「サケって当たり外れが大きいですよね」と聞かれることがある。確かにスーパーのサケは、脂がギトギトに乗ったものもあれば、驚くほどあっさりしたものもある。同じ「サケ」なのに、なぜこれほど味が違うのだろう。
私はカナダでキングサーモンやギンザケを釣り、毎秋、北海道のオホーツク海でシロザケを釣ってきた。魚をさばいて食べ比べているうちに気づいたことがある。「サケ」とひとことで言っても、実はまったく違う魚たちが、その名前の下に集まっているのだ。

写真と文◎山根和明(株式会社つり人社代表)
つり人社代表取締役社長、日本釣振興会理事。大学時代から「月刊つり人」編集部に携わり、2006年編集長、2015年より現職。30年以上にわたり釣りメディアの企画・編集に携わる。著書に『カッパのいない川で子どもは育つか』(2026年)。個人note「それ、ヤマネに聞いてみよう。」では、釣りや自然、編集、仕事など、読者から寄せられた質問に答えている。
サケという名前は、実は何種類もの魚を指している
一口にサケといっても、キングサーモン(別名チヌーク)、シルバーサーモン(別名コーホー)、ピンクサーモン(和名カラフトマス)、レッドサーモン(和名ベニザケ、別名ソッカイ)、チャムサーモン(和名シロザケ)などがいる。日本で単に「サケ」といった場合は、一般にシロザケを指す。
カナダやアメリカでは、このシロザケに「ドッグサーモン」というありがたくない異名がある。川に入ってきたオスは鼻が曲がり、犬の顔のようになるからという説と、犬のエサにされたからという説がある。
北米の釣り人が「一番うまい」と言うサケ
北米ではサーモンフィッシングが盛んで、私も現地のガイドたちに聞いたことがある。釣りのターゲットとして一番人気なのは、やはりキングサーモン。では、食べて一番美味しいのは何か。多くのガイドが挙げたのがコーホー、つまりギンザケだった。次いでキングサーモンかレッドサーモン(ベニザケ)。残念ながら、日本でおなじみのシロザケやカラフトマスは、彼らにとって積極的に持ち帰りたい魚ではないらしい。
私自身、カナダではキングサーモン、コーホーサーモン、ピンクサーモンを釣ったことがある。北米の釣り場でキングサーモンの人気が高いのも、実際に現地で竿を出してみると納得できる。名前のとおり、ケタ違いに大きくなるからだ。ざっくりとしたサイズ感でいえば、コーホーが60〜80cm、3〜5kgなのに対し、キングサーモンは80〜100cm、10〜20kg。120cm、30kg級という大ものもいる。ちなみに私が毎秋、北海道で釣っているシロザケは60〜75cm、2〜4kg台が中心だ。キングサーモンは文字どおり、ケタが違う。
太平洋のサケとは別系統のアトランティックサーモン
ここまで挙げたのはいずれも太平洋側に分布するサケの仲間だが、スーパーの刺身売り場でおなじみのサーモンには、まったく別の系統の魚もいる。アトランティックサーモンだ。名前のとおり北大西洋に生息するサケで、日本で流通しているものはノルウェーなどで養殖されたものが多い。脂がたっぷり乗り、生食用として刺身や寿司で売られている。
スーパーの「秋鮭」は、実はこの魚だった
例年9月になると、スーパーの鮮魚コーナーに「秋鮭」が並ぶ。北海道では、この時期のシロザケを「秋味(あきあじ)」とも呼ぶ。この時期の秋鮭は生の切り身で売られていることが多い。この秋鮭こそ、先ほどのシロザケである。
シロザケは、スーパーの売り場でも季節感の強い魚だ。秋になると生の秋鮭が並び、年末が近づけば塩蔵した新巻鮭も姿を見せる。昔から日本人には最もなじみ深いサケなのに、一年中同じ姿で売り場に並ぶ魚ではない。
一年中並ぶ塩鮭の主役は、養殖のギンザケ
一方、一年を通してスーパーの鮮魚コーナーでよく見かけるのが塩鮭である。その代表がギンザケだ。高級なデパ地下などは別として、一般的なスーパーで売られているギンザケは大半がチリなど海外の養殖ものだ。とにかく脂がギトギトに乗っている。
実は、牛丼チェーンなどでおなじみの「焼鮭」にも、ギンザケやサーモントラウトが使われている。私たちは家庭でも外食でも、知らず知らずのうちに脂の乗った養殖のサケ・マスを食べ慣れているのである。
この養殖ギンザケを食べ慣れている人にとっては、天然のシロザケの脂は物足りないと感じられるだろう。
そして近年は減少傾向にあるものの、ベニザケもたいていのスーパーにはある。こちらはロシアやアラスカなどで漁獲された天然ものだ。程よい脂がのっている。
なぜベニザケだけ「激辛口」まであるのか
このベニザケの売り場をよく見ると、「甘口」「中辛」だけでなく、「辛口」、なかには「激辛口」と書かれた商品まである。もちろん唐辛子が利いているわけではない。塩辛いのである。
では、なぜベニザケには、これほど塩辛い商品があるのだろう。ベニザケという魚が、もともと塩辛いわけではない。日本に古くからある塩鮭の食文化と関係している。
冷蔵・冷凍技術が発達する以前、サケを長く保存するには塩が欠かせなかった。たっぷりと塩を使って保存性を高めたサケは、当然ながら非常に塩辛い。一切れあれば茶碗一杯のご飯が食べられる。そんなサケが当たり前だった時代が長く続いた。
現在は冷蔵・冷凍技術が発達し、保存のために大量の塩を使う必要はなくなった。食生活の変化や減塩志向もあり、塩鮭全体では塩分を抑えた「甘口」が主流になっている。それでも昔ながらの強い塩味を好む人がいる。その需要があるから、ベニザケには「辛口」や、さらに塩を強く利かせた「激辛口」が今も商品として残っているのである。
北海道では、一尾を余さず食べる
北海道では、秋鮭はソウルフードといっていい存在でもある。石狩市には明治13年創業の鮭料理専門店「金大亭」がある。以前、つり人社の社員研修旅行で訪れたことがあるが、出てくるのは身だけではない。頭、骨、皮、内臓まで、一尾のシロザケを文字どおり余すところなく食べる。脂の多い少ないだけでは語れないほど、シロザケは北海道の食文化に深く根付いた魚なのだ。
ちなみに私は、スーパーでサケを買うならベニザケの甘口が一番好きだ。しかも切り身より、アラがあればそちらを選ぶ。安いうえに脂の乗った腹身やカマが入っていることもある。鮮魚コーナーで見つけると、釣り人よろしくリアクションバイトで飛びついてしまう。
同じシロザケでも、獲れる時期で味がまるで違う
もうひとつ、時おり「時鮭」という高価なサケを目にすることがある。「トキシラズ」とも呼ばれる。これも実は天然のシロザケだ。
普通のシロザケが秋に産卵のため北海道沿岸へ戻ってくるのに対し、時鮭は春から初夏にかけて北海道沿岸などで漁獲される、まだ成熟していないシロザケである。実はこの時鮭、北海道の川に帰る魚ではない。多くはアムール川をはじめ、サハリンなどロシア側の河川を母川とするシロザケが、自分の生まれた川へ戻る回遊の途中、たまたま北海道沿岸で漁獲されたものなのだ。生殖腺が十分に発達しておらず、身に脂が残っているので美味しい。しかも漁獲量が少ないから、値段も高い。
沖で釣ったシロザケは、沿岸の魚と別物だった
私は毎秋、オホーツク海へシロザケ釣りに行く。船で沖合へ出て、100〜200mダチをねらう。沿岸の定置網に入るシロザケは、産卵のため岸へ近づいてきた魚なので、成熟がかなり進んでいる。メスなら卵、オスなら白子が大きくなり、海で蓄えたエネルギーは成熟や、その先に待つ遡上に使われていく。当然、身の脂も落ちていく。ところが、沖の深場を泳いでいるシロザケは、沿岸まで来た魚ほど成熟が進んでいない。身にもまだ脂が残っている。これを釣ってすぐに処理して食べると、スーパーで買った秋鮭とは印象がまるで違う。
ただし、沖で釣ったシロザケでも、養殖ギンザケの脂とは質が違う。普段ギトギトに脂ののったギンザケを基準にしている舌でシロザケを食べれば、やはり物足りなく感じてしまうだろう。シロザケがハズレだったわけではなく、比べている基準がそもそもずれていたのである。

「サーモントラウト」の正体
さらに話をややこしくするサケがいる。スーパーの刺身売り場や回転寿司でおなじみの「サーモントラウト」だ。
脂がたっぷり乗り、鮮やかなオレンジ色の身をしている。名前だけ聞けば、これもサケの一種だと思うだろう。ところが、「サーモントラウト」という魚種がいるわけではない。商品名、あるいは流通上の呼び名で、その正体は主に養殖されたニジマスである。
ニジマスと聞けば、管理釣り場で釣れる20〜30cmくらいの魚を思い浮かべる人もいるだろう。しかしニジマスには海へ下るものもいて、大型になる。北米では、こうした降海型のニジマスをスチールヘッドと呼ぶ。
学生時代、ニジマスの燻製に明け暮れた
私は学生時代、燻製作りにハマっていた。なんせ学生だから時間はいくらでもある。芦ノ湖へニジマスを釣りに行き、燻製にして美味しい40cm以上を釣るまでは帰らない。なかなか釣れず、2晩も車中泊したことがある。
ようやく釣った50cm前後のニジマスを、まずソミュール液に漬ける。塩水にハーブや香辛料を加えた、燻製を作るための漬け込み液だ。一晩漬けたら、今度は1日か2日、陰干しにする。そして身の表面がしっかり乾いたところで、スモークチップを使って半日から一日燻す。
こうすると、いわゆる「スモークサーモン」ができる。これを友人や知人に食べさせると、誰もニジマスだとは思わなかった。「これ、本当にニジマス?」と驚かれたものだ。今になって考えてみれば、それほど不思議な話でもない。スーパーの刺身売り場で「サーモントラウト」として売られている魚も、その正体は養殖されたニジマスなのだから。
しかも、スモークサーモンの原料も一種類ではない。スーパーの売り場には天然のベニザケを使ったものもあれば、養殖のサーモントラウト、養殖のアトランティックサーモンを使ったものもある。同じ「スモークサーモン」という名前でも、中身の魚は違うのである。
なぜ「サーモン」は生で食べられるのか
もうひとつ、これらの養殖サーモンには見落とされがちな背景がある。
天然のサケ・マス類には、アニサキスなどの寄生虫がいることがある。そのため、生食する場合には適切な冷凍処理などが必要になる。ちなみに北海道には、サケを凍らせて食べる「ルイベ」という伝統的な食べ方もある。新巻鮭のような塩蔵、あるいは燻煙は、そもそも冷蔵・冷凍技術が乏しかった時代からある、鮭を長く保存するための技術だ。
一方、刺身や回転寿司でおなじみのアトランティックサーモンやサーモントラウトなどの養殖サーモンは、管理された環境で人工飼料を与えて育てることで、天然魚に比べて寄生虫のリスクを大幅に抑えている。私たちが「サーモンは刺身で食べる魚」と思うようになった背景には、こうした養殖技術の発達がある。
「当たり外れ」の正体
さて、最初の話に戻ろう。
「サケって当たり外れが大きいですよね」
ある意味では、その通りである。
秋になると生で並ぶ天然のシロザケがある。一年中売られている脂たっぷりの養殖ギンザケがある。天然のベニザケには甘口もあれば、顔をしかめるほど塩辛い激辛口もある。高級品の時鮭もシロザケなら、刺身や寿司で食べる「サーモン」には、養殖のアトランティックサーモンもあれば、ニジマスであるサーモントラウトもある。
しかも同じ「脂がのっている」でも、養殖ギンザケのこってりした味わいと天然時鮭のあっさりした味わいでは、印象がまるで違う。さらに、生食のしやすさや寄生虫リスクまで、養殖か天然かで違ってくる。
私たちは、それらを全部ひっくるめて「サケ」と呼んで食べている。種類が違う。天然か養殖かも違う。成熟度も違う。脂の質も違う。生食する際の寄生虫リスクも違う。そして塩加減まで違う。
それなら、食べるたびに味の印象が違うのは当然だろう。
サケの当たり外れが大きいのではない。そもそも、同じものを食べていないのだ。
次回|なぜ「天然もの」より養殖魚のほうが美味しいことがあるのか
脂ののった養殖ギンザケに慣れた舌が、天然のシロザケを「物足りない」と感じる。
その逆転はサケだけの話ではありません。養殖魚と天然魚の味わいの違いを探ります。
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