編集部2020年4月22日

『つり人』を作ったアウトローの伝説/アームチェアフィッシングの部屋 第13回

月刊つり人ブログ アームチェアフィッシングの部屋

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。


『畸人・佐藤垢石』/志村秀太郎 著

North Angler’s編集部/真野秋綱

肘掛け椅子にゆったり座って、釣りにまつわる読書をしたり、釣り場や魚たちに思いをはせたり、お気に入りの道具を眺めたり……。雨の日など釣りに行けないときのそんな過ごし方を英国では「アームチェアフィッシング」と言うそうです。このコラムでは、つり人社の社員が「アームチェアフィッシング」の時間にオススメしたい愛読書を紹介します。
 
◎今回の紹介者
North Angler’s編集部/真野秋綱

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1975年11月9日生まれ。愛知県出身。学生時代は水生昆虫タガメの調査に没頭。その後編集プロダクション勤務を経て、つり人社に入社。つり人、FlyFisher、渓流、鱒の森などを担当して、この春からNorth Angler’s編集部へ。北の大地で釣り三昧の日々を楽しもうと計画中。


井伏鱒二の釣りの師匠、その素顔とは?

 ご存じの方も多いかもしれませんが、終戦間もない1946年、『つり人』創刊号を作った人物が佐藤垢石でした。今でも神田神保町の古本屋に行くと、佐藤垢石が著した『たぬき汁』などの初版本は高値で取引されているようです。一般的には、名随筆を残した作家としての顔のほうが知られているかもしれません。

 私自身も、つり人社に入社する前からその随筆はいくつか読んでいて、実はこのコーナーの第3回で紹介したハチの子採りは、佐藤垢石の『採峰徘菌愚』という掌編を読んでから、ずっと気になっていたものでした。いい大人がハチを追って野山を駆けるという描写に、つい笑いがこみ上げてくる作品です。


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『つり人』創刊号


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佐藤垢石


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佐藤垢石著『たぬき汁』

 井伏鱒二の釣りの師匠であり、文化人だった佐藤垢石でしたが、その実像はというと……なかなか変わった人物だったようです。当時のようすを伝えるのが、今回紹介する『畸人・佐藤垢石』(志村秀太郎 著)です。


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『畸人・佐藤垢石』

 帯には「オトコならこう生きたい! 異色の伝記小説」とか、「いまでいうアウトローだ」などとあって、なんだかカッコイイようですが、読んでみるとどうしようもない逸話ばかりが登場します。新聞社に入社した垢石は、そのころから大酒呑みで、両親が就職祝いに贈ってくれたオーダーメイドの背広を質に入れて呑んでしまいます。その後も給料のほとんどが酒代に消え、結局背広を買うこともできず、学生時代の着物に紋付羽織、それに小倉の袴という格好で出社していたとか……。

 ただし垢石が大酒呑みになったのは、ただ本人の罪ばかりとはいえないようです。
 当時付き合いがあったという若山牧水(歌人)は「酒を嗜まないやつに人生の襞(ひだ)はわからない」と垢石をそそのかし、また北原白秋(詩人、童謡作家、歌人)は「男は乳よりも酒を呑んで育つ」と言っていたそうです。このメンツに言われては、垢石も呑まざるを得なかったのかも……。
ほかにも上役を投げ飛ばしただの、夜逃げしただの、煙突掃除夫になっただのと、いろいろなエピソードが出てくる本ですが、「これが『つり人』を作った人か……」と思うとなにやら複雑な気分です。もっともその伝統は、現在の弊社にもどこかで受け継がれているのかもしれませんが。


 ともあれ、今だったらSNSで大炎上、袋叩きに遭っていてもおかしくないようなことをしても、周囲が受け入れていたように見えるのは、それだけおおらかな時代だったのかもしれません。そして垢石自身も、きっと人間的に魅力ある人だったのでしょう。
 絶版になってしまった本ですが、興味のある方は古書店をあさってみてはいかがでしょうか。ちなみに佐藤垢石の本も多くは絶版ですが、つり人ノベルズではいくつか読むことができます。

『畸人・佐藤垢石』
単行本:262ページ
出版社:講談社
発売日:1978/2/20
(絶版)


■つり人ノベルズ関連書籍
『「たぬき汁」以後』 (佐藤垢石 著)
新書: 238ページ
出版社: つり人社
発売日: 1993/08
『垢石釣り紀行』 (佐藤垢石 著)
新書: 238ページ
出版社: つり人社
発売日: 1992/11

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