アスリートのフィジカル的な絶頂期は、20代半ばから30代前半にかけてではないだろうか。野球、サッカー、陸上、水泳。どれだけ鍛錬を重ねても、35歳を過ぎたあたりから、フィジカル面では下降線をたどるようになる。
しかし、釣りはどうだろうか。釣りの場合、野球、サッカー、陸上選手に求められるような運動神経は、それほど重要ではない。むしろ、経験や知識のほうが重要だ。そう考えると、若手よりもベテランのほうが、競技の釣りは強いはずである。
ところが、いろいろな釣りの競技会の成績を見てみると、30代半ばから40代半ばにかけてが黄金期といえ、40代後半くらいから下降線をたどるようになる。

写真と文◎山根和明(株式会社つり人社代表)
つり人社代表取締役社長、日本釣振興会理事。大学時代から「月刊つり人」編集部に携わり、2006年編集長、2015年より現職。30年以上にわたり釣りメディアの企画・編集に携わる。著書に『カッパのいない川で子どもは育つか』(2026年)。個人note「それ、ヤマネに聞いてみよう。」では、釣りや自然、編集、仕事など、読者から寄せられた質問に答えている。
目次
優勝者の年齢を調べると、天井が見えた
実際に数字で確かめてみた。
弊社のバス釣り専門誌『Basser』は、今年で創刊40周年を迎えた。我が国初のバスフィッシング専門誌として1986年に産声をあげた。
そのBasserの名を冠して、1987年に始まったのが「Basser Allstar Classic」だ。主催はつり人社で、その年に活躍したトッププロや名手が招待され、釣果を競う。栄えある第1回大会の優勝者は、田辺哲男さん。当時28歳だった。2025年までに37回開かれ、優勝者は21人いる。
この37回の優勝者について、優勝したときの年齢を調べた。結果は、次のとおりだ。
オールスター37回の優勝者は平均36.9歳。45歳を過ぎて勝ったのは4回だけ

優勝者の平均年齢は36.9歳。30歳から44歳までで26勝し、全体の7割を超える。45歳を過ぎてから勝ったのは、37回のうち4回しかない。
20代の優勝は7回あるが、そのうち6回は、1987年から1993年までの最初の7年間に集中している。オールスターが始まったころは、我が国のバストーナメントの黎明期であり、中心選手のほとんどが20代だった。それ以降、20代で勝ったのは、2000年の1回だけである。
招待される選手の顔ぶれにも左右されるので、厳密な統計ではない。
鮎マスターズでも、50代の優勝は38回で3回。60代はゼロ
そこで、もう一つ、鮎の友釣りの大会も調べた。オールスターと同じく1987年に始まった「ダイワ鮎マスターズ」の、38回分の優勝者の年齢だ。全国各地の地区予選、ブロック大会、全国大会からなる大会で、予選を含めると3000人前後が参加する。最も権威のある鮎釣りの大会の一つといえる。
鮎釣りは、バス釣りより愛好者の年齢層が高い。この大会は、2023年から弊社のYouTube「釣り人チャンネル」でライブ配信していて、私も解説を努めさせていただいている。大会には毎年、50代、60代の選手がたくさん出場する。そのため、優勝者の平均年齢は40.8歳とバス釣りより高く、45~49歳での優勝も10回ある。高知県の名手、有岡只祐さんは47歳から49歳で3連覇を成し遂げた。同大会での3連覇は有岡さんが初めてで、しかも通算4度目という新記録だった。
逆に言えば、鮎釣りの大会で20代で3回優勝していることのほうが驚きだ。鮎釣りは夏だけの釣りで、身につけるのに年数がかかるからだ。普通の釣りを3年みっちりやれば覚えられるとしたら、鮎釣りはその倍はかかる。
ところが、50代での優勝は38回で3回しかない。60代での優勝は一度もない。出場者の中で大きな割合を占める年代が、勝てていないのだ。
バス釣りでは45歳、鮎釣りでは50歳のあたり。経験がものを言うはずの釣りで、勝てる年齢には天井がある。これはフィジカル的なことなのか、メンタル的なことなのか。
老いた馬は、道に迷わない
集中力が持続しないとか、勝ちへの執念が弱くなるとか、いろいろな見方はある。しかし私は、「老馬の智」という言葉に答えがあると睨んでいる。
中国の『韓非子』にある話だ。斉の桓公が遠征の帰りに道に迷ったとき、宰相の管仲が「老いた馬の知恵を使おう」と言い、年を取った馬を放してその後をついて行った。すると、無事に道が見つかった。経験を積んだ者は、道を間違えないという意味だ。
ただ、裏を返せば、老いた馬は知っている道しか歩かない。迷わない代わりに、新しい道も見つけない。
釣りのベテランも同じではないだろうか。長く釣りをしていれば、それだけ多くの失敗を経験している。あれはダメ、これはダメと過去の失敗を思い出して、思い切ったことをしなくなる。私は大会にこそ出場しないが、普段の釣りを振り返ると、50歳を過ぎたあたりから、アグレッシブさがなくなっているように感じる。若いころは、思いついたことはなんでも試したが、「どうせダメだよな」と億劫になることが増えている気がする。
釣りの大会では、これが命取りになる。その日にしか釣れない場所や釣り方を見つけた者が勝つ。ベテランが積み上げてきた「ダメ」の中に、その日だけの答えが入っていることもある。

52歳の優勝者は、「未知との遭遇」に向かった
それでも、Basser Allstar Classicでは45歳を過ぎて勝った選手もいる。1998年の吉田幸二さん(47歳)、2006年の河辺裕和さん(48歳)、2013年の小野俊郎さん(46歳)、そして2022年の清水盛三さん(52歳)だ。
最年長で勝った清水さんの2日間は、老いた馬とは逆の動きをしていた。
会場は、千葉県と茨城県の境を流れる利根川だった。大会の前日より水温が約3℃下がり、清水さんが最初に入ったポイントでは、魚の反応がなかった。そこで清水さんは、事前の練習では手応えの薄かった下流のエリアへ向かった。本人は、それを「未知との遭遇ですわ」と表現している。
ほかの選手たちが下流から離れていくなかで、清水さんはあえて下流を選んだ。「ほかの選手が抜けた後が、逆にチャンス」という考えだった。水深1mに満たない浅瀬を、ルアーを巻き続けながら約1km流し、その日最大の1770gのバスを釣った。この日、清水さんは首位に立ち、2日目も逃げ切った。
練習で釣れなかった場所は、経験を積んだ選手ほど「ダメ」の箱に入れる。清水さんは、52歳でその箱を開けた。

44歳の青木大介さんは、史上初の4勝目をつかめるか
今年のBasser Allstar Classicは、10月31日と11月1日に開かれる(予備日12月19~20日)。
注目は、2014年と2015年に連覇し、昨年も優勝した青木大介さんだ。勝てば2度目の連覇で、史上初の4勝目になる。青木さんは今年、JB TOP50でも通算5度目の年間チャンピオン(アングラー・オブ・ザ・イヤー)に輝いた。大会当日には44歳になっている。脂が乗り切った絶頂期だ。
大会の模様は2日間、弊社のYouTube「釣り人チャンネル」でライブ配信する。例年、同時接続は1万人を超え、国内の釣りのライブ配信としては、ぶっちぎりの規模だ。
2022年の大会で、清水さんはBasserの取材にこう話している。
「攻める。守ってないよ。攻め続けた結果、最高のバスがきたね」
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