもタングステン製ジグは釣果に大きな差が出るとして必需品と言えるほど大人気

タングステンの代替素材は果たしてあるのか?

輸出規制という荒波を受け、タングステン素材を扱うメーカーや商社は調達戦略の抜本的な見直しを迫られている。主な対応策は大きく2つに集約される。

第一に、中国以外からの調達ルートの確保だ。ベトナム、ロシア、オーストリア、さらにはカナダや韓国産のタングステンへの切り替えや組み合わせが模索されている。中国産に比べてコストは高いが、地政学リスクを分散させる意味で重要な選択肢だ

第二に、スクラップ(廃タングステン)のリサイクル活用だ。超硬工具の加工過程で生じるタングステンスクラップは、再生原料として世界的に需要が急増している。鉱石からの精錬効率、コストを考慮すると、使用済み製品から回収する方が圧倒的に効率的だからだ。国内外でスクラップの集荷競争が激化しており、売り手市場となっているが、それでも供給は安定しやすい面がある。

ちなみに、タングステンの代替素材として完璧なものはないとされている。アジングをはじめ、釣りで求められることが多い比重で考えた場合、その代替は金(比重:約19・3)やプラチナ(比重:約21・5)、ウラン(比重:約19・1)辺りが挙げられそうだが、いずれも現実的ではないのは明白だ。

今後タングステン価格が下がる見込みはあるのか

では、タングステン価格は今後どうなっていくのか。残念ながら、短期的な好転を期待させる材料は乏しい。まず中国の輸出規制は2026年6月時点でも継続中だ。レアアース規制の一時停止報道があったが、タングステン関連品目は対象外であり、解除されていない。

中国国内での軍事・エネルギー関連の需要増加、異常気象による生産量の減少、国内供給を優先する姿勢などによって、中国への依存がもはや崩れつつある。中国の2025年タングステン採掘総量抑制指標は5万8000トンで、これは前年比4000トン(約6.5%)の減産目標だ。供給制限と輸出規制が重なれば、価格は高値圏を維持し続ける可能性が高い。中長期的に見れば、中国以外の国々がタングステン鉱山の新規開発や増産に乗り出す可能性はある。カナダやアフリカでの鉱山開発プロジェクトが動き始めているほか、日本政府も経済安全保障の観点からレアメタルの国内備蓄や代替調達網の整備を強化している。しかし鉱山開発には膨大な投資と時間を要するため、近い将来のタングステン価格を劇的に下げる力にはなりにくい。

結論として、アジング用タングステンジグヘッドをはじめ、タングステンを使用した釣り具の価格は、今後も高止まりが続く公算が大きい。一時的な需給緩和で価格が落ち着く場面があっても、構造的な供給不安が解消されない限り、かつての水準には戻らないと見るのが自然だ。

タングステン高騰時代に釣り人としてどう向き合うべきか

こうした現実を前に、アングラーはどのようなスタンスで釣りに向き合えばよいだろうか。一番簡単なのは、ロストしないように心掛けることだろう。タングステン製ジグヘッドは今後ますます貴重品としての色合いが強くなる。消耗品感覚から脱却して丁寧な釣りを心掛けることで、テクニックの向上につながるかもしれない

とはいえ、どれだけジグヘッドを大切に使ったとしてもハリと一体となっているジグヘッドではハリ先が鈍るという問題からは逃げられない。普段は鉛製ジグヘッドを使い、ここぞといった場面に絞ってタングステン製ジグヘッドを投入することで、全体のコストを抑えられるだろう。ウエイト部分とハリが独立して交換可能なジグヘッドが開発されることを期待したいところだ。また、メーカーの取り組みを応援する意識を各々が持つことも大切だ。価格高騰の中でもタングステン製品を安定供給しようと奮闘するメーカー努力への理解は欠かせない。各社が工夫を凝らして製品を届けてくれていることへの感謝の気持ちを忘れずにいたい。

あくまでもタングステンは快適に釣りを楽しむためのひとつの手段だ。情勢が大きく変化していく中で、釣り人としての知恵と工夫を磨くことで、道具に頼らずともアジングの奥深さを一層味わえるようになるための転機ともとれるのではないだろうか。

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レアメタルであるタングステンを釣りという遊びに使用できているうちは平和ということなのかもしれない。

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