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つり人編集部2026年3月16日

専門家が解説するヤマメ・サクラマス・アマゴの違い。降海のメカニズムとは?

「渓流の女王」と称されるヤマメ。釣り人の間では、海へ下るサクラマスや、赤い斑点を持つアマゴとの違いについて度々話題に上る。本記事では、長年渓流魚を研究してきた加藤憲司さんに、ヤマメとサクラマス、アマゴの分類や生態について聞いた。

著者:加藤憲司

解説◎加藤憲司

1951年生まれ。元東京都水産試験場の研究員。長年にわたり、ヤマメやアマゴ、イワナをはじめとする渓流魚の生態調査や保全研究に従事してきた。

ヤマメとサクラマスは「完全に同じ魚(同種)」である

ヤマメとサクラマスの違いを釣り人に尋ねると「パーマークのあるのがヤマメ、体が銀白色になってパーマークの消えたのがサクラマス」という答えが返ってくる。そこで「じゃあ降海途中の体長20cmくらいの銀毛個体(スモルト)は、ヤマメ、それともサクラマス?体は銀白色だけど、ウロコを剥がすとパーマークが見えるよね」と聞き返すと「うーん」とうなってしまう。

銀毛したスモルトとパー
銀毛したスモルト(上)とパーマークのある個体(下)

降海型と河川型で呼び名が変わるだけ

そこで、原点に帰って魚類図鑑を開いてみよう。ヤマメのページにはこう書いてある。

【標準和名】
ヤマメ(河川型、陸封型)、サクラマス(降海型、湖沼型)

【学名】
Oncorhynchus masou masou(オンコリンクス・マソウ・マソウ)

つまり「河川型あるいは陸封型をヤマメと呼び、降海型、湖沼型をサクラマスと呼ぶ」というのである。Oncorhynchus masou masou というのは世界共通の学名である。学名は、1種の生物に1個しかつけられない。したがってヤマメとサクラマスは同種の魚だということになる。

たとえば、降海型の体長50cmを超える大型魚が川へ戻り、雌雄ペアになって産卵する。この時、パーマークを持つ体長20cmほどの河川型の雄魚が、これに割り込もうとするシーンがよく見られる。

また、同じ雌魚から生まれた稚魚が、生後一定期間を過ぎると河川型と降海型に分かれていく(相分化)こともよく知られている。

これとは別に、体が銀毛し、海に向かって下りはじめたものの、海までは行かず、下流域で体長40cmほどに大型化して再び産卵のために上流へ戻ってくるものがいる。これなどは、海には下っていないが、体色は銀白色で降海型のサクラマスと変わらない。また、体長は30cmを優に超えているのにパーマークのくっきりと残る個体を、私は湖で捕らえたことがある。これらの例は、ヤマメ=河川型・陸封型、サクラマス=降海型・湖沼型という図鑑の記載には当てはまらない。

つまりヤマメ・サクラマスの生活様式は実にさまざまである。降海率ひとつをとっても、北海道や東北地方では50%以上と高いのに対して、関東以西では数%程度である。彼らには、まだ私たちの知らない生態パターンが数多くあるのではないかと思っている。

だから私は、魚類図鑑の記載を次のように解釈している。「大まかにいうと、河川に棲むものをヤマメ、湖や海でとれるものをサクラマスと呼ぶ」と。そうであれば、川に生息する小さなヤマメを「サクラマスの幼魚」と呼んでも一向にかまわないし、海で取れた大型のサクラマスを「でかいヤマメ」と呼んだとしても、生物学的には何ら問題はないのである。

奥多摩湖産サクラマス
奥多摩湖産サクラマス(体長63cm)。環境しだいで、海に行かなくてもヤマメは大きく育つ

海へ下る準備「銀毛(スモルト化)」のメカニズム

ヤマメのなかには、満1歳の秋から1歳半の春に海へ下るものがいる。こうした個体では、その少し前から体色が銀色に変化し、パーマークが見えづらくなる。また、背ビレと尾ビレの先端が黒くなる。体表の粘膜(ヌル)が薄くなるのでウロコは剥げやすくなり、釣りあげた時に手のひらに張り付くことがある。このようなヤマメは「銀毛(スモルト)」と呼ばれる。銀毛ヤマメの体長は十数センチから20cm程度である。

銀毛ヤマメも河川内にいるうちは、ウロコを剥がすとパーマークを確認できるが、海へ下ってしばらくすると消えてしまう。また、海へ下らなくても、本流域で30~40cmに育った個体ではパーマークが消失することがある。

しかし小沢では、尺ヤマメでもパーマークが残っている。ちなみにパーマーク(parr mark)の「パー」というのは、英語でマス類の稚魚の呼称である。したがって、パーマークは「稚魚斑紋」という意味になる。一般的には1歳半で降海する河川が多いが、東京の多摩川などでは1歳で降海する。そして降海型の個体は、サクラマスと呼ばれるようになる。一方、一生を河川内で暮らすヤマメは、銀毛の呼称「スモルト」に対して「パー」と呼ばれる。こちらは、降海型に対して河川残留型、陸封型などと呼ばれる。サクラマスが多く出現する河川は、太平洋側では利根川以北、日本海側では山口県以北である。

鬼怒川の大ヤマメ
井上聡さんが釣った、鬼怒川の大ヤマメ。明らかに渓流域のヤマメとは異なる姿・サイズだが、ヤマメもサクラマスも実際には同じ種類だ

ヤマメとアマゴの違いと生息域

ヤマメとアマゴについても解説したい。この2つの種類は交雑すると子どもができ、またその子どもも繁殖能力をもつ。このため、朱点の有無は種内の変異にすぎないとする学者が同種説を主張した。

ヤマメとアマゴの違い
ヤマメとアマゴについては、同種か別種かという議論の絶えない時代があった。外見的には、アマゴの体側に朱色の小斑点が散在するのに対して、ヤマメにはこれがない。ただそれだけの違いである

朱点の有無と分水嶺による分布の違い

しかし、大島正満博士が1957年に出版した『桜鱒と琵琶鱒』という本で、ヤマメとアマゴの分布域が分水嶺を境にしてはっきりと分かれていることが明らかになった。その後の遺伝学的な研究の進展などによって、現在この両者は別亜種として扱われることが多い。ただし、1970年代にヤマメとアマゴの人工ふ化養殖技術が確立されて以降は放流が盛んになり、本来の自然分布はかなり攪乱されてしまった。アマゴは、かつて存在した古瀬戸内湖でヤマメの祖先から分化したと推測されているが、朱点をもつようになった理由は明らかでない。また、アマゴの降海型であるサツキマスは、多摩川のサクラマス同様、1歳の秋に降海して翌春に回帰する。

ヤマメ・サクラマスは、カムチャツカから朝鮮半島にいたる大陸沿岸、サハリン、日本列島および台湾に分布し、台湾の生息群は別亜種のサラマオマスとされている。一方、アマゴ・サツキマスの分布域は日本国内に限られ、静岡県以西の本州太平洋側と四国、九州の瀬戸内海側にのみ生息している。また、琵琶湖には朱点をもつビワマスが生息するが、これについては学名が確定していない。

ヤマメとアマゴの分布マップ
ヤマメとアマゴの分布マップ

無斑の「イワメ」は別種ではない

1961年には、アマゴの生息する大分県の大野川水系で、パーマークなどの斑紋をもたないマス類が学会に報告され、「イワメ」という名前で新種登録された。しかしその後、イワメは愛媛、三重、茨城の各県などでも発見された。さらに1965年には、愛知県のふ化場で、無斑のニジマス(ホウライマス)が突然変異によって出現したのである。また、こうした無斑魚は、普通魚と問題なく交配できることも分かってきた。したがって、マス類ではこうした無斑型魚が時おり出現するということが判明したのである。現在では、アマゴ域のイワメはアマゴの、ヤマメ域に出現するものはヤマメの無斑型魚であって別種ではないと結論づけられている。

※このページは『つり人 2019年4月号』に掲載した記事を再編集したものです。

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