同じ「ウエットスーツ」でも、ダイビング用とロックショア用ではまるで別物。ネオプレーンの柔らかさ、セパレート構造、浸水対策――。ロックショアでのウエットスーツや、その周辺の装備に求められる条件を、mazume代表・竹井英一氏の開発エピソードとともに紐解く。

解説◎竹井英一
まとめ◎月刊つり人編集部
株式会社オレンジブルー(mazume)代表の竹井英一さん(57)。埼玉県入間市で生まれ幼い頃から海・川とさまざまな釣りを楽しみ、20~30代はフライフィッシングに傾倒。現在はGTフィッシングが大好き。出版業界からアパレルメーカーの「双進」に転職し、2004年に独立。オレンジブルーを創業するとシーバスアイテムほか多彩なウエアが人気を博す。
目次
ロックショア用のウエットスーツに必要なもの
ウエットにもいろんな種類がありますが、ダイビング用のウエットが一番釣りに向いていないと思います。手が下を向いて上がりにくくて、キャストしにくい。サーフィン用はまだいいんですけどね。うちのネオプレーンは非常に柔らかくて動きやすい。
それとフロントジッパーのパンツ(ロングジョン)を作って、ジャケットを被せて着るセパレート式になっています。その理由は温度調整をしやすくしたいからです。春・夏・秋の3シーズンに対応できる3点セットを貫いていて、厚さ4mmのソックス、4mmのロングジョン、3.5mmのウエットジャケットを組み合わせます。暑い時期はジャケットを脱ぐなど温度調整がしやすいのと、水も浸入しにくいんです。

躊躇なく水に入れるウエットシステムの設計思想
僕は高巻きや崖をへつるより、水側からアクセスできる磯であれば泳いだほうが安全だと思っています。その時に「濡れたら嫌だな」という感覚にならず、躊躇せず水に入れるようなウエットシステムにしたかった。不安定な足場でファイトをしている時など、波にさらされる場面もあります。時には飛び込んだほうが安全な場合もあって、あらかじめ飛び込む場所を決めておく。何かあった時に躊躇なく行動できるウエアです。
とはいえ、濡れれば後の釣りに影響します。できるだけ水が浸入しにくい工夫も施しています。ジャケットの手首はきつくしている。ファスナーも付けない。水が入らないことを最優先にしています。一番水が入りやすい首周りはシングルスキンで固めて、ギュッと締められる構造です。一体型のウエットスーツは上から水が入ると全身が一気に濡れますが、パンツとジャケットが分かれて重なっていることで浸水率は低くなります。また、ロングジョンとジャケットが重なる部分はネオプレーンが7.5mmの厚さになって、体温が低下しにくいんです。縫い目も水が浸入しにくい縫い方をしています。粗悪なウエットは縫い目が全部貫通していて水が入ってしまいます。
レインウェアと組合せるのがおすすめ
完全に水を防ぐわけではないんですが、できるだけ入らないでほしい。体温をなるべく奪われない構造になっています。ヒラスズキを釣りに行って水に入って、北風がばあっと吹いたりするとかなり寒くなります。体温が低下しないユニフォームを身にまとうのが、無事に帰ってくるためのコツなんです。推奨しているのはウエットの上からレインを着ることです。ウエットだけだと気化熱で冷えますが、レインを着ているとそれを防いでくれる。体感温度が劇的に変わります。
柔らかいネオプレーンが実現するサイズ対応と動きやすさ
お金の話になってしまいますけど、柔らかいネオプレーンは高いんです。でも我々の製品はフルオーダーのウエットではなくて、店頭に吊るされる既製品になります。だからネオプレーンに柔らかさがないとサイズのアジャストができない。柔らかさが着やすさとサイズ対応につながってくるんです。
動きやすさ、着やすさ、温度調節のしやすさ、そして水が入りにくいこと。矛盾した要素が積み重なるので難しいんですけど、我々が作っているウエットシステムは、最大公約数を取れているんじゃないかと思っています。
mazumeウエットスーツが完成するまでの経緯
このウエットを作るにあたっては橋本景さんのノウハウが大きかったです。彼はウエットスタイルでの釣りを自身のテーマとしていて、セパレートタイプが欲しいという意見をくれました。
スパイクもウエットスタイルも、我々に最初の骨格を与えてくれたのはヒトちゃん(鈴木斉さん)とケイさん(橋本景さん)の存在が大きいですね。2人はロックショアの黎明期から釣りを築き上げてきたし、単純に言えばクレイジーです(笑)。歩いている距離や歩くスピードが違う。そんなに頑張って行かなくてもいいんじゃないかと思うくらい歩くのが速いし、ヤバい所にも行く。
何度も2人の後をついていって釣りをしたことがあるんですが、ケイさんは僕の体力のマージンを見てくれました。けどヒトちゃんはそうではなかった(笑)。彼の後ろをついていくのは本当に怖いです。何回か「これ以上先は無理だからよろしくどうぞ」って言ったこともあります。「写真を撮ってほしいから来て」と言われても「絶対そこには行けません」みたいな。それでも彼は彼なりのマージンがあってやっているし、魚を引き出す能力も高かった。
余談ですけど、ヒトちゃんって1日の釣りを組み立てるのが本当に上手くて、「6時にはこの磯、8時にはこの磯」というプランニングがすごく緻密なんです。風が変わればすぐに対応を変えて、二の手三の手も
すごく持っている。だから歩く距離も伸びるし、釣れるまでやるし、翌日の条件がよければ夜討ち朝駆けも余裕で、寒かろうが何があろうと出ていく。そういう釣行を共にして鍛えられました。
新作のウエットでこだわった点のひとつが、用の足しやすさです。釣り人は磯の上に立ちますし、陸上も頻繁に歩きます。だからトイレのしやすさは重要な設計要件なんです。ロングジョン、ウエットジャケット、レインジャケット、ライジャケとフル装備を着ていても、全部前からファスナーを開けられます。レインもダブルファスナーなので下から開けることができる。つまり、脱がずにトイレまでたどり着けるシステムを作っているんです。
フローティングベストやバッグには機動力を
―― ウエット用のフローティングサポートベストがありますがとても薄いのと、ポケットを一切付けていませんね。
すべては機動力のためですね。前面にポケットがないことでへつりやすいし、オーバーハングした所も動きやすい。フローティングサポートベストはアタッチメントシステムで使うことを想定しています。
マズメの固定式ライジャケは7.5kgの浮力を目安に作っていますが、フローティングサポーティングベストの浮力は5.5kgです。なぜならウエットタイツ自体も浮力を持っている。7.5kgの固定式ベストを着て波を受けると体がボコンと浮きすぎて、逆に危ないことがあります。浮き過ぎず泳ぎやすい設計です。
ベルトはバックルではなくマジックテープのみですが、しっかり固定できるしマジックテープの範囲内で容易に調整できます。重ね着をした時など、ちょっとした微調整がしやすいのもこの構造の利点ですね。
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水抜けのよいアタッチメントバッグ
アタッチメントバッグはアタッチメントベースベルトと組み合わせて使うんですが、バッグを前後に回し込むことができるのが魅力です。波を観察しながらルアーを素早く交換できる。
ツインファスナーなので開閉が楽で、仮止めのマジックテープで留めておくこともできます。ルアーの流出がそれほど気にならない場所では仮止めのままでいられる。
ベースベルトはバックルではなくマジックテープのみですが、しっかり固定できるしマジックテープの範囲内で容易に調整できます。重ね着をした時など、ちょっとした微調整がしやすいのもこの構造の利点ですね。
スパイクシューズとウエアのメンテナンスの心得
―― スパイクシューズやウエットウエアのメンテナンスの心得として、何かアドバイスはありますか?
水洗いに尽きます。その日のうちに真水で洗って、日陰で干してください。できればファスナーだけは潮溶かしスプレーを使うといいと思います。ファスナーはプラスチック製にしていますが、塩噛みを防ぐのはなかなか難しい。できれば靴は真水に浸けておいてほしいですね。リールのスプールと同じで、塩抜きをしてもらいたいですね。スパイクシューズも上側のフックの紐止めがアルミ製なので、靴紐を外してしっかり洗ってほしいですね。潮が溜まると水を入れてもなかなか落ちないんですよ。
竹井さんが語るウエットスタイルの魅力と製品づくりの原点
―― 竹井さんが思うウエットスタイルの魅力を教えてください。
水との戯れ度合いが、これ以上ない釣りだと思います。ウエーディングの喜びもやはり水との接点にあると思いますが、ウエットはその最上の世界に行けると思う。波に揉まれることへの恐怖が「気持ちいい」という感覚に変わっていくのが、ウエットの世界かなと。天気を読む力、潮を読む力、そして身体の対応能力。そこまで含めてロックショアの本当の醍醐味だと思うんです。苦労してたどり着いたポイントで釣れると凄く嬉しいですしね(笑)。
現場での日常会話がそのまま製品会議になる
―― 製品のアイデアは、アングラーとの対話から生まれるのでしょうか?
大切なのは、みんなと同じ体験をすることです。ヒトちゃんと対馬で3泊4日、4泊5日と釣りをして帰ってくると、ネタを拾ってくるわけですよ。「次からこうしたらよかったね」「こういう時はこうだったね」というフィードバックが製品に反映されていきます。製品会議はほとんどそれだけといってもいい。会議室での会議ではなくて、現場での日常会話が製品会議なんです。それがうちの会社のいいところだと思っています。
社員はプライベートの休日もほとんど釣りをしています。東京の社員は湾奥の河川のそばに住んでシーバスをしょっちゅう釣っているし、福井の社員は九頭竜川が大好きです。それと東京にも福井にも船があります。潮や風の状況を見てよさそうであれば出船します。そこを基軸にそれまでに終わらせるべき仕事を済ませて潮風中心に仕事を組み立てることも多々あります。自分の体験を製品にフィードバックできる。それが売れるものになれば、月日を決めて企画会議を開く必要はあまりないんです。
※このページは『つり人 2026年6月号』に掲載した記事を再編集したものです。



